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勇者は強いもの

オーク。人の一種。成人平均身長2メートル。鍛えられた筋肉に脂肪がつき巨大。性質は温和。体力、知力は人を超えている。ブヒはオーク語。普通の人にはブヒとしか聞こえないが、微妙な発音や表情、口調で色々な意味をつける。

 衛星都市から十数キロ。2キロの距離をとって、魔鎧騎(ルーン=アーマー)十騎(うち二騎は騎車を牽引し、アルベルト、マリク、随伴歩兵五十三名を乗せている)が到達した。


 城の周りには長大な城壁。その前には堀が掘られている。城門の前には跳ね橋があり、今は跳ね上げられていた。その周りにはオーク達の軍団三千。


「ああ、マリク、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の方がいいな。あれは気温調整できるからね」


「……魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)のほうが、反応も早いし使い易いですよ」


「しかし、魔力の消費量が半端ないからね。エースならともかく」


「まあ、早く終わらせて帰りましょう。私の父に領地をまかせたらどんな事になるか考えたくない」


「そうだな、僕はメイシアにあいたいな。あの娘と話していると心が安まる」


「……もげろ」


 そんな風にアルベルトとマリクが話していると、魔鎧騎(ルーン=アーマー)と騎車が全騎止まった。予定地についたのだ。更に、アルベルト、マリク、随伴歩兵が騎車から降りた。


「では、作戦開始』


 アルベルトの発言に呟くアドルフ。


「作戦と言っても、アルベルト様がオーク軍を無力化するから、その後城に入り制圧する? 雑すぎる。第一、オークは五千いるんだぞ」 


「ま、あれで人外の戦闘力を持ってますからね。オークを吹き飛ばすだけなら何とかなりますよ」


 騎車からロングロッド=スタッフを取り出し構えながら、マリクはアドルフの独り言に答えた。


 アドルフは、顔を赤らめながらも言い返す。


「アルベルト様は、そんなに強いんですか? 大軍を一人で倒すなんて」


「まあ、ダインスレイブがあればね。オークくらいなら何とかなるよ」」


「では、あの魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)、ダインスレイブは強いんですか? 竜姫士メイシア様みたいに?」


 アドルフは期待に胸を膨らませて聞いた。


「いや、単体の戦闘力ではグラムとそう変わらないんじゃないかな。装着している魔法玉もウィンドライブ、だけだし」


「……もしかして、その魔法、ただ早く飛ぶ為の魔法ですよね」


「そうだよ。それだけ、だけどね」


 マリクは、丸眼鏡の奥から愉快そうな光を放つ。


「メイシア様といっしょに飛びだいからって、それだけで選んだ魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)と魔法玉だけどね、すごい事になっているんだよ。ま、見てればわかるさ」


「じゃあ、マリク、全部の地下道を潰したら合図をくれ。突入する」 


「わかった」


 マリクはアルベルトに返事をする。アドルフは、自分の配下の騎士と兵士に命令する。


「みな、作戦通り、オークが無力化されたら城門に突入、城内にいるオークを殲滅する。更に先行するアルベルト様の支援をする。以上だ」


 アドルフ自体は歩兵として城内に突入する。魔鎧騎(ルーン=アーマー)の方が安全ではあるが、小回りがきかないのでこちらを選んだのだ。


「じゃ、はじめる」


 マリクはまず、呪文を唱えた。丸眼鏡が輝く。


「ロングサーチ」


 魔力による身体強化。それを使った視力の向上及び、光の屈折による視野の変更を行う魔法を使用。更に別の呪文を詠唱。


「ピアッシングアースランス」


 詠唱と共に細かい石や砂、土がロングロッド=スタッフの先端の魔法玉の前に集まり、石の大きな槍を形成する。


 大地系の攻撃魔法は威力が高い反面、攻撃範囲が狭い、発動まで時間がかかるなどの欠点がある。


 発動が早く、威力、攻撃範囲が広い炎系か、発動が早く、連射が利く風系の攻撃魔法が主流である。


  土、いや、石の槍が成長し、大型化する。マリクは、頃合を見て、発射のコマンドワードを言い放つ。


「ショット!」


 空に向けられた石の槍は、そのまま吸い込まれるように飛んでいき、やがて放物線を描いて大地に激突した。穴が開き、地面が陥没する。


 マリクは、次々に石の槍を飛ばし、大地に穴を開けていく。同時に地面が陥没する。オーク達は城の周辺部にいるものの、なにが起こっているかわからす、ほとんど動きがない。


「よし、地下道はふさいだ。あとは頼む。アルベルト」


「了解。しかし、姉上の魔眼とマリクの遠視魔法はすごいな」


 さっきの攻撃魔法、マリクのピアッシングアースランスは、オーク達が侵入してきた城の地下道を潰したのだ。本来、城門や、防御力が高い魔物に使われる魔法なので、貫通力が高いのでつかわれたのだ。もっとも、キシリアの魔眼による正確な状況と地図の把握、マリクの遠視魔法による強力な攻撃魔法の狙撃が無ければ無理だったろうが。


「じゃ、働くか。我が剣、ダインスレイブよ、我が身となりて、敵を倒せ」


 アルベルトの詠唱と共に、剣が分割される。


 分割された剣の部品は、鎧となってアルベルトを覆い巨大化。頭部に小さな羽根、腰部に大きな羽根を持つ魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)と なった。


 魔装鎧騎ダインスレイブ。過去に量産されており、比較的入手しやすい魔装鎧騎である。


「ウィンドライブ」 


 アルベルトは、自分のダインスレイブが使えるただ一つの魔法を発動させる。飛行魔法。魔法玉が二個、しかも連動して使う為、魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)にはこれしか装備出来ない。その魔法を使い、ダインスレイブが跳んだ。瞬時に加速。


「何!」


 轟音が鳴り響き、砂煙が舞う。そして暴風が魔鎧騎(ルーン=アーマー)と歩兵を襲った。


 しかし、アドルフは見た。オーク達が城の周りから吹き飛ばされているのを。城門前にいたオーク達も吹き飛ばされ、道が出来ている。すぐに大声を張り上げる。


「突入! 城門を開き、中に入れ!」


 魔力力場によって衝撃に耐えたグラムが移動。魔鎧騎(ルーン=アーマー)によって守られた歩兵がついていく。その後ろに輜重を兼ねた兵員輸送用の大型騎車が走る。


 城門の前の堀まで魔鎧騎(ルーン=アーマー)が先導。二騎を除いて周辺を警戒。一部の兵がロッド=スタッフを交換して土魔法を展開、時間をかけて、小さな橋をかける。続いて二名の兵士が小さな橋を渡り、跳ね橋を跳ね上げている鎖を炎系の攻撃魔法で灼ききった。轟音と共に跳ね橋が落ち、振動が静まった所で魔鎧騎(ルーン=アーマー)二騎が渡って門を開けようとする。


 その間にも、城内からは轟音と、何かが吹き飛ばされる音がした。


「あの大軍を、アルベルト様が倒したのか」


 アドルフが言う。その声を聞いたのか、マリクが答えた。


「ああ、ダインスレイブでね」


「そうですか。飛行魔法の他に攻撃魔法を使えるとは、さすがに勇者」


「いや、飛行魔法しか使ってないよ」


 マリクの何気ない言葉にアドルフは驚く。そのアドルフにマリクは説明する。


「超音速で飛行して、衝撃波を魔法で制御しオークを吹き飛ばしたんだよ。彼らの魔力力場が弱いから衝撃波で効果があったんだ」


「……?」


「ま、転生者の知識だけどね」


 マリクは、アドルフが理解出来ない様子を見て、苦笑いした。


 物理学の存在は、転生者によって明らかにされている。また、研究もされている。しかし、未だに一般的な学問として理解されているとは言い難い。また、魔法という要素が、物理学の理論をぶち壊してしまうからでもたある。


 その為、アドルフには、オーク達が吹き飛ばされた理由がわかってないのだ。


 もしくは、飛行魔法か、身体強化系魔法の上級魔法と思っているかもしれないが。


 門を開けた彼らは全員が侵入し、再び門を閉める。そして、門の内側から大地系魔法で石の壁を作る。そして門を封鎖してオーク達の殲滅にかかった。


 その頃、アルベルトはダインスレイブを駆ってオーク達を駆逐したあと、城の中心部の、複合型大規模魔法陣設置箇所へと迫っていた。ここには戦略級魔法を発動できるだけの魔力が装填されており、場合によっては帝国に多大な損害を与えることができる。


 故に帝国上層部は、この城の奪回を重視したのだ。


 今はダインスレイブを剣として持っているアルベルト。彼は目的地の扉を開け放つと中に入った。


「やはり、何らかの魔法が稼働している。確実に戦術級以上が……」


 そして、アルベルトは、見た。城の中心部にあるホール、複合型大規模魔法陣が設置してある場所。その中心に一人の、体格が非常に良いオークがいるのを。背は高く、大量の肉に包まれた筋肉は均整がとれ、美しくすらある。


「やっぱり来たぶひか。待っていたブヒ」


「ブヒブヒブヒ……」


 アルベルトと相対している美オーク。アルベルトの知り合いで友人でもあるオークの王子、ブヒブヒブヒであった。


「何故、帝国領に侵攻した? 帝国とオークは和平が結ばれていただろう! しかも、オークに有利な立場で! 食糧支援も多大だっただろう! なぜ、こんなバカな真似をした !」


 美オーク、は悲しげにつぶやいた。


「仕方ないブヒ。オークが 生き残る為には、人が、ヒューマンが障害になるぶひ」


 その瞳には、強い信念が宿っていた。



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