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機密施設はフリーぱすなもの

 帝国中央宮。そこから南側の一角に、“深淵”へとつながる地下通路がある。“深淵”自体は大きく緩やかな螺旋を描いた地下通路である。人用の通路が二つ、荷物搬入用の通路が一つの組み合わせが二つ。その通路の間と両側に“深淵”の施設は掘り抜かれている。


「つまり、“深淵”は一つの構造物ではなく、いくつかの独立した施設を繋いだものなんだ」


 エースは、“深淵”の通路の一つを歩きながら説明した。


「各施設の通路事に関所が一つずつ。より下の施設に行くにはその分の許可証が必要になるの。全施設の許可証は持ち運ぶだけで大変だと言われているわ」


 アリサが、歩きながらエースの補足説明をする。


「で、なんでおれがこんなところに連れてこられたんですか?」


 マックスはただ淡々と、重い荷物を背負い二人についていく。


「色々理由はあるけれども、一番の理由は、許可証を運んでもらう為だよ」 


「“深淵”の許可証は扉を開ける鍵も兼ねているの。しかも一回限りの使いすて。かなり大きいし、かさばるの。保安上の問題でね。魔法を使った維持管理、防御体制のため」


 マックスの言葉にアリサは答えた。


「次で第二領域に入るわ。少し戸惑うかもしれないけど、害はないから安心して」


 マックスは首をかしげた。 


「戸惑うっていうなら、既に戸惑ってますが。おれがこんなところに来ていいんですか? 帝国中央の機密区画でしょう?」


「いいんだよ。第一、大概のところは君にはフリーパスなんだろう。マックス」


 エースは、意味有りげに呟く。


「何を言ってるんですか?」


「ここ最近、いつも俺を、鳥が見ているんだよな。ついさっきも。こころあたりないかい、マックス」


 ここでマックスは、腰の武器に手をかける。それでも、エースとアリサは構えもしない。


「なにが言いたいんですかね、エース。殿」


 マックスは、警戒した様子でエース達を見た。


「第一領域は、帝国で言うところの対“深淵”部隊の常駐地、だよ。本来の“深淵”は第二領域からだ。そして、対“深淵”防衛機構もここから本番となる」


 エース達はただ先を進む。それにマックスもついていく。


「さらに、“深淵”の深い領域に入れば入る程、防衛機構もレベルが上がる」


 三人は、大きな扉に前についた。エースは、マックスの様子を気にも留めず、話かける。


「マックス、二番の一の許可証を出してくれ」


 マックスは、慌てて許可証を出す。魔石を中心にした球体状の魔道具。


 エースは許可証を受け取ると、扉の中心にはめ込んだ。そして、コマンドワードを言い放つ。


「“深淵”第二領域。リブラ、オープンザヘブンズドア」


 魔道具が崩れ落ち 、扉が上へと開いていく。鋼鉄、石、魔力反応合金による分厚く、大きく重い扉。上級魔法にも、一回は耐える事が出来る扉である。魔鎧騎でも、持ち上げるのには一苦労する重量を持つ。


 扉が開ききると、三人は扉をくぐった。正面には二つ目の扉。後ろの扉が下に降り、正面の扉が開く。


「痛っ」


 マックスは、二つ目の扉が開いたとき、鋭い頭痛を感じた。しかし、すぐにおさまる。マックスは、二人を見るが、特に変わった様子はない。


「どうしたの? マックス」


「いや、少し頭痛がしたので」


 マックスの言葉に、エースは納得した顔をした。


「ああ、防衛機構の一つだよ。マックスは“勇者”なんだね」


「勇者? おれはだだのギルドの傭兵だぜ? んなもんじゃない」


「ま、後で説明するよ。まずは、閉じ込められる前に扉をくぐろう」


「あ、あと~言うの忘れていたけど~」


 と、ここでアリサが口を挟む。


「一部の区画を除いて、私達の会話はモニターされているから気をつけて」


「え? じゃあ、」


「俺が勇者たちを叩き殺したなんて言ったら捕まるかもな」


「お、おい、エース!」


「大丈夫だ。まだモニターされてないし、されていても問題ない」


 絶句するマックスを後にし、エース達は先を急ぐ。マックスも正気に戻り、慌てて後を追った。


 それからは、ただ、歩き続けるだけだった。何回か扉をくぐり抜け、第六領域につく。内部の人間が出迎えにきていた。


「ようこそ、イモーダルディアトリス帝国本部へ。アリサ副本部長補佐、エース=フォン=レーベルディン様。お待ちしていました。こちらの控え室でお待ち下さい」


「……どうゆう事だ」


「あとで説明するわ」


 アリサとエースは当然のごとく、職員の後を付いていく。マックスは、何か言い出そうだが、黙って控え室までついてきた。控え室に着き、案内人が場を離れると、マックスはアリサに向かって怒鳴った。


 「……お前、あの、人を人とも思わぬイモーダルの人間だったのか!」


 マックスは、怒りを露わにする。それに対し、アリサは冷静な様子でマックスを見た。そしてため息をつく。


「まあ、しかたないわね。イモーダルの悪名は鳴り響いているから。ま、イモーダルはディアトリス帝国と良好な関係を築いているわ。私達が穏健派だと言うのもあるけれどね」


「穏健派? 不老不死の為なら人体実験や人身売買、民族大虐殺も恐れぬ外道な奴らが、か?」


 ここでエースが口を挟む。


「そいつらは、不死至上派か、犠牲容認派だろう。どちらも不老不死の為なら手段を選ばないからな」


「イモーダルに差なんかあるのかよ?」


「大きな組織だから、考え方の違いがあるのさ」


 ここで、アリサが説明を引き継いだ。


「色々派閥があるんだけど、基本的には考え方によって分けられるわ」


 再度、ため息をつくアリサ。


「本来、イモーダルという組織は人の能力向上を目的としたものなの。最終的には神と呼ばれる高位存在への進化が目標」


「それが、なんで色々な残虐行為を行うならず者になるんだ?」


「だから、考え方の違いなの。私達穏健派は、人全体の高位存在への進化を目的としているわ。その為には、現状存在する道徳観念への冒涜や、国家組織、人に対する加害的な行動は禁止しているの」


 アリサは、憮然とした態度で言う。


「私達に対して、もっとも過激なのが不死至上派ね。人族が存続すればあとの事はどうとでもなる、といった考え方ね。一人の神か、不老不死の人が作れたら、世界滅ぼしてもいいって連中。色々やらかしているのはこいつら。イモーダルとしても捕縛対象なのよ」


 彼女は、うんざりした様子で続ける。


「犠牲容認派は、現状の人族が存続できるならば、多少の損害は目をつぶるという連中。一応、被害を与えたら保障するとか言っているけど、個人や街レベルなら問題なく色々するわ」


「どの辺が多いんだ?」 


 マックスも、憮然とした態度で聞く。


「穏健派五割、至上派一割、容認派二割と言ったところね」


「……残りの二割はどこに行った」


 マックスが厳しい顔つきで怒鳴る。


「色々」


 アリサは、うんざりして答えた。


「一応、穏健派とか、至上派とか言ってるけど、必ずしも主張の通りの行動している訳ではないわ。至上派とか容認派でも、法を守って真面目に研究している人たちもいるし、穏健派といいながら大量殺戮をしでかした馬鹿もいるわ」


「……つまり、お前らのなかにも隠れて容認派とか、至上派とかがいるのか」


「確かに否定できないわね。でも基本的に、穏健派の所属者には誓約魔法を使ってもらうわ。誓うのは法令遵守、生命尊重の二つね。これを無効化するのは難しいわ」


「……他の二派閥も誓約魔法を使うのか?」


「どうかしら。人や法に対して、軽視する誓約魔法を使っていると聞くけど」


「で、アリサ達は、帝国と提携して不死研究をしている。両方に益がある関係だ」


 そう、エースは、どこか影がある様子で呟いた。


「ま、色々世話になっているから、あまりひどく言わないでくれないか」


「魔薬についても世話になっているのか」


 マックスは、怒鳴った。が、エースは、顔色一つ変えずに答える。


「ああ、非常に世話になっている。いなくなると困るから、あまり噛みつくな」


「かみつきたいわけじゃない。しかし、魔薬取引に手を出しているなら、おれたちはあんたのもとから去らせてもらう」


「ああ、わかった。好きにしてくれ」


「エース!」


 あっさり了承したエースにあわてるアリサ。 


「しかし、その前に、会ってほしい、ひと、が、いるんだ。そのあとで決めてくれ」  


「エースまさか、あの人に会わせるつもりなの。トップシークレットの一つよ」


「ああ、わかった。しかし、勇者マックスは得難い人物だよ。手放すのは気に入らない」


「ところで、おれが勇者とか、何の冗談だ? 」


 アリサは、ため息をついた。


「冗談じゃないのよ。一部の結界には、勇者を判別するものがあるの。貴方はそれに引っかかったわ」


「さっきの頭痛か」


「そう。勇者は自然には現れないからな。貴重なんだよ。マックスにも利益があるしな」


 エースの言葉に、憮然としたマックスだった。



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