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紀代美 警察に捕まる

二人は喫茶ビアンコに入っていった。

マスターが「いらっしゃーい」といかにも商売ヤル気なさげに言った。

「ブレンドと…袴田さんは?」と斎藤が聞いた。

「じゃあ私 アイスコーヒーで」と注文すると、二人は店の奥のテーブル席に着いた。

「斎藤さん…さっきの話の続きですけど…」

「袴田さん、どこで知ったのかは聞きませんが、実はあのテナントビルの土地の所有者は、秋月徹さんなんです。」

「そうなんですか…」

「はい。あのテナントビルの他にいくつかの土地も所有していました。そちらは普通の民家だったり貸駐車場もありました。で私、今の福祉課に配属される前は収納課の主任でした。その時に、徹さんが固定資産税の納付の事で相談に見えたのです。」

「固定資産税?」

「はい。今はもうお亡くなりになっている母親の介護で結構お金が掛かったらしく、固定資産税を滞納していたのです。で、その納付の相談で私の所へ来たのですが…」

「え?土地を貸しているのなら、地代の収入もそれなりにあるはずですよね?」

「ええ。そう思って訳をお聴きしましたがテナントビル以外の地代の収入は決して多くはありませんでした。親の世代から借りてもらってる人が多くて地代の値上げもあまりしなかったそうです。ですが、固定資産税の6割以上がテナントビルの部分。それだけで他の地代収入分が消えちゃうんです。」

「はあ…」

「で、徹さんが相談に来た数日後に徹さんと徹さんのお兄さん そして丸山穣さんが収納課の窓口に訪れて、滞納していた税金を納めていきました。その時の徹さんは、お兄さんと穣さんの両方から酷く責められたらしくて、生気のない顔をしていました…市役所を出る時も二人から責められているのが見えて…それから一週間後…だったんです…」「…でも何故、穣とお兄さんから責められなければいけなかったのですか?」

「どうも、三年程前になるのですがテナントビルを建てる際、資金の融資が徹さんでは審査が収入等で通らなくて、親の家業を次いだ丸山穣さんなら融資の審査も通る…と言うことで穣さんが立て替えて建設費用の支払いをしているのです。 その時徹さんのお兄さんもその意見に賛成していたと言うことです。ですが、徹さんとご両親はテナントビルの建設自体、あまり乗り気にならなかったとか…」

「でも、テナントの家賃収入とかは…確か穣が…」

「はい。家賃は穣さんが管理して融資の返済等をして収入分をある程度、徹さんに渡していると思っていたのですが…びた一文、穣さんから貰っていなかったらしいんです…」

「と言うことは…徹は…まったく収入が入らない土地の税金で…」

「穣さんの話では、返済がきつくて家賃収入から徹さんに安定して回せる分がまだ…とか言ってました。」

「せめて…税金分くらいは…」

「袴田さん…私が関わっていながら…申し訳ありません…」と斎藤の謝罪とも思える言葉を聞いた紀代美は強く握りしめた両手をテーブルに叩きつけて叫んだ。

「こんなことで!!徹は!!徹は!!徹は!!…」

ちょうどブレンドコーヒーとアイスコーヒーを持ってきたマスターも黙って聞いているしかなかった。

「徹…徹…徹…」

紀代美は徹の名前を言い続けながら泣いた。


一時間後…紀代美は徹の家にいた。喫茶ビアンコからどうやって帰ってきたのかも覚えていなかった。

「徹…辛かったのね…徹…今まで傍に居てあげられなくて…ごめんなさい…」

紀代美は泣きはらした目で徹の遺影に向かって詫びた。その時だった。

ピンポーン…ピンポーン、ピンポーン…

「はい…」

紀代美は涙を拭くと玄関の扉を開けた。

「こんにちは、袴田さん」

紀代美の視界に飛び込んできたのは丸山穣ともう一人の男性だった。

「ああ、こちらのお方は徹のお兄さんです。」

徹とは似ても似つかない、大手企業のサラリーマンか公務員のようなピシッとした身なりをした男性が口を開いた。

「こんにちは。徹のすぐ上の兄の秋月 雅司(まさし)です。あなたが袴田さん?」雅司が話終えようとした時、紀代美は二人に殴りかかろうとした。

「オマエ達か!?徹を!!徹を!!徹をあんな目に合わせて!!」

「なっ!!何をするんだ!?袴田さんっ!!」

「や!!止めろ!!何なんだこの人は!?」

「雅司さん!!警察!!110番だ!!」

穣に身体を抑えられながらも紀代美はなおも二人を殴ろうとしていた。

「徹!!徹を返せ!!徹を返せ!!」


遠くの方に聞こえていたパトカーのサイレンの音がだんだん近づいて来た。

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