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回想はあまりくわしくないもの。

 嵐が去り。


 エースとアルベルトは嘆いていた。


「なぜ、こんな事に……」 


「ぶひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


「……あんたらが無理するからでしょ。わいせつ物、オーク」


 エースとアルベルトは、キシリアの前で正座していた。勿論、ずっと説教されていたのだ。既に二時間たっており、足のしびれも半端ではない。


 深淵アビスより武装勢力が侵入、との報告から、キシリアは自らが持つ“魔眼”の能力を使用。状況を確認した。そして、宮殿の近衛部隊を指揮。護衛を伴ってエースとメイシアを抱えたオークに会った。近衛部隊を無力化する二人を一喝して状況を説明させた。その後、メイシアを宮殿内の病院に移送。その中の一室にてキシリアとエース、オークことアルベルトを呼び事情を聞いたのである。


「わいせつ物、オーク! いくらメイシアが大事でも自粛せい! 近衛部隊に負傷者多数でているぞ!」 


「申し訳ありませんがキシリア様、私たちに攻撃を仕掛けて来た者だけ戦いました。更に最低限の打撃しか与えていません。しかし、最近の近衛部隊は弱いですね。皇帝陛下の守りはどうなっているのですか?」


「姉上、ぶひもそう思うぶひ。第一、近衛部隊は最後の砦であり、最高の予備兵力ぶひ。あんなんでは困るぶひ」


「……そうだな、非常事態にはメイシアとアルベルトに頼っているし、近衛部隊の指揮官が飾り物だし、私もあたまがいたい、と、オーク、なぜお前が私を姉と呼ぶ。愚弟はもっとイケメンだ。お前とは天と地ほどの差がある!」


 キシリアは、右目の眼帯の直しながら左手でオークの頭を叩く。


「ぶひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 頭を押さえて、うずくまる。エースはそれを見て口を開く。


「ところ、お前は何故オークになった、アルベルト?」 


「わいせつ物、こいつが愚弟というのか?」


「ああ、メイシアがそう言ったからな。それ以外に何か必要か?」


「エース、信じてくれてうれしいぶひ」


「そんなことはどうでもいい。本当にアルベルトならこんな事はありえない。よほどの事がないかぎり」


「そうだな、オーク、一応話してみろ」


 オークは頭をなでながら、自分が何故、このような姿になったか、再度話始めた。


「そうぶひ、あれは三日前ぶひ。姉上に命令されて南方のオーク討伐に行ったときだったぶひ………」



 …………………


 帝国南部。やや大陸中心に近い城塞都市アンスラ。アンスラ侯爵の支配していた都市。そこに、三日前オークの大群が攻めてきたのである。アンスラ侯爵の軍は奮戦するも陥落。前アンスラ侯は戦死。次男と家宰は住民を避難させた。幸いに衛星都市が近くにあり、住民の被害は最小に留められた。


 そして、混乱も冷めやらぬ中、帝国首都より命令書が届いた。明日中に増援兵力を送る。増援を受け次第、反攻し、アンスラを奪還せよ。と。


「何を考えているんだ中央は!」


 アンスラ侯爵の次男、アドルフは怒りとともに言葉を吐き捨てる。


 現在のアンスラ侯爵軍の稼働可能な戦力は、魔鎧騎(ルーン=アーマー)10騎、随伴歩兵50名(うち魔導兵)のみ。もちろん、現在いる都市の兵力を合わせられれば、更に動員出来るが、


「……市民の護衛を考えると、この都市の協力、戦力供与は無理ですね。傭兵を頼みにするしか……」


 中年の家宰が疲れた顔色で呟く。避難民や傷病兵の護衛も考えると、そうそう戦闘は出来ない。


 突然、騎車の中で途方にくれているアドルフと数名の家臣に、物見の兵から連絡が入った。 


「北から、高速飛行してくる物が二体接近中です」


「……なんだと!」

 

 アドルフは騎車から出る。すると、飛行してきた物体が、目の前の空き地に着陸する所だった。


 白銀の鎧姿の騎士。人の三倍位の大きさだろうか。兜状の頭部の側面には一対の羽飾り。上半身に はボリュームがあり、腰はくびれている。そして、腰部には一対の羽。見ようによっては四本足にも見える。手には穂先の長い短槍と小さい丸盾。


 魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)、ダインスレイブである。


 魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)とは、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の上位互換機と言えるものではある。その性能は魔鎧騎(ルーン=アーマー)の数倍。しかも特殊能力を持つものもある。しかし、可動時間の短さや、生産性、メンテナンスの効率の悪さに、次第に魔鎧騎(ルーン=アーマー)に代わられたという。しかし、現在も残っている何騎かが使われているのだ。


 着陸したダインスレイブの装甲が割れ、小さくなって集まり、一振りの剣となった。剣は、皮鎧姿の金髪が長い騎士に握られていた。騎士は剣を鞘に入れる。


 ダインスレイブの基本形態は剣。魔力感応合金や魔力感応素材で出来ており、呪文詠唱により、質量増大、可変し、人型の大きな鎧姿となる。


「やあ、援軍に来たよ」


  爽やかな笑顔で挨拶した若者。皮鎧姿に剣を腰に携えている。金髪は長く後ろで編み込まれている。


 その人は、帝国皇太子アルベルト=シオン=ディアトリスであった。


「アルベルト殿下! 全員敬礼!」


 アドルフは、直立不動となり敬礼。家臣もそれにならった。更に各自自己紹介。アルベルトは苦笑して言った


「ああ、では状況を教えてくれ」


「はっ! では、こちらへ」


 アドルフと家臣たちは、アルベルトを騎車へと案内した。少し遅れて若い騎士がやってくる。


「遅いよ、マリク」


「すまない。しかし、お前がはやすぎるんだ。アルベルト!」


 彼、マリクは、数少ない魔装鎧騎(ルーン=ドライバー)ダインスレイブを駆ってアルベルトに付いてきたのだ。


「まあ、仕方ない。姉上の至急の頼みだ。できるだけ早く制圧しろと、ね」


 一行は騎車に入る。騎車の中心にはテーブルがしつらえており、アンスラ城周辺部とアンスラ城内部の地図が広げられていた。


「アンスラ城は城壁も高く、容易な事では墜ちない筈だが?」


「はい、しかしオークたちは五千もの兵を連れてきていました。更に、地下道から奇襲されました。以前より準備していたものと思われます」


 まず、オーク軍がアンスラ城正面に陣を敷き、城門に波状攻撃を仕掛けた。オーク軍が引いたところを見計らい、次男は魔鎧騎(ルーン=アーマー)グラムを引き連れて出撃した。


「最初はオーク軍は千。俺……私の部隊を牽制に使い、大規模ロッド=スタッフの戦術攻撃魔法で殲滅する作戦でした」


 ところが、ここでもオーク軍は策を練っていたのだ。


「突然、両側面から千ずつ兵が突出。私の部隊が包囲され、更に、その時点ではわからなかったのですが、数カ所地下道が作られており、そこから城内部に潜入されました」


 アドルフは悔しそうな顔をした。


「そこで大規模ロッド=スタッフを占拠されました。魔力を維持したままなので、戦術攻撃魔法を使われる可能性があり、父は撤退抗戦を指示。グラムにて戦いましたが奮然空しく戦死。この時点で城内部隊の組織的行動が困難となり、多数の被害を受けました。私はオーク軍と対峙していましたが、父の死亡報告を受けて撤退を指示。更に領民を避難させました」 


「オークの追撃による被害は?」


「ほとんどなしです。オークの大半は城の占拠に向かいました」


「わかりました、ありがとうございます。次に、周辺部と城の地図を見せてもらえますか?」


 机の上の不要物が除かれ、地図が広げられる。更に魔力が込められ、光魔法が発動。立体画像が表示される。


「地下道の場所、本数はわかりますか?」


「いえ。だいたいこのあたりだろうとしか……」


 と、アドルフは指し示す。


「アルベルト、これならいけるんじゃないか?」


「ああ、だか、大規模ロッドスタッフと地下道はどうする?」


「地下道は私がなんとかする。ここの軍からロングロッド=スタッフを借りよう」

「一人で大丈夫か?」


「ああ、それよりアルベルト、お前のほうが大変だぞ。大規模ロッド=スタッフは任せたからな」


「……いいかげん慣れた」


 と、ここでアルベルトはアドルフと家臣たちに向かって言った。


「非常に迷惑をかけるが、明日、アンスラ城攻略を行う。諸君らの協力が必要だ。ぜひ、頼む」


「はっ!」


 敬礼する家臣たちの中で、アドルフは一人質問した。


「一つお聞きしたいのですが、援軍はいつ到着するのですか?」


 アルベルトは、少し気まずそうに苦笑した。


「すいません、私とマリクのみです」


「なに言ってるんですか! 敵は五千! 城内に二千、城周辺に三千。我々のグラムは精々10騎出せるかどうかですよ」


 アルベルトは、苦笑いしながら頭をかく。


「大丈夫ですよ。オークは僕が面倒みます。皆さんは僕の討ち逃しを倒して下さい」


 ここで、家臣たちはアルベルトの噂を思いだした。


 最強の聖剣魔法えくすかりばーを使うと言うことを。


「まさか、オークをえくすかりばーで城ごと殲滅するとか?」


 えくすかりばーの威力は高く、神殺しも可能とされる。城一つなど、劫火の前の蝋燭だろう。


「んなことしませんよ。ちゃんと、とはいかないかもしれませんが、ほぼ原形を留めた姿でお渡ししますよ」


 爽やかに笑うアルベルト。しかし、侯爵次男には悪魔の微笑みに見えた。



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