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すいません、今回大分短いです。
「で、できたよ計画書……」
半分徹夜でフラフラだけどね!
半ば意地で書き上げた計画書を魔女歴が一番長い小毱ちゃんに差し出す。吸い込まれそうな程黒いその瞳が、紙面を辿るように動いていく……任務前は小毱ちゃんに毎回計画書の最終チェックをしてもらっているけど、この時間が一番緊張する。
小毱ちゃんは魔女としての任務に誇りと責任を持っている、魔女の鏡。当然自分にも厳しいけど、同じだけ他人にも厳しい。三日かけて仕上げた書類や計画書に没の評価を下すだなんて、ザラにあることなのだ。
……さあ、今回の評価は?
「細々とした所の詰めは甘いと言わざるを得ないけど……任務本番は明日だものね、この計画でいきましょう。昨日の今日にしては良い出来よ? お疲れ様、紫乃」
「やったーっ! あ、でも完璧に一発OKって訳でもないんだよね……」
「ええ。今回みたいに切羽詰まった状況でなきゃ、再提出させていたわよ?」
「うう……やっぱりかー。もっと立案の腕を磨かなきゃなー」
「そうね。でも、紫乃の計画のおかげで今まで私たちは任務を遂行できているのだから。あまり気負いすぎちゃダメよ?」
「はーい」
優しく微笑みながら、小毱ちゃんは私の頭に手を伸ばしてきた。
小毱ちゃんは優しいなー。厳しいけど、私たちのことよく見てるし……なんていうか、先生? もしくはお姉さんみたい。
頭を撫でられる感覚に頬を緩ませていると、待ちくたびれたのか部屋の奥から異世界へ移動する準備を進めていた二人の声が飛んできた。
「ちょっとー、小毱さーん? 紫乃りんの頭なんか撫でてないで、早く移動しましょーよー」
「ふ、二人ともー! 準備終わりましたよ、いつでも移動できますー」
二人の声を聞いた小毱ちゃんは、私の頭から手を離して魔法陣の方へと向かう。……残念、小毱ちゃんに頭撫でられるのってとっても気持ちいいのに。
気を取り直すように私も髪を手櫛で軽く梳いて、小走りで三人の方へ駆けていく。異世界へ渡る過程で離れ離れになることがないように、全員しっかりと手を繋いだ。
「待たせてごめんなさいね、二人とも。移動しましょうか。全員魔法陣の中に入ってるわよね?」
小毱ちゃんが魔法陣から体が出てないか視線を走らせて確認すると、ペンダント型の魔女結晶に片手を添える。
小毱ちゃんの魔女結晶は、いつ見ても綺麗。黒曜石って言うんだっけ? まるでその宝石みたい。黒いけどキラキラしてて……黒が似合う女の人って素敵だよね、大人っぽい気がして。
それにしても、魔女結晶がないと魔法が使えないっていうのは少し不便だと思う。魔女結晶に魔力が込められているらしいけど、でもその魔力って元々は私たちの中に溜め込まれていたもののはずで……それなら魔女結晶無しでも魔法が使えると思うんだけど。……考えると頭が痛くなってきた。理論は魔女塾でちゃんと勉強したのになー。そりゃ座学の点は特別良くはなかったけど。
っと、そんなことを考えている間に魔法は発動していたみたい。小毱ちゃんの魔女結晶は淡い光を発して、それに呼応するみたいに魔法陣も光を放つ。
その光が一層強くなった瞬間、私たちを襲う揺れ。まるで大渦に巻き込まれたかのように、体の軸がブレる。あまりの衝撃に、回数を重ねて慣れてきているとはいえ涙が滲んでいく。安定しない視界の中、ただ離れないように握りしめた手に力を込めた。
もっと穏便で安全な移動魔法が開発されないものだろうか。魔女が数える程しかいない現代においてはそれも難しいのかもしれないけど。