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精霊の王  作者: 蒼稲風顕
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家を手に入れる【王城にて】

宜しくです。

 1ヵ月後。

 オレは、王都に居た。

 精霊王たちとは他に1人の青年も一緒にいる。

 彼の名前はジーンというまだ22歳の青年だ。

 そう、異世界なろう団地の住人である。

 では何故、ここに居るのか?

 それは、彼がこの世界の街並を書きたいという彼の希望により、半年の期間ここで生活をするのだ。

 もちろん、滞在費やら何やらは、こっち持ちである。

 普段、塔の暮らしでは金は必要としない自給自足の生活を送っているが、金はサザナミくんの献金によりいっぱいある。

 ただ今回は、庶民の視点という事から、金貨10枚(4人家族で1ヶ月金貨1枚で生活出来る)を渡している。

 少し多いのは、取材費とかの経費である。

 本当ならもっと渡しても(50枚くらい)良かったのだが、ジーン本人に断わられた。



「お金がいっぱいあるから、いいというものではありません。 金貨10枚を頂きましたが、極力減らさないように努力します」(ジーン談)



 との事だ。

 本人は、小説を執筆するというのに並々ならぬ意欲と喜ばしさを感じているようで、異世界なろう団地の事をひどく喜んでいるようで、今回の執筆には自分の全てを投入して書きたいとのことだ。

 その為に、王都で自分自身の体験を書いておこうとの事だ。

 ちなみに、このジーン青年、今まで定職にもつかずフラフラしていたらしい。

 ところが、この異世界なろう団地に興味を示した途端、怠惰な自分からの脱却を何故か決意したとの事だ。

 こっちの世界に来てから、本来の自分(のんびり屋)に戻ったオレと大違いである。


 せっかくの機会だから家を買うことを決意した。

 今後、別荘的なものも必要になるかもしれないと少し考えていたので、先物買いみたいな感じだ。

 ただ、面倒ごとが今後起きる可能性も考えて、誰にも手出しを出来ないことにするとしよう。

 そんな訳で一番偉い人の住んでいる所。 そう王さまの住んでいる城に行くことにする。



「精霊王のフレイだ。 通る」

「同じくアクアです。 無礼を働いたらわかりますよね(にこっ)」

「同じくシルフだよ~。 入るね~」

「私も精霊王のアスナです。 通ります」

「妾も通る。 名はカルマじゃ」

「ご苦労。 私はヒカリ」

「そんな訳で通りますね」



 何がそんな訳かわからないがオレも一緒に通る。

 勿論、誰もオレたちの通行の邪魔をする人などいない。

 精霊王の邪魔をするという事は、今後この王都の住民たちはその属性の魔法を使えないという事を皆、理解をしているからだ。

 そう、門番も当然この事を理解をしているので止めることなど出来ないのだ。

 自分たちが仕える王族よりも、この精霊王たちの方が何もかもが上なのだと。

 だから、誰も精霊王たちを遮る事は出来ない。

 いや、それどころか道をあけさせるのに必死だ。



「精霊王さまのお通りです。 おどき下さいませ」



 その声を聞いた者たちも驚いているが、一目精霊王たちを見て、慌ててササッと廊下の端による。

 兵士であろうと高位の貴族、いや王族でさえ端により息を潜める。

 そして大きな扉の前に立つ人物が。

 この国の王さまである。



「どうぞ。 お入り下さい」



 王自らが、扉を開け招き入れる。

 そして下座に着き



「我が国が、精霊王さまに何か失態でも犯しましたか」


 と聞いてきた。

 するとアクアが、



「いえ、今回は頼みごとがあるんです。 私共の主人であるコタロウさまが、こちらの王都に別荘を構えたいとおっしゃるので、その件でお話がしたいと。 コタロウさま、お願い致します」

「アクア、ありがとう。 初めまして、私がここにいる精霊王の主人のコタロウです」

「なんと……。 精霊王さまに主人が居たとは……」

「いや実際、お世話をして貰っているだけなんですけどね」

「それにしても……。 で、こちらに別荘とは?」

「ええ。 今回、小説を作るのにここでの家などが必要となったので一度、ここの最高の立場である王さまに会って話をしとこうかと思ったのです」

「小説?」



 何かよく分からなさそうな感じの王さま。

 まあ普通に考えたら、こんなことで王さまの所に来る人なんていない。

 せいぜい警備隊長のところくらいまでだ。

 だが、万が一問題が起こってはいけない。

 あの時、何故手抜きをしたんだと思ったら悔やんでも悔やみきれないし、手間もこの100倍以上にもなるだろう。


 ここで手抜きさえしなければ、今後何か問題が起こっても迅速に対処してくれる(この国が)

 そして蔭で別荘を見守ってくれるし、ものすごく融通をしてくれる筈だ。

 二時間で、この国が潰れるまで面倒を見てくれるのだ。 しかも、ただで。 何と素晴らしいことか。


 とりあえず小説の事を話すと興味が湧いたらしく、この城の重要書庫まで閲覧可能にしてくれるとのことだ。

 そして、土地も用意してくれるとの事だ。(ただで)

 あまり大きいと悪いので、30坪くらいの大きさを貰った。

 途中で「売家」と書いたのを見てチェックしたのだ。

 狭くないかという王さまの好意を断わり、その家を指定する。



 家を貰い、言質も取ったので、広間から出る。

 オレ達が出てから、先ほどの広間に人が走っていく。

 これから、この件で会議があるのだろう。

 色々大変だろうが、オレの安寧の為に是非とも頑張って欲しい。

 反対の立場なら、すごく文句を言っていただろう。

 すまん、許してくれ。



 とりあえず、これ以上居ても仕方ないので、城から出ることに。

 案内をするのは、先ほどの門番さんと違い、何やら偉そうな格好をした貴族さまだ。

 実際、見た目は偉そうだが、オレ達に対する言葉遣いなどは柔らかい。

 きっと話している間に、案内をする人選をしたのだろう。

 失敗したら、終わりかもしれないと考えているだろうからな。

 オレ的には、門番さん……いや、メイドさんが良かったんだけど仕方ない。

 まあ案内してもらうだけだから、何もないからね。

 城の玄関でお礼を言って別れた。



 家のある街中まで案内しそうな勢いだが、住む場所は小説を書く為の一般の区内だ。

 一緒に行けば、今後の小説を書く際に影響が出そうだからね。

 城の玄関で別れたあと、宿に待機しているジーンを呼ぶ。



「どうでした?」

「家を王さまから貰ったから、これから行くよ」

「……家をですか?」

「そそ。 とりあえず、王さまから何かあったら融通してくれるように言ったから……あっ、オレはいいけど、ジーンは会ってないから困るよね」

「……はい。 お城に入れません」

「だよね~。 じゃあ、これから顔合わせに城に行くよ」

「えっと……これからですか?」

「今、行ったばかりだから大丈夫!」



 何か釈然としないジーンを連れて、再度城に行く。

 ジーンは、城の前に来ると尻込みをしたので引っ張って入城する。

 オレが城に行くと、少しざわめきながらも緊張した面持ちで案内をする人たち。

 再度、広間に行くと、疲れた顔をして会議をしている重臣の面々がいた。

 お疲れさまです。



 当然、案内をする人が「緊急な用件で少し大丈夫でしょうか?」と言うと、当然「今、忙しい」との返事が。ただオレ達が現れたと聞くと一転「どうぞお入り下さい」と低姿勢な挨拶をする王さまと重臣さん方。


 オレが「忙しいところ、申し訳ございません」とペコリと頭を下げると、慌てる面々。 少し楽しい。 何か普段、どっしりとした偉い人が慌てるのは見ていて普通に楽しい。 普段、人に慌てさせているのだから、たまには自分たちが慌てるのも良い経験でしょ?


 絶対に同じ立場になって胃を痛めたくないけど。

 まあ特に恨みつらみがないので、ここいらで本題に入る。



「今回、私が来たのはここに居るジーンという青年を紹介したく参りました。 こちらに居るジーンは私たちとって大切な人材です。 その為、万一の事態にならないよう初めに顔合わせをさせて貰ったのです」

「そうですか。 これ、絵師を呼んでジーン殿の顔を描くように」



 王さまが言うと、10人くらいの絵師が現れジーンを描いていく。

 ジーンというと、すっかり緊張して固まっている。



「ところで、王さま。 このジーンは王都にて庶民として普通の生活を体験したいので、あくまで見守る形をとってもらって構いませんか?」

「わかり申した。 小説に必要なのですね。 みなの者もあくまで、表に出ず陰で協力をするように!」



 王さまが言うと、家臣たちは一斉に頭を下げる。



「コタロウさま、こちらで宜しいでしょうか?」

「はい。 ありがとうございます。 こちらからお願いをするまで特にやって貰うことはありません。 ただ、この者がお城に入れるよう、お願いします」

「それはもう。 後でこの絵を門番に覚えさせます」

「すみません。 よろしくお願いします。 では、私たちはこれで」



 と、オレたちが席から立つと、少し弛緩した空気になるのが分かる。

 お疲れでござる。

 お城の方々、そしてジーン。

 じゃあ帰るかね。

 そして、オレたちは宿に戻るのだった。

 とりあえず、今日は疲れたので、やっぱり家は明日にしよう。

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