4月8日 私立浜丘学園始業式-1
浜丘家の朝は早い。
俺、「浜丘 結」は朝六時をもって台所に立っている。卵焼きを綺麗に巻き、ソーセージを軽く醤油で焼いて、出来上がった味噌汁をよそる。
勘違いされがちだが俺はこれでもれっきとした男だ。料理が好きで、家事全般も得意、加えて名前がいかにも女の子らしいが男である。
こんな風に毎朝3人前のご飯だって作ってるのは他に作るひとがいないだけだからだ。
なんていったって、この家の唯一の女子は朝食の準備をする俺の目の前で胴着姿でいるのだから。
??「ふーーー、めんどかったー」
ほぼ朝食が並びおえられたテーブルにうなだれて座ってる。
結「すぅ姉お疲れ」
??「んー…」
ポニーテールとして束ねていた茶色の髪をほどく。
整った顔立ちや、その綺麗な髪の毛、それとなりに胴着を着こなすのが俺の義姉「浜丘 涼香」。身長も高く、ナイスバディの持ち主。浜丘につたわる武術を継ぐ1人として育ち、本人も武術が好きらしい。ただ残念なのは勉強…といったものではなく性格だ。自由奔放、やりたいことはやるしやりたくないことはやらない。変なところでめんどくさがり屋なのだ。そしてまた、ドがつくぼどのブラコンだ。
涼香「きょうも朝からうまそうだな…っと」
ひょいっと、よそったソーセージを手づかみで口に運ぶ。
結「あっ、おい!それじいさんの分じゃねーか!」
涼香「きにしなーい、きにしない。あのじーさん朝からあたしをいじめてきたんだもん!ん!」
手についたソーセージの油をペロペロと舐めて、俺に拭いてと手をむける。
当たり前のように油とよだれがついた指をタオルで拭いてあげた。
涼香「ったく、あのじじーなんであたしにはあんな厳しいんだよ」
愚痴りながらまた逆の手でソーセージをつまむ。
結「そりゃ、じいさんがすぅ姉のこと好きだからでしょ。そんなことよりまたじーさんの分を食べるなよ」
こっちが拭いてあげてるというのにすぐ汚す。
さっきと同じように手をペロっとなめてる。
涼香「別にいーだろー…ところで、じーさん「は」なの??」
結「……」
姉さんはニヤニヤしながら俺をみつめる。浜丘家ではもはや定番。姉による弟いじりだ。常日頃から慣れた俺だ。そんな攻撃は通用しない…といいたいとこだが、なんだかんだで姉さんにはいつも甘く、うるさいなんていえなくて、
結「まあ、一応俺もかな」
なんてシスコンみたいなことをいってしまう。
涼香「う~ん。相変わらずかわいいやつめー!」
うりゃーっと指を拭いてる俺に抱きついてきた。
結「はいはい、飯できたんだからさっさと着替えてこいよ」
小さなころからずっとやられてるせいか、魅惑的なボデでィの誘惑にも簡単に流せるレベルになった。いまでは抱きつかれたくらいじゃあ動じない。
??「まったく…相変わらずじゃな」
食卓に入って来るとき、効果音としてはドシンッ!というのがピッタリだろう。
姉さんと同じ胴着を着るが見た目はえらく図体のいい大男が入ってくる。二メートルはあるその身長で俺と姉さんを見下ろす。この大男こそ「浜丘 仁」
孫として子供の俺を養子にいれてくれた恩人であり、私立浜丘学園学園長。浜丘家が昔から武家の血筋が強いといわれてるなかでも史上最強といわれてたとかなんとか。
なんてもはや存在がラスボスでありチートな存在。しかも今年で80を越えるというのにその顔つきや体つきは60を越えてるようには見えない。どっちかというと妖怪か化け物の類いと思ってもいいかもしれないんじゃないかと。ただこの人がいなかったら今の俺がいることもなかったわけで、感謝はしきれないわけで。
仁「涼香と結は朝の抱擁が多すぎするんじゃ。ちっとはわしにも抱きつかんかい」
さあ!と、腕を広げて抱きつかれる体制にはいる。
涼香「あたしは自分からダンプカーに突っ込みたくはない」
…その発言には大いに賛成だ。がっしりとした体つきの大男が両手を広げただけでも圧巻なのに身長も二メートルときたら押しつぶされてしまう。
おもいっきり抱きつかれてもしたら口からあらゆるものがとびだしてしまうわ!
仁「しゃーないの~。じゃあ、結。ん!」
いつのまに、姉さんのソーセージをつまんだのだろう。
じいさんも姉さんと同じように汚れた手を差し向けたのだ。
結「……」
さすがの俺もこれはタオルでふきたくない。黙ってタオルを手のひらに置いてあげた。
仁「なんじゃ~。いけずじゃのう~」
大男がくねくねするのを、俺はどう対処したらいいかわからなかった。
涼香「つーか、じじー!あたしのソーセージくったろ!」
仁「御前がいえたことではなかろー!」
年の差約60…このしょーもない茶番から浜丘家の朝がはじまってく。