表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4

「エラ様ですか? 令嬢には珍しく、家事をなさるのがお好きな方ですわ」

「メイドである私たちに掃除や料理のノウハウを教えてほしいと仰って……時々このお屋敷にもいらっしゃいますのよ」

「リンシア家は先代の当主がお亡くなりになってからかつての勢いを失ってしまわれ……ご家族は家を未来を遺すため、節制を自らに課していらっしゃいます」

「最初は奥様やお嬢様方もエラ様を疎んでいらっしゃったようですが……エラ様はご家族が第一といった方ですので。今では此方が微笑ましく感じるほど仲が良いご家族でございます」


以上、お屋敷のメイドさんや執事さんから仕入れたリンシア家に関する情報。

おかしいなー……私が知ってるシンデレラと大分違うよー?

そう思ったのは私だけじゃないみたいで、雛子ちゃんや菊香ちゃんも困ったような、複雑そうな表情を浮かべていた。そりゃそうだ。シンデレラといえば継母や義理の姉に虐められこき使われ、泣き暮らす健気な少女。家事が好きかどうかは知らないけど、間違っても一家総出で節約生活を送ったり仲睦まじく暮らしたりはしてないはず。


混乱する私たちをよそに、小毬ちゃんは動揺した様子一つ見せなかった。小毬ちゃんは驚いたりしなかったのかな? そう思った私は、小毬ちゃんに向かって声をかける。

「小毬ちゃん小毬ちゃん。小毬ちゃん、ビックリしないの?」

「あら、何か驚くところなんてあったかしら? 私としては何で三人が動揺してるのかが疑問なんだけど」

「え、だって……シンデレラのお話と、少し違う部分がありますよね? お話の中のシンデレラは、お姉さんたちにこき使われてて、仲良くなんてなかったし……菊香ちゃんや紫乃ちゃんがビックリしてるのも、だからだと思います」

私たちの動揺の理由を代弁してくれた雛子ちゃんの言葉に首を上下に振って頷くと、小毬ちゃんは納得したように微笑みを浮かべた。

「ああ、そういうことね。童話の世界の中には、話の中とは違った性格だったり環境だったりする登場人物もいるのよ? でも、気にすることはないわ。最終的に話の本筋が同じならいいの」

「……そーゆーものなんですかー?」

「ええ、そうよ」

質問に答えた小毬ちゃんは、まるで人生の先輩みたいな、余裕のある笑みを浮かべてみせた。


やっぱり、魔女歴が一番長いベテラン魔女の小毬ちゃんは私たちよりも経験を積んでる。私は、小毬ちゃんが焦ったりすることをほとんど見たことがない。たった一歳年上なだけなのに、冷静で大人な小毬ちゃんは私の憧れ。……ううん、同い年でも、自分の考えをしっかり持っている菊香ちゃんや他人の為を思った発言や行動ができる雛子ちゃんも、私の憧れ。……三人を見てると、何だか自分が三人より一歩も二歩も遅れた場所にいる気がしてくる。本当はそんなこと無いのかもしれないし、そんなこと無いって思って行動するようにしてる。だけど……ちょっと、焦っちゃう感情はあるかな。私ももっと頑張らなくちゃ、みんなに追いつかなきゃって。その為にも、まずは目の前の任務にしっかり取り組まなきゃね! よし、頑張ろう。


「そういえば、ガラスの靴って準備できたの?」

ガラスの靴は、シンデレラの重要アイテム。それがないと、王子様と結ばれることができない。

かといって、普通にガラスの靴が売っている訳でもないし……。

「ああ、それなら……」

小毬ちゃんが何かを言いかけた時、お屋敷の扉が開いた。誰か来たのかな?

「はいはーい、ちょっとお客様のお相手してきまーす」

扉の方に足を向けようとしたけど、菊香ちゃんが一足早くお客様の方へと向かう。早足で歩いているのに、立ち居振る舞いにちゃんと品がある菊香ちゃんは本当に凄いなー。本人は、子どもの頃にマナー教育受けたからだって笑ってたけど。小さい頃からそういうのが徹底されてると、やっぱり違うのかな?


「業者のおじさんが言ってたんですけどー、この袋の中身、小毬さんが頼んだって本当ですかー?」

しばらくして戻ってきた菊香ちゃんの手には、小さめの白い袋が握られていた。

中で何かが擦れてシャラシャラと音を立てている。

「ええ、私が下町の業者さんに道すがら頼んでおいたわ。」

「道すがらって、このお屋敷に着くまでの道ですか? やっぱり小毬先輩、仕事早いですね。中身はガラスですか?」

「そうよ。流石雛子、理解が早いわね」

雛子ちゃんの頭を撫でる小毬先輩。ガラス……? ……あ、そういうことか。


魔女には、魔力があれば皆が使える基本魔法とは別に、自分の専門分野に基づいた固有魔法というものがある。具体的に何ができるって訳じゃなくて、この分野に関することができるって感じかな?

小毬ちゃんの固有魔法は無機物操作。無機物を操ったりするのが基本だけど、原材料さえ揃っていたらその無機物を変形させたり融合させたりして加工物を作り出すことができるの。

ガラスを頼んだってことは、きっとこれからガラスの靴を作るんだろうな。……って、あれ?


「小毬ちゃん、エラさんの足のサイズ、分かるの?」

シンデレラといえば、ガラスの靴にサイズがぴったり合う女の人を探す場面が印象的。ガラスの靴は、シンデレラのエラさんのサイズに合わせて作らなきゃいけない。

「そうなのよね……。演技上手な菊香に足のサイズを調べてもらおうと思っていたんだけど。お願いできるかしら?」

「足のサイズですかー?そんなの調べたことないし、何とも言えないですけど……任務ですからね、やってきますよー」

菊香ちゃんは袋を小毬ちゃんに渡して、軽く敬礼してみせた。どんな事でも出来ない、とは言わない菊香ちゃんは凄いな。

「それじゃ、一仕事いってきますかー」

敬礼の姿勢を解いて、リラックスするみたいに一回大きく伸びをした菊香ちゃんはそう呟いて、お屋敷を出て行った。


菊香ちゃんなら、本当にエラさんの足のサイズ調べ上げて帰ってくるんだろう。そう思えちゃう。小毬ちゃんにしろ、菊香ちゃんにしろ、雛子ちゃんにしろ、みんな本当に凄い。

こんな三人と行動するのは、誇りでもあるけど、ほんの少しの劣等感を味わうこともある。私は小毬ちゃんみたいなリーダーシップがある訳でも、菊香ちゃんみたいに自分自身をしっかり持っている訳でも、雛子ちゃんみたいに周りの考えを汲み取れる訳でもない。……私も、もっともっと、みんなに頼ってもらえるように頑張らなくちゃね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ