カモウの街へ【テツドウさんとの出会い】
宜しくです。
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疾走してきた馬車が止まると中から、なんか太っちょのオッサンが転がるように……いや転がってきた。
オッサンは、ヨロヨロと立ち上がり、ひざをはたいて立ち上がると
「ふーふー」
息を整えながら、ハンカチで汗をフキフキ、大変暑苦しい。 辺りをキョロキョロ見回しながら独り言を呟いている。
「こちらに、凄い人がいるから……と聞いて……きたんだが」
衛兵さん、いくら慌てていたからと言っても説明が雑すぎだ。 あと、きちんと説明をされていない状態で来ていいのか? オレが言うのも何だがこの街、大丈夫なのか?
よほど慌てていたのか、サザナミくんの足にぶつかるオッサン。
「む。 なぜこんな所に木が……ど、ドラゴン!?」
このオッサン、空気を読むのをわかっているのか、しっかりテンプレ通りの行動を起こした。
【素晴らしい! ブラボーだ!】
オレはこのような人物をこの世界でずっと探していたのかもしれない。
更にオッサンの凄いところは、それだけじゃない!
しっかり腰を抜かして後ろ向きで、オレにぶつかるという高難易度の技を持ってきた。
この光景を間近の特等席で見たオレは、すっかりこのオッサンを気に入った。 なんだろう? すごくコミカルなのだ。 見ていてここまで安心出来るキャラなど、滅多に会えないだろう。
シルフが微妙な顔をしているが、知ったことではない。 早くこのオッサンと漫才をしなくては!
「お……おぉ、どなたか存ぜぬが、逃げられるがいい、ドラゴンにやられてしまうぞ」
あれ? オッサン、良い奴じゃん。
オレの予想の展開だと『おい、そこのお前! ワシを助けろ! 金ならいくらでもやるから!』と、オレを捨て駒にすると思ったのに! ぽっちゃりしているから民衆から不正で得た税金で良いものを食ってるかと思ったが、そうでもなさそうだ。 少しつまらないが。
「……でも、それではあなたが……、よし! 一緒に逃げましょう!」
「見ず知らずのワシを……すまない」
「いや、そこは《すまない》より《ありがとう》でしょう?」
オレが爽やかな笑みをオッサンに向ける。 BLではない、ただの友情? だ。
オッサンがオレの言葉に感動をしている、オレも少し心が熱くなった。
だが、そこで無粋な声が響く。
「コタロウ殿、ワシらは何時まで、それを見ていればいいのだろうか?」
どうやらサザナミくん、オレとオッサンの三文芝居(ただしオッサンは本気)に飽きたようだ。
周りを見ると、精霊たちもフワフワと違う所で遊んでいるから退屈とみえる。 仕方ない……このオッサンとの楽しかった芝居を終えるとしよう。 そしてオッサンに向き直った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オレは、オッサンに向き直った。 そして、精霊たちを手招きでよぶ。 オッサンが精霊を見て驚いているが、ほかっとく。 とりあえずオッサンを落ち着かせないといけない。
「アクア、ちょい水をくれないか? そう普通の水で」
「わかりました、コタロウさま」
「その前にアスナ、コップを作ってくれないか、うん普通ので」
「任せてください!」
アスナがチャチャっと作る。
【ちなみにここでのポイントは《普通》という言葉だ】
ただ残念なことに《普通》と言ったのにも係わらずちょっとだけ《光っている水》や陶器なんだけど《芸術性の高い作品》になっていることだ。 もし《普通》という単語が抜けていたらと思うとゾッとする。
愛がこもってなくても『エリクサー』をだし、オレ相手でなくても『聖杯』レベルの物を作ってしまうだろう。 チートなお供を持つと、色々大変だ。
とりあえず、コップをオッサンに渡す。 おそるおそる水を飲むオッサン。
一口飲むと、クワーッとオッサンの目が光った気がした。
「ぬぉおおおー! なんじゃこの美味さはー!
これは水か! これが《普通の水》なのか!
では、ワシが今まで48年間飲んでいた水は、腐りかけていた水なのかー!」
【オッサンが吠えたー!】
そうだ! オッサン、オレはそのリアクションが欲しかった! リアクション芸人になれるぞ、オッサン。 伊達に48年間生きていた訳じゃないな。 オレは感動に打ち震えた。
【見事なり!】
オレがオッサンを見て頷いていると、又しても空気を読まないドラゴンの王さまがいた。
『うるさい! だまれ人間!』
さっきまでの勢いはどこへやら、オッサンが硬直する。 オレも一緒に硬直している
その様子を見たアクアがドラゴンの王であるサザナミくんに向かって黒いオーラを全身から噴き出す。 そのオーラに当てられたサザナミくんが震え出す。
幸いオレは問題ないが、オッサンがテンプレ通り気絶した。
【エクセレント!】
すげーぜオッサン! サザナミくんにも見習わせてあげたいくらい立派なリアクションだぜ。
とりあえず、時間が動きだしたのでオッサンを起こす。 あのトカゲは空気を読まないので、これを機に帰すことにした。 サザナミくん改めトカゲは、オレに向かって何度もお辞儀をすると、チャンスは今だ! といわんばかりにトカゲくんは自分の城へと戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オッサンが目を覚ました。
「ドラゴン、ドラゴン」
と、まるで眼鏡を探すような仕草で探している。
【癒やされるわ~】
そしてアクアのことは怖すぎて、脳が受け入れるのを拒否したんだな。 オレもオッサンだったら、その気持ちよく分かる。
だが、そろそろ本題に入らないと、色々と怒られそうだ。
「大丈夫ですか、えーと、出が……おじさん」
危うく、伝説のリアクション芸人の名前を呼びそうになった。
「大丈夫だ。 ワシの名前はテツドウだ。 色々と世話になったな。
ところでワシは何故ここに居るんだ?」
あぁ……アクアの弊害がここに!
「テツドウさんは、ここにドラゴンの王と精霊王が来たと聞いて駆けつけて来たんですよ」
ま、本当のところは、衛兵さんの偉い人になるんだが、話を進める為に正しい答えを教えてあげた。
「そうか、そうだった! で、ドラゴンの王さまと精霊王さまは?」
「ドラゴンの王は、帰りましたよ。
ちなみにテツドウさんの探されている精霊王は、さっき水をくれた精霊とコップを作った精霊です。
あと、そこでフワフワしている赤色の精霊と、緑色の精霊も精霊王です」
「なんと! ではワシは、精霊王さまから直々に物を頂戴したことになるのか?」
「まあ、水はそうですが、コップも素晴らしいリアクションを見せてくれたので差し上げますよ」
「ところで、君は?」
「あの精霊王たちの保護者いや、被保護者かもしれないです。
う~ん世話をしていたり、されていたりの関係?」
「関係? って」
「とりあえず、あの精霊王たちと一緒に住んでいますね」
「……せ、精霊王さまと?」
「なっ!」
うちの精霊たちに話を流す。
「うむ、コタロウと一緒に住んでいるぞ」
なんか、腰に手をあて胸を張って自慢気に言うフレイ。
お前、ツンデレ担当じゃなかったのか? オレは、ガッカリだよ。
「コタロウさまと一緒に住めて光栄ですわ」
アクア、それ違うから。
オレと住めて光栄と言ってるのあなた達、精霊王だけだから。
「そうです! 私たちは、コタロウさんloveなのです」
アスナ、ちょこちょこ自分たちのモノとアピールせんでもオレは、取られんから安心しなさい。
自分で言って悲しくなるが。
「そ~。 コタロ~に毎日プリンや料理を作ってもらうの」
オレは、シルフの家政婦さんか?
まあシルフならそう言うと思っていたが。
オッサンを見るとあんぐりと口を開けている。
この世の理を司るような存在の精霊王と一緒に住んでいるのだから。 オレは、慣れたからオッサンも早く慣れろ。
もうこのやりとりも飽きた。 先に話を進めるとしよう。
「テツドウさん、これからカモウの街に入るので、申し訳ないけどフォローをお願いします。
ハッキリ言って、何のフォローもないと、下手したらこの街……いや、この国が大変面倒なことになりますよ」
「……そうでしょうね。 あの街に入らないという……」
「その選択肢は、存在しません。 テツドウさん申し訳ありませんが、ここは諦めて下さい。 それが一番上手くいく方法なのです。
それとも部下に任せて、その部下にこの街の全ていやこの国全てを委ねますか? まあ私はそれでも構いませんが、ご自分が後悔のしないように選択して下さい」
「……はい……。 私がフォローします」
くくく……、オレは、テツドウさんあんたを気に入っているんだ。 こんな楽しいキャラを逃したりするもんか。 あ~楽しい、きっとオレ悪い顔をしているんだろうな。




