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固く閉じた視界を貫く光。

風に舞う髪が頬をくすぐる感触に、目を開いた。


捨てられた雑誌や古新聞、転がるモップ。左右には高い塀がそびえ、全体的に薄暗い雰囲気が漂う路地裏。

魔女が使う移動魔法陣には、自動的に人の居ない場所を転移地点に設定する機能が備わっているらしい。魔法陣を完成させたのは遠い昔の人だから詳しくは知らないけど。


「あ、菊香ちゃん。昨日頼んでた服、持ってきてくれてる?」

「とーぜん。雛ぽんの頼みだもん、持ってきたよー」


はい、コレでしょ? と菊香ちゃんが雛子ちゃんに向かって差し出したのは、大きな袋。……計画書にかかりっきりで他のみんなが何してるか全然見てなかったけど……あれ、なんだろ?


「ありがと、菊香ちゃん。多分この辺りの道、人は通らないと思うけど……小毱先輩、あそこのレンガで壁作ってくれませんか?」

「壁……人の頭まで隠れるほどの高さがあれば十分かしら?」

「はい、お願いします」


壁? なんで壁がいるんだろう? まずはシンデレラさんの家を探すはずじゃ……。

頭上に疑問符を浮かべる私をよそに、頷いた小毱ちゃんは魔女結晶に手を添えて魔法を発動させようとする。小毱ちゃんの魔力に応えるように、魔女結晶は光を放ち、小毱ちゃんの手のひらに小さな魔法陣が浮かび上がる。

小毱ちゃんが路地裏に積まれたレンガを指差すと、レンガはふわりと浮かんで、自動的に積み上がり路地裏に壁を作り出した。

私たちの中では小毱ちゃんだけが使える魔法、物質操作術。繊細なコントロールが必要らしいけど、あらゆる無機物が操れるらしい。


「ありがとうございます、小毱先輩。これ、小毱先輩の分の服です。はい、菊香ちゃんと紫乃ちゃんも」


そう言って渡されたのは、黒いワンピースに白いエプロン、カチューシャタイプのヘッドドレスといった清潔感のあるクラシカルなメイド服。

……あ、はい。今回の衣装はこれなんですね。


徹夜明けのせいか今まで分からなかったけど、童話の世界に来てまずすることは基本的にその世界に馴染めるような変装。昨日の雛子ちゃんの言葉からして、今回はシンデレラの家のお隣に勤めるメイドさんに変装するみたい。


メイドかー、久しぶりだな。カエル王子の時は宿屋の村娘に変装したし。でも、久しぶりとはいえこれは任務。メイドさんのお仕事やお作法なんかもちゃんと覚えてるよ!


とりあえず、急いでメイド服に着替える。袖口を折り返して首元のリボンタイを締めると、気分も少しシャキッとする。


「みんな、着替え終わった?壁崩すわよー」


小毱ちゃんが指を鳴らすと、壁を作っていたレンガが元の位置へと戻っていく。

小毱ちゃんや菊香ちゃんはよく指を鳴らすけど、私全然鳴らせないんだよね。どうやったら鳴らせるんだろうなー……。


「紫乃りーん、ぽけーっとしてないで早く目的地行くよー?」

「あ、ごめん!って、あれ? 目的地の場所って分かってるの?」

目的地なんて調べてる時間は無かったはずだけど……。菊香ちゃんはメイドさんらしく淑やかに歩きながら、私の疑問に答えてくれた。


「紫乃りん、歩き方が雑だよー。もっと歩幅小さくお上品にー。で、えーっと、地図だっけ? 会長から現地の地図渡されたよー」

「おっと、ごめんね。え、お母さんが? 珍しいね、お母さんが資料準備してくれるなんて」

「今回は急だったからー。会長さんが、地図とシンデレラさんについての資料、あと舞踏会の招待状だけは準備してくれたみたいー」


へー、なんて相槌を打っているうちに着いたのは二つ並んだ大きなお屋敷。

「隣のお屋敷が、シンデレラ……正式にはエラ=リンシア侯爵令嬢とそのお母様、お姉様方の住居。で、目の前のこのお屋敷が任務達成までお世話になるハミルトン子爵の邸宅。ハミルトン子爵はまだ独身でいらっしゃるけど、お年を召した方で介護の必要があるらしいわ」


カバンからファイルを取り出して資料をめくりつつ説明を進める小毱ちゃん。

私たち三人は真剣にそれを聞いて頭に入れていたけど……不意に隣のお屋敷、シンデレラことエラさんのお宅から一人の女の人が出てきた。


「うーん……今日の晩は何にしようかしら? 人参はもう使い切ってしまったし、大根も育つのはまだ先よね。明日はお母様やお姉様がとても楽しみにしていた舞踏会ですもの、やはり今日くらいは奮発してお肉を買うべきかしら……」

長く美しい金髪を無造作に下ろし、金色のまつ毛が影を落とす大きな瞳はエメラルドのように輝いている。

文句なしの美少女。その声は鈴が鳴るように涼やかで美しい。しかしその美少女はなんとも世知辛い独り言を呟きながら、そのまま通り過ぎて行ってしまった。独り言の内容と方向からして、市場へ向かったのだろう。私たちがここに着くまでの間に、広場が市場で賑わっていたもの。


「八百屋のおじさま、トマト半額にしたりしてくれないかしら?」

風に紛れて、微かにそんな声が聞こえた気がした。


え、まさか……あれがシンデレラ? あの、コメントし難い独り言を呟いて颯爽と歩いていった美少女が?

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