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運命は突然で必然なもの

 エースとメイシアは、深淵(アビス)の施設の中で朝食をとっていた。二人は、沈黙の中、黙々とパンやハム、サラダを食べていた。


 朝食を終えてもしばらく沈黙が続いた。しかし、ここでエースが、意を決して話しかけた。


「メイシア、俺は今日は帝都に一日中いる。だから、もし何か要望があれば言ってくれ。大概のことはできる。いや、してみせるから」


 メイシアは、びっくりしてエースを見た。そして、悲しげな顔をする。


「にいさま、……」


「もともと、いずれは話さなければならないことだった。早くなったにすぎない。それに、メイシアのことを第一に考えているよ。安心してくれ」


「にいさま、」


「必ず俺はこの世界を、去る。でも、それまでは、メイシアのために生きる。お前の幸せの障害はすべて取り除く」


「にいさま、……一つ約束してください」


「なんだい」


「この世界を去るときは、必ず教えて下さい」


「わかった、約束する」


 ここでメイシアは、笑顔を見せた。エースは、笑顔になる。内心、メイシア教の教典を朗読したい気分であった。ちなみに、メイシア教の教典は、ただただ、メイシアの素晴らしさを羅列し、称えるだけのものである。


「では、にいさま、」


 そのつぎ瞬間、メイシアを積層魔法陣の輝きが包み込む。積層魔法陣はメイシアの胸元に集まり、メダル位の小さく、輝く白い魔法印に変わる。


「メイシア!」


 エースは、立ち上がるが、何もできない。


「にい、さま、レオん,共和、ごく、に、いき、まず。助け」


 メイシアは、そう言い残すと、紅いドラコンへと姿を変えた。本来、急激な竜化は、体に負担がかかる。それだけでも、エースの怒りは高まる。


 メイシアドラコンは、ルビーのような体をめぐらせ、天井の一点を見つめた。そして、高位魔法、ファイヤランズドライを打ち出す。炎の槍は、天井を焼き周りに熱波をおくるが、微かにひびが入る程度だった。魔力反応合金と、鋼鉄製の五重装甲は、簡単には、破れない。しかし、紅いドラコンは、一時力をためる。そして、炎系魔法、ファイヤランスドライと、氷系魔法、アイスランスドライを交互に連射した。爆音の連打と共に数秒がすき、天井には、外までのまっすぐな穴が出来た。


「メイシア!」


 エースの言葉に、ドラコンは、顔をむける。エースには、そのドラコンの顔が優しく微笑んだように感じた。そして、ドラコンは、飛び上がって穴にはいり、外に出て行った。そのあとはじめて、エースは、警報が鳴り響いているのに気かついた。が、エースは、ただ、立ち尽くすばかりであった。


 メイシア=ドラコンは、外に出ると、空へと羽ばたいた。そして、レオン共和国の方を向くと、一直線に加速し始めた。


 時間もかからず、レオン共和国の首都、そこから少し離れた建物に着地した。そこには、レオン共和国議長、キングがいた。2メートル近い長身に、鍛えあげられた筋肉の塊。それを上質の礼服で包んでいる。髪は後ろで束ねており、瞳は大きく、強い意志を宿している。その手には、贖罪の令剣を持っていた。彼は、ニヤリと笑う。


「よく来たな、我が花嫁」


 そう言い、キング議長は、建物の中にメイシア=ドラコンを誘導した。中には、巨大な鋼鉄と魔力反応合金製の球体が堅固に設置されていた。なかには、液体が満たされている。メイシア=ドラコンは、上部にある入り口から、この中に、入った。そして、その中で丸くなる。防護服を着た作業員が上部の扉か閉じ、多数のロックをかける。その中で、キング議長は笑っていた。


「これで、ドラコンは、俺の物だ」


「そううまくいくかしら」


 キングの隣に、小柄なローブ姿の女性が現れた。深く被ったフードの奥から声がした。


「そのためにお前に助けを求めたのだよ、教授。魔物を捕獲できる檻がほしかったのでな」


「それでも、ドラコン相手では長くは持たない。せいぜい、一分持てばいいものだ」


「それなら十分だ。あのなかには、純度が高い魔薬が入っているからな。暴れれば体内に吸収されるだろう。中毒死しようが、依存症になろうが、構わん。まあ、ドラコンだ。生命力からしたら、中毒死はないだろう。ならあとはおもいのままだ」


「……しかし、そううまくいくかな。彼女は、さっきからずっと動かないな」


「そうだな。なぜだい、教授」


 キングは笑って聞いた。教授は、不機嫌そうな声で呟く。


「ドラコンは、防御力も高い。動かないで守りに入って要るのだろう。あのままなら、かなりのあいだ耐えられる」


 キングは、大声で笑った。


「はは、たとえ防御力が高いとしても、長くは続かん。いつまでもドラコンになれる訳にはいかんからな。まあ、いい。時間の問題だ」


 キングは、笑ってその場を離れる。このあと、共和国議会という名の独演会があるのだ。その後ろ姿をみて、教授は呟く。 


「そう、うまくいくかしら」


 彼女は、巨大な球体をしばらく見上げていたのだった。



 















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