騎士は戦いに赴くもの-74113
帝都の一角で、暴風が荒れ狂っていた。赤い髪の暴風が。
「放せ、今からレオンのやつらに目にものいわせてやる」
エースは、深淵から無理やり出ると、レーペルデイン家の帝都の屋敷に飛び込み、魔鎧騎のハンガーに飛び込んだ。エースのグラムはアリサが調整中。なので、レーペルデイン家の騎体に乗り込もうとした。もちろん、周りの家臣たちは止めようとする。
「ええい、放せ、こうしているあいだにもメイシアがなにをされるか!」
家臣たちは、慣れた様子で動く。
「若様御乱心、対応、プランBでいく。油断するな」
「了解」
そういうと、家臣たちは、決死の覚悟でエースの前に立ちはだかった。秘蔵の対エース用の武具だけが彼らの武器だ。
「さあ、エース様。ならば、我らを倒してその屍の上をお通り下さい。貴方にできるなら、ですが」
彼らは、侯爵家での礼装を脱ぎはなった。その下から現れたのは人の顔が描かれたTシャツ。エースは、シャツをみてたじろいだ。シャツには、メイシアの肖像画が描かれていたのだ。
「ひ、卑怯だぞ。私にメイシアを傷つけさせようとは」
「卑怯で結構。若の為なら寧ろ栄誉。まさか、メイシア様を傷つけるなど、できますまい。さあ、存分におやりなさい。いくら、メイシア様の魅力の万分の一しか美しさ、気高さを描写できてない絵ですが、その似姿、倒せますかな」
「くっ、所詮は絵、メイシアではない」
そういいながらもエースは、動けない。メイシアの形をもつものを打てないでいるのだ。
そうしている間に、ひとりの男がハンガー内に入ってきた。それを見たレーペルデイン家の家臣たちは、ほっとため息をつく。彼らは、時間稼ぎに成功したのだ。彼が、エースを御せる人物がやって来たから。
「ざまないな。エース」
金髪碧眼、端正な顔だちの若い男。つなきのような服に身を包んだ、しなやかな豹のような男。
「いや、よくやったといえるかな、エース。いや、御兄さん?」
「お前に御兄さん呼ばわりされるつもりはない。アルベルト? アルベルトか」
エースは厳しい表情で返事をした。アルベルトは、厳しい表情で対峙する。
「ああ、そうだよ。エース。まあ、細かいところはどうでもいい。父がよんている。連れていくから、こい」
と、アルベルトはいいながらも、エースの手を強引につかみ、引っ張る。
「おい、わかったから、引っ張るな」
「時間がないんだ。急ぐそ」
そういい、アルベルトは、エースを引きずりながら、外に出る。そして、エースを放り出した。それから、剣を抜き構える。
「我が剣、ダインスレイブよ、我が身となりて、空を駆けよ」
魔力がながれ、剣か魔力力場に包まれる。そして幾らかのパーツに別れてアルベルトをつつみ、人の背丈の三倍弱の鎧となる。
魔装鎧騎ダインスレイブ。遺失技術のひとつであり、帝国が再現しようとしている騎体のひとつである。
アルベルト=ダインスレイブは、エースをかかえた。
「おい、まてよ、まさか、」
「ウインドライブドライ」
魔力や、魔法印の容量を食う、ただ、飛ぶためだけの魔法を発動。風を切り、一気に帝国城まで飛ぶ。
次の瞬間、帝国城の軍事区画、空軍のエントランスにいた。エースは、エントランスに投げ出される。そのとなりには、ダインスレイブを解除し、剣形態に戻したアルベルトが立っていた。
「怖いぞ、アルベルト。いきなり飛ぶな」
「エースも、ダインスレイブ使ったことがあるから、大丈夫だと思った。それに、ちゃんと慣性制御や空力制御はしている。そんなことより、この先でちちが待っているぶひ。早くいくぞ」
「あ、ああ」
アルベルトは、エースをつれて、空軍の作戦指令室に入る。そこには、空軍のスタッフと皇帝、キシリアがいた。キシリアが、まず、口火をきった。
「メイシアちゃんは、レオン獣人共和国のほうに向かったわ。私の魔眼で追尾。首都近くの施設に入り、カプセルにいれられたのが確認できたわ」
疲れた様子で伝えるキシリア。その報告を聞き、エースは、青ざめた。
「まさか、抑制剤を」
キシリアは、頷く。
「そのようね。ただ。ドラゴン化して、待機しているから、今のところ吸収はしていない。でも、時間の問題ね」
ここで、アルベルトが質問する。
「ところで、抑制剤ってなんだ」
「早い話が魔薬だ。依存症にしてコントロールしようってところだな」
それを聞き、怒りを露にするアルベルト。しかし、そんなことより、と、皇帝が怒鳴った。
「はっきりいって、メイシアが薬物中毒になってもいい。治療出来ないことはない。か、ドラゴンの状態が続くと、形態が固定されてしまう。それはまずい。ヤシマ皇国の再現になる」
この場の全員が青ざめた。ヤシマ皇国は、北にあった大国である。その皇族が、ドラグナーとして周辺に魔物や、ダンジョンを殲滅した。連日のように。そして、あまりの能力の酷使に身も心もドラゴン化。暴走して皇国をおそい、滅ぼした。
「事態は一刻を争う。皇帝としての命令だ。エース、レオン獣人共和国に赴き。ドラクナーを静めよ。そのためならば、帝国の可能なかぎりの支援をする。今より始めよ」
「勅命、つつしんでお受けします。では、ビックリロングスタッフ、アルカディアの使用を許可していただきます。キシリア様、転移魔法の準備を。アルベルトは、アリサ姉を呼んできてくれ。出発するから、と」
「わたしを顎で使うとはな。まあ、いい。わかった」
アルベルトは、出ていく。エースは、キシリアと共にアルカディアに、むかった。
二時間後、アリサたちとアルベルトは、アルカディアの基部にいた。アルカディアは、本体部、魔法の増幅、精度機能の尖塔と、実際の魔法発動部にあたる地下ホール、動力部にあたる魔石柱部分に分けられる。エース達がいるのは地下ホール。この中心部には、魔法陣を書きこんた複数の円盤を重ねた積層型複合魔法陣、いや、魔法回路が、魔磑騎によって埋め込まれていた。そして、転移魔法の主導術士はキシリア。彼女は疲れた様子を隠さず文句を言った。
「全く、アルの台詞じやないけと、わたしをこきつかって。メイシアちゃんの為じゃなかったら、わたし、潰れているわよ」
「なにか、埋め合わせしますよ、キシリア様。所で、座標の調整は大丈夫ですか?」
「私を誰だと思っているの。千里の魔眼を持つ私が、失敗するわけないでしょう」
キシリアの瞳には、魔法印が輝いてきた。魔力さえあれば、あらゆる距離、空間を無視して見ることができる魔眼が彼女の武器だ。最も、魔力を極端に消費すること、魔眼が発動しているあいだは、周囲の魔法に影響を与えることが欠点だが。
元々生まれつき盲目のキシリアは、イモーダルの実験により、視力を得た。しかし、術式か、当人の資質かはわからないが、魔眼と言えるほどの能力をえたのだ。常日ごろは、魔力と能力を押さえるために抑制の魔道具を身につけている。しかし、今は、抑制を外し、その能力を遺憾なく発揮している。
そんな中、アルベルトが、アリサたちを連れてやってきた。
「エース様、一体何やっているんですか」
「非常事態だ。メイシアがさらわれた。敵はレオン獣人共和国。移動距離を稼ぐために転移魔法を使わせてもらう。キシリア様が準備していらっしゃる。十分以内にグラムと騎車を三番フロアに移動。転移する。急げ」
「何勝手に決めてるの。第一、お金はどうするの。それに、帝都インフラ駆動一ヶ月分の魔力もいるのよ。そうでなくとも、あなたのグラムの整備も物資の補給も終わってないでしょう? 」
「詳しいことは省くが、皇帝陛下から勅命を授かった。資金は考えなくていい。補給は1192砦で行う。
転移魔法の魔力も補った。あとは、私達だけだ」
「え、もう準備しているの。 わかった。エースも早く来て」
全員どたばたと三番フロアに向かう。エースはその様子を見てからキシリアに尋ねた。
「あと、どれくらいで発動できますか」
「もう、いいわ。いつでもいいからいきなさい」
「感謝します。では、十分後に発動して下さい。では、いってまいります」
キシリアの返事もそぞろにエースはアリサたちのところにいく。
エースは、アリサたちのところにきた。すでに、エースの愛機と騎車、アリサたちがいた。
「300秒後に転移魔法を発動します。座標は、1192砦前多目的広場。カウントダウン開始。299、298、297、……」
音声伝達魔法のカウントダウン。エースは皆に言う。全員、搭乗せよ、と。了解の返事の声と共に皆のこむ。同時にエースは、グラムにと乗り込もうとした。が、あるごとに気づく。
「何してる、アルベルト」
「見ての通りだが。問題あるかい」
ある。エースはそう言った。アルベルトは、軽鎧を身に付け、巨大なリュックを背おっている。
「お前、皇太子だろう。公務はどうする。第一、お前呪いは、どうする」
「問題ない。父上の許可は得た、ぶひ」
と、言った次の瞬間、金髪の美男子は、一瞬にして金髪の美オークになった。鎧は魔力反応合金製なのか、オークのサイズに変わっている。
エースは、その姿を白い目で見る。
「どこが大丈夫だ。オークの呪いは解けてないぞ」
「当たり前ぶひ。ぶひはアルベルトとぶひぶひぶひの融合体ぶひ。でもアルベルトが主体ぶひ。と、帝国魔道師どもは言ったぶひ。今のところ安定してるぶひ。暴走しないぶひ。むしろ、メイシアを助けに行けないと逆に不安定になって危険だとさ。だから、お前についていく。幸い、アルベルトの姿に短時間ならなれるみたいだ。身体能力は、ぶひぶひぶひのほうが高いぶひ。とにかくついていくぶひ」
と、そのままアルベルトは、騎車の中に入る。なかで、悲鳴が起こるが、すぐに収まる。そして、騎車の中から、アリサが顔を出し、疲れた顔で怒鳴った。
「……いろいろ言いたいことは有りますが、とりあえずグラムに騎乗して下さいもう、時間がありません」
アリサの、有無を言わせぬ口調に、エースは言葉もなくしたがった。グラムの上にある狭い出入口からから、騎士操作槽にはいりこむ。あぶみに足を突っ込み、両側にある操作悍を握り締める。そして魔力を両手から流しこみ、呪文を詠唱する。グラムの中枢にある宝玉が反応して魔法を起動。魔力反応合金に誘導され、グラムの内部が魔力力場に満たされる。そして、身体強化の応用で動かす準備が出来る。
「こちらエース、グラム起動」
同時に転移魔法のカウントダウンも終わる。
「4、3、2、1、転移魔法、発動します」
転移魔法の発動と同時にエースたちの周囲の景色がかわる。林の中にある石だたみの広場。更に道が二つつながっている。そして、四匹のトロルがいた。
エースは、間髪いれず、グラムの右手を右肩後ろに伸ばした。そして、ホルダーに固定されてあるクレイモア=スタッフを掴ませる。ホルダーが解放されると同時にグラムは走り、トロルに向かう。そして、クレイモア=スタッフをトロルの頭に振り下ろす。頭部と、その中の魔石が砕けちり、赤い血が飛ぶ。更に残りのトロルに接近。横一文字にトロルの頭を吹き飛ばす。二匹は、対応できずに倒れた。しかし、残りの一匹が赤い一つ目をグラムに向け右手の鉈を振りかざし、振り下ろす。グラムはその動きをかいくぐり、更に下からクレイモア=スタッフを切り上げる。トロルの腹から頭がたちきられる。
「エース様! お怪我は!」
バーンの慌てた声がする。エースは、構わすグラムに騎車の引き棒を持たせた。そして走り出す。
「エースさま、あまり無理すると、グラムが壊れます! ただでさえ、調整終わって無いんですから!」
エースは、グラムを砦に向けて走り出す。
「トロルが四匹もたむろしているんだ! 多分近くにダンジョンが出来ている。砦に急ぐ。場合によっては戦闘になる。戦闘準備!」
グラムは騎車を引き走る。近くの砦まで。




