第五章〜始動〜
〜死天宮・東の空間〜
「何か分かった事は?」
複雑怪奇な機械と対峙している宗輔に問う。
「そうですね。この箱を構成する物質がこの世界に存在しないという事。そして異様なエネルギーを発しているという事。今分かるのはこれぐらいですね」
言いながら宗輔は眼鏡を外している。
「十分だ。後は司に任せれば良いだろう」
「また司を使うんですか。あなたは自分で動こうと思わないんですか」
「僕の力は戦闘用だから捜索には向かない。だが司の力は捜索に向いている。そう考えれば妥当だろう。」
僕は宗輔に説明して部屋を出ていった。
〜回廊〜
「朔夜様。お忙しい所申し訳ありません」
そう言って僕の目の前にエメラルドグリーンの瞳に絹糸のような黒髪を持つ少女が現れた。
少女のとなりでは兵士が敬礼している。
その光景は奇妙なのに違和感がなかった。
「梨音か。何か変わったことでもあったか」
「冬嘉様が獲物の位置を捉えたそうです」
梨音が口に出した冬嘉とは僕の師でもあり禁忌を犯した犯罪者でもある。
「梨音。すぐに特殊師団を集めれるか?」
「一時間程度で招集できますが……」
「かまわない。それじゃ頼むぞ」
「わかりました」
そう言って彼女は兵士と共に去っていった。
〜研究棟〜
「すまないが、仕事を頼まれてくれないか?」
僕は司に訊いた。
「急ぎの仕事か?」
「ああ、早めに終わらせてくれると助かる」
「そうか。それじゃ仕事内容を教えてくれ」
「ああ。こいつの構成物質に一致する鉱石を探してもらいたい」
僕は言いながら箱を投げ渡した。
「これは……姫翠石か」
「知ってるのか」
「俺の旧友に錬金術師がいてね。そいつがよく使っていたよ」
「そんなことはどうでもいい。どこで手にはいるんだ?」
「そうだな………あくまで予測だが端界にあるかもしれないな」
「端界だな。仕事の邪魔をして悪かったな」
〜死天宮・天の園〜
「朔夜様。特殊師団の招集完了しました」
「すまないな」
「私はあなたの為にいるのです。礼など必要ありません。それと堅苦しいしゃべり方もやめてください」
「そうだったな」
僕は微笑んで彼女を見つめた。
「……?あ、あの……」
彼女は僕の瞳に気づいたようだ。
「どうした?」
「いえ、こちらを見ていたので……」
「気づいたか」
「……分かりますよ」
「……何で見てたか知りたいだろ」
「いえ、結構です」
「……そうか。それじゃ次の仕事を頼まれてはくれるか?」
僕は彼女に訊いた。
「私はあなたの為にいるのです。どんな仕事も引き受けます」
「それじゃ特殊師団と共に端界に行ってくれ」
「わかりました。それでは失礼します。」
そう言って彼女は出ていこうとした。
「待て」
僕は去ろうとする梨音を呼び止める。
「何でしょう」
「………気をつけろよ。………お前が帰るのを待ってるからな」
「えっ、私をですか?」
「ああ。必ず僕の元に戻ってこいよ」
「……はい。それでは行ってきます」
彼女は色付く頬を見られないように足早に去っていった。
「愛してるよ……梨音」
彼女が部屋を出た後僕は小さく呟いた。