徹がもたらした物
数日後、紀代美と可奈子は静岡へ戻る日を迎えていた。
「お姉ちゃん、荷物はこれで全部?」
「うん。出来る事なら徹が使っていた物全て持って行きたいトコだけど…」
「それは無理だと思う…でも一ヶ月に一回は来るんだから、その時に持ってくる物を選べば?」
「そうね。」
あの後、紀代美は徹の一番上のお兄さんにお願いして、一ヶ月に一度は徹の家に来て仏壇に手を合わせたり、家の中の整理をやらせてもらう事にしてもらった。
「えーと、預かった家のカギはあるし…可奈子、じゃあそろそろ行く?」
「そうね、じゃあしゅっぱーつ!!」
二人を乗せた黄緑のマツダデミオは徹の家を後にした。
ハンドルを握る可奈子
そして、助手席に座る紀代美の首には徹の写真が入ったロケットペンダント そして、微笑んだ顔の徹の写真が入った写真スタンドを両腕で包み込んでいた。
やがて二人を乗せたマツダデミオは海沿いの東名高速を静岡方面に進んでいた。
「徹、見える?この海、富士山を見て私達は生まれ、そして育ってきたの。そしてこれからも徹と一緒に見続けたい。」
と紀代美は、写真の中の徹に語りかけながら外の景色を見せていた。
そして1時間後、紀代美は久方ぶりに実家に戻った。
父も母も涙を流して紀代美を歓迎した。
紀代美が持っていた徹の顔写真を見て、父は
「その人が徹君かい?」
と尋ねた。
母も顔写真を見て
「紀代美には勿体無い人よね。」
と言うので可奈子も
「そうよ。寧ろ私の彼氏になってほしいな。」
「もぉ!!母さんも可奈子も!!」
と一家四人で笑いあった。
四人で笑うなんて…ここ10年以上無かった。埼玉に行く前から私は父に対して素直になれなくてギクシャクしていた。それを見ていた母や可奈子にも時々冷たい言葉を浴びせていたこともあった…のに今は違う。こうして家族全員が笑えるのは、徹…あなたのおかげよ。
二ヶ月後
穣と雅司は賀来駅前のスカイビル運営に関しての不正の他、親から継いだ家業での脱税行為が発覚し起訴された。
私、紀代美は、実家に戻った後埼玉のアパートを引き払い、父の経営している書店で働いている。
私が戻ってきてから家の中には笑いが絶える事がなくなった。家族の会話に徹の名前が出るのは毎日の事だ。たまに近所の世話焼きおばちゃんが私に見合い話を持ってくるが、私は相手にしていない。父と母はホントのところ孫がほしくてたまらないようで、可奈子の結婚相手は絶対、婿に来てもらって跡継ぎになってほしいと考えているが、当の可奈子はまだまだ結婚する気がないらしい。
「ちょっとお昼の買い物行ってくるね。」
と言っては、時々近所の海の見える公園で少しの間、ペンダントの中の徹と話をする。
「徹…私はこれからもずーっと徹と一緒だよ。
もう二度と徹を一人ぼっちにさせないからね。」
そう言うと
「あっ!!あんまり徹と道草していると、可奈子の昼食が遅くなって不機嫌になっちゃう!!急いで戻らないと!!」
と私は書店への道を急いだ。




