#1 プロローグ【出会い】
よろしくお願いします。
「コタロウ。 私が守ってあげる」
サッカーボールくらいの炎がオレの前に飛んでくる。
そこに紅い精霊が来て炎をかき消す。
そしてすぐさま反撃をする。
先程よりもと同じサイズだが紅蓮の炎だ。
相手の魔法使いは、成すすべもなく焼き尽くされる。
「助かった、ありがとう」と言うと、喜んで走り回っている。
「コタロウさま、大丈夫でしたか?」
蒼き精霊がオレの体の隅々まで観察をする。
モチロン、オレに怪我などない。
でも、蒼き精霊は回復魔法をオレにかける。
その魔法は、瀕死の人間ですら全快させることが出来る。
怪我はないが、気持ちはいい。
「大丈夫だよ、ありがとう」と言うと、柔らかな笑みを向けてくれた。
「コタロウさん、疲れてない?」
茶色の髪をした精霊がオレの前に立ち、イスを作る。
オレは、三十分前に休んだばかりだ。
だが、こんないじらしい性格の土の精霊をオレには無下に出来ない。
オレは、イスに腰をかける。
「いつもありがとね」と言うと、真っ赤になってうつむいている。
「コタロ~、熱くない?」
翡翠色をした精霊がそう言い、オレに風を送る。
さっきまで少し暑かった空気が一掃された。
そして涼しい空気がオレの周りを巡廻する。
ここだけ空気が清浄され空気が美味しい。
「さすがだね」と言うと、喜んでオレの周りを飛びまわる。
ただこんな調子だから、オレの旅は一行に進んでいく気配がない。
時折というか、さっきからずーっとたくさんの精霊達がオレの周りを楽しそうにクルクル周っている。 まるでワルツを踊っているかのようだ。
オレは苦笑いをしながら、この世界に来た半年前を思い起こした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
半年前まで普通の学生だった。
自慢ではないが、そこいらのモブAといわれてもおかしくない平凡なのがオレだ。
自分の特技といえば、足音をあまり立てない歩きくらいだ。
ただ、枯葉を踏めば普通に足音はする。
雑踏や階段では足音がほとんどしないレベルだ。
ぶっちゃけ大したことがない。
自分の顔を見る……。
昔、仲の良かった女子から「日向くんの後姿は格好いいんだけどね」と言われたのを思い出した。
ちなみに振り向くと……う~ん普通? 全く失礼な!
学力はというと? うん平均点辺りをうろついていた記憶がある、ただ少し賢いかもしれん。
徹夜で、いつも平均点を取ることが出来たな。
どちらかというと器用な方かもしれないな。
通っていた学校か? うん、並だ。 これまた大して有名な学校でもない。
あ~、あの学校ね。 まあまあよね。
とまあ、会話が続かない。 有名校なら少しは広がるんだけどね。
まあオレにとって唯一、人より良いと思うのがコミュニケーション能力かな。
初対面でも誰とでも話しを合わせる事が出来るくらいかな。
そして、ほどよい距離感を保つことが出来る。
まあこの距離感が大事なんだな。
近すぎず、遠すぎない。 そう、これが難しい。
ちなみにオレの家族は、両親と兄と姉だ。
どちらかというと、オレと家族との仲は淡白だ。
まあ会えば話すが、会わなければ一年いや、もう二年くらいは会ってないかな。
お互い無事なら問題ないという考え方だ。
オレがこっち(東京)に引っ越してから、まだ一度も実家に帰ってない。
とはいえ、寂しくもなんとも感じない。
他の家族も同じことを言っていた。
まあ嫌いではない、好きな方だ。
だから何の問題もない。
そんなオレにも趣味みたいのがある。 それは、家の近くの神社に頻繁にお参りに行くことだ。
ちなみに、よく困った時の神頼みという、これは失礼だと思う。
普通に考えて、一年に1回ジュースを奢ってくれる人に、急に困ったから助けてくれ! と言われたら普通の人なら「はっ?」ってな気分になる筈だ。
それを偉い人にやっているようなものだ。
だからオレは、毎月神社にお参りに行く。
願いことはしない、感謝の気持ちを伝える。
「何事もなく、お参りをすることが出来てありがとうございます」
と。
そんなオレ、お参りの時に何かあってしまったのだ。
その神社の裏手は、少し木々がおおい茂っている。
そこに白い蛇がいた。
何やら神々しく、その蛇に釣られるように後に付いて行った。
そして、白い蛇を追っている途中に違和感を感じた。
オレは我に返り、辺りを見回すと知らない光景が!
「まさか……異世界に迷い込んだか……」
オレは、神を……。
心からお礼を言った。
「異世界ばんざ~い!」
オレの頭は、中二病にかなり前から毒されていたのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
白い蛇を追いかけて異世界に迷いこんだオレ。
見知らぬ森の中。
オレは思った、異世界転移きたコレと。
オレは、JOのポーズを取り格好良く言う!
「ステータス、ドン!」
予想通りというか何というか、自分の能力値がわかる。
とりあえず、見ないとはじまらない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
コタロウ
種族 人間
レベル.1
知力 5
武力 5
魔力 5
魅力 5
スキル:
◆◇◆◇◆◇◆◇
これは果たしていいのだろうか?
この世界の普通がわからないので比べようもない。
ただ直感的に感じたのは、少なくとも強そうでないな……と思った。
まず少し走って自分の身体能力を測ってみるかな。
・
・
・
・
・
10分後。
普通だ! たぶん並だ。 チートな感じは一切ない。 ジャンプをしても以前と変った気がしない。
そして、オレが息を整えていると、茂みから良からぬ音が。
ガサガサ……
テンプレきた!
イノシシっぽいのがいた。
牛と同じくらいの大きさで色が緑色。
オレの異世界思考では、ゴブリンかイノシシかウルフの三択だったが、どうやらイノシシモドキだったようである。
とりえず、言いたいセリフその2を言ってみる。
「火よ! イノシシを焼き尽くせ!」
「ファイヤー!、ファイヤーボール!」
「ファイヤーストーム!」
うん! 全く出るイメージが湧かない。
さっき走って、オレは薄々気付いていたんだ。
魔法なんて出来ないことを。
疲れたから「ヒール」って詠唱したんだ、けど無理だったんだ。
イノシシモドキ、オレにターゲットをロック。
「フゥ~フゥ~」って荒い吐息を吐いている。
何か目がすげー血走っている。 はい、まず無理、オレ死んだ!
だが、ただで死ぬつもりはない! とりあえず、そっと逃げてみるという選択肢を考えてみる。
イノシシモドキ何か地面を軽く削って気合を貯めはじめている。
やばっ。 これってPRGでいうと攻撃力2倍の溜めなんじゃないか!
そうだ! この木を登って……と。 いや、あかん……オレ木登りなんてしたことがない。
……ってか、随分と高い所に枝がある、こりゃ本当にあかん!
オレ関西人じゃないのに関西弁がでた。
このままだと、次は走馬灯だ。
これはヤバイ!
オレは、気配を消して【そ~っと、そ~っと】ゆっくりと距離をとる。
そう、イノシシモドキから少しでも離れるために。
そんな中、空気を読まずに話しかけてきたのがいる。
「ねえ、何してるの?」
それが彼女たちとのファーストコンタクトだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オレがその声を聞いた方向を見ると、何やら赤いちっこい美少女がフワフワと宙に浮いていた。
「妖精かな?」と思ったが、肝心の羽がはえていない。
「う~ん、妖精さん?」
とりあえず、フワフワ浮いている少女に聞いてみる。
オレが聞くと、少女は傷ついた顔でこっちを見てくる。
そして
「私は、精霊だ! 妖精と一緒にするな!」
と、いかにも心外そうにオレに答える。
ふむ。 精霊か。
異世界らしくて結構だが、この状況は結構なところか、かなりヤバメである。
何しろ、イノシシモドキを鑑定したみたところ……
◆◇◆◇◆◇◆◇
イノシシモドキ(コタロウ命名)
種族:ブルゾ
レベル.12
知力 2
武力 44
魔力 1
魅力 2
スキル:突進
◆◇◆◇◆◇◆◇
オール5 のオレに比べるとかなり強敵である。
いや、オレなど眼中にすらない……いやターゲットにされているからあるか……。
とはいえ、かなりマズイ状況である。
とりあえず、ダメもとでフワフワ浮いている赤い精霊に助けを求めてみる。
多分、火の精霊っぽいから、もしかしたらイノシシモドキよりも強いかもしれん。
反対に弱かったら、オレの異世界生活は早くも詰みになる可能性が大だ。
ちなみにこのステータス鑑定は、もしかしたら相手にとって不愉快と言われるかもしれん。 オレの愛読している異世界小説にそう書いてあったのをよく覚えている。
「赤い精霊殿、すまないが助力を頼む!」
何か緊張のあまり、何やらサムライのような言葉遣いになってしまった。
丁寧な言葉を急に遣おうとするとダメだな、オレ。
ちょこっとたそがれていると、赤い精霊から
「うん! いいよ。 もとから助けるつもりだったし」
おぉ……!助けてくれるらしい。
赤い精霊は、イノシシモドキに指をさすと……
【じゅわ~!】
さっきまでオレの脅威だったイノシシモドキがこんがりと焼けた。
そしてオレの体に変調が起こる。
何か身体の奥底から熱が発生するかのようにすごく熱い。
きっとレベルアップだ。
自分の能力値を見てみる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
コタロウ
種族:人間
レベル6
知力 15
武力 13
魔力 10
魅力 25
スキル:鑑定
称号:精霊の友
◆◇◆◇◆◇◆◇
何もしていないのにレベルが上がった!
なんか魅力の伸びがすごい。
おっとこれは、いかん。
命の恩人に礼を言わねば……。
「赤い精霊殿、ありがとう。 おかげで助かった」
「礼はいいから、来てくれない?」
だが、オレは、赤い精霊に付いて……いかない。
だって……イノシシモドキが美味しそうだったから。
レベルアップのせいかお腹の減りがすさまじいのだ。
そこにこんがりと焼けて、いい香りが辺りいっぱいに漂ってとても美味しそう肉だ。 もう目が離せん!
……だが、食べる方法がない。
でも、オレのお腹はヤツ(イノシシモドキ)を食べたいとグーやらキューやら盛大に大合唱をしている。
オレが、イノシシモドキをじっと見ていると、赤い精霊がオレが付いてきていないのに気付き戻って来た。
「何でこないの?」
「お腹がすごく減ったから……」
答えはいたってシンプル。
そこへオレのお腹がギュルルルル~と盛大な音を鳴らす。
赤い精霊は、オレのお腹を音を聞くと苦笑して
「少し待ってて」
そういうと、森の奥に行った。
それから五分。
オレがもう手で食べるしかないか、と思いイノシシモドキに手を伸ばそうとした時、赤い精霊が戻ってきた。
その横には、茶色の髪をした、やはりちっこい精霊? がフワフワ浮いていた。
茶色い精霊? は、オレの横に来て土に向かって指をさすと、あっという間に立派なフォークとナイフを作ってくれた。
「出来ました。 どうぞ」
「ありがとう」
茶色い精霊は、オレにフォークとナイフを少し赤くなった顔で手渡してくれた。
オレは、フォークとナイフの礼を言い受け取る。
早速イノシシモドキにナイフを入れると、スーッとほとんど力を入れずに切ることが出来た。
そしてイノシシモドキを一口食べると、口の中から肉汁が溢れ出して、とても美味しい。
あんまりにも美味しかったので、赤と茶色の精霊に「食べる?」と聞いたところ、首を横に振って断わられた。
う~ん、美味しいのに……。
二人を待たせ、少し悪いなと感じながらも食事をとるオレ。
およそ20分ほどかけ、ゆっくりと食事を摂ってどうにかお腹が落ち着いた。
「ごめん。 お待たせ」
オレがバツの悪い顔を二人に見せると、首を振り問題ないと笑顔で答えてくれた。
そしてオレは、赤い精霊と茶色の精霊の後を付いて森の奥へと足を運んだ。




