情報は居酒屋で
昨夜の居酒屋での出来事から、紀代美は明け方までイライラして眠れなかったが流石にいつの間にか眠りに落ち、目が覚めたのは既にお昼を過ぎていた。
「さあて、今日もちょっと探してみるか。」と二階の奥にあるクローゼット内を整理し始めた頃、
ピンポーン ピンポーン ピンポーン…とけたたましく玄関のチャイムが鳴り始めた。
ま、まさかね…
と思い二階の廊下の窓からそーっと玄関を覗いて見ると、白髪頭のひょろ長…
げっ…穣かよ。昨日が昨日だけに会いたくないんだよね…居留守を決め込むか…
それでも二分近く鳴っただろうか…諦めて帰っていくのが見えた。
「昨日の今日だけに、会っていたら殴っていたに違いない…」
その後、再び整理を始めたものの紀代美が探して求めたモノにはたどり着く事なく、日暮れを迎えた。
「夕食…昨夜はあの店に迷惑をかけてしまったからなぁ…お詫びも兼ねて今日も行くかな。」
20分後、紀代美は昨日と同じ駅前の居酒屋の前にいた。白地の電光看板には 居酒屋喜八と黒い文字で書かれていた。まさか、今日もいないよね? と思いながら店内に入ると「いらっしゃいま…あ、先日は申し訳ありませんでした。」と申し訳なさそうに店長が挨拶をした。
「いいえ、迷惑をかけたのは私の方ですから気にしないで下さい。ところで…」と紀代美はその後に続く言葉を言いにくそうにしていると、店長はそれを察したかのように「今日は来てませんから大丈夫ですよ。」と答えた。
「ああいう話を聞かされながら飲む酒は美味しく無くなりますから。」
「私達もああいった話聞かされるのは正直嫌なのですが、あの人が大家でなかったら追い出すところですよ。」
「えっ!?ゆづ…いやあの人って大家なんですか!?」
と紀代美が穣の名前を思わず言い出しそうになったのを見て、店長は気まずそうに
「もしかして…丸山穣さんと知り合いなんですか!?」と聞いてきた。
「知り合いって程でもないんですけど、正直顔を会わせたくない人です…ところで大家というのは?」「まあ大家といっても、テナント料の集金ぐらいなんですが…実は土地の所有者はまた別の人なんです。まあ、簡単に言えばその人の土地を借りて丸山さんがその上にこのビルを建てたって事なんですよ。」
「そうなんですか。」
「確か…秋月とかって人の土地じゃなかったかな?」
えっ!?まさか徹の事なの!?
表情には出さなかったものの、秋月の名前が出てきたのには驚かされた。
「はあ、そうなんですか。何か色々と聞いてしまって…」
「いえいえ。」
昨日よりは幾分気分がマシだったものの、新たな手掛かりを得た紀代美には今日のビールも喉を潤す美味しい存在にはならなかった。
徹の家に戻って居間でテレビを見ながらた考え始めた。
穣があのビルの大家ねぇ…で土地の名義は秋月なんたら…明日、ちょっと市役所へ行って斎藤さんに聞いてみよう。
次の日、紀代美は市役所の福祉課に訪れて斎藤と会った。
「あの、ちょっと聞きたいのですが駅前に三階建のテナントビルがありますよね。あれビルの所有者と土地の所有者が違うって聞いて…」と言いかけたところで
「あの…ここじゃアレなので別の場所で話を…」
と斎藤が言うと「ちょっとの間、席外すよ。」と他の職員に声を掛け、二人は市役所の側にある喫茶店に入っていった。