夜
そこには闇だけが広がっていた。
草木は眠り、梟は静かに目を光らせ、オオカミだけが吼えて。
星々は雲に身を隠し、明日には新月になるだろう細い月だけが雲の切れ間から姿を見せている。
そんな、静かな闇夜。
通りすがった風が湖面へ微かに写った僕を揺らした。
波紋に飲まれ、僕の虚像は見る間もなく掻き消される。
こんな風に僕自身も消えて、無くなってしまえばいいのにと。
そんな事を思った自分に対して自虐的な乾いた笑いが漏れる。
馬鹿な、どうせ僕は死ねやしないんだ。
だって僕は禁忌を犯した罪を背負っているのだから。
その場に膝をつき、前髪を乱暴にかき上げる。
静まった水の鏡に普段は隠された僕の顔の全容が映り込む。
月光すら殆どなく、色彩が乏しい夜であっても認識できるくらいに赤く不気味に輝いた、僕が罪人である事を示す禍々しい瞳が。
そして、その瞳を強調するかのように彫り込まれた刺青が。
手を下ろすと重力に従って落ちてきた髪が頬を擽る。
ゆっくりと目を閉じた僕の前には、闇だけが広がっていた。