第四章〜女〜
「……い。……しい。苦しい。俺は……どう……なったんだ……。うっ。気持ち……悪い………」
「……て。…起きて。」
声が聞こえる。
俺を引き戻す。
優しい…声に…俺は目を…覚ます。
「……俺は何をしてたんだ。……俺は端界にいたんじゃないのか。」
「……どうしたの?」
「んっ?この声は……美樹か。」
俺は声のする方に首を傾けた。
そこにはいつもの幼なじみがいた。
「お前……何してんだ?」
「私が聞きたいぐらいよ。あんたここで倒れてたのよ。」
(……倒れてた?いや、そんなはずない。俺は端界にいたはず。そしてこの世界と決別したはず。……どうして、コイツがいるんだ。)
と考えている俺の頭部に痛みが走った。
「痛っ!」
俺はな奇声を発しながら上を見上げた。
いつもの幼なじみは見慣れぬ物を持っている。
それは端界にいたときに見た歪みだった。
「何でお前がそんな物持ってるんだ。そしてなぜ俺を殴った?」
「知らないわよ。それにいつの間にか変な場所に迷ってんだもの。ホントに困ったわ。殴ったのは何となくよ。」
幼なじみは言いながら周りを見回していた。
そう言われて俺は異変に気が付いた。
周りは全て歪んでいる。いや、歪んで見える。
俺は隣にいる幼なじみに聞いてみた。
「お前、それどんな風に見える?」
「どんな風って言われても……分からないわ。」「例えば歪んでるとか、透けているとか。」
「そうね。強いて言うならば少し歪んでるわ。」
(やっぱり……。
それじゃここは端界なんだ。そしてコイツも選ばれたってわけだ。)
俺は考えた後幼なじみに話しかけた。
「なぁ。これからどうしたらいいんだ。」
「さぁ。私が知るわけないでしょ。」
「それもそうか。……少し歩いてみるか。」
「そうね。ここにいても仕方ないしね。」こうして俺たちは少し歩くことになった。
そしてやっぱりあの小屋を見つけた。
「なぁ。この小屋どう見えるよ?」
「少し汚れてるわね。」
「そうだな。これ見るの二回目だけどやっぱり汚れてるな。」
「んっ?……二回目って言った?」
「うん。ちょっと前に見たからな。」
「それじゃここの事知ってるの?」
「ああ。ここは端界っていう世界で歪んだ世界って感じだ。そしてこの小屋は最後の決断をするためにあるということ。」
俺はわかる範囲でここのことを教えてやった。
「ふーん。つまり私たちは特別扱いなのね。」
「……お前、俺の話を聞いてたか?」
「聞いてたわよ。」
「それじゃお前がバカなんだな。」
俺は言いながら幼なじみの頭を小突いた。
「いたっ。いきなり何するのよ。頭悪くなったらどうしてくれるのよ。
このバカ魁斗。ちょっと、聞いてるの?」
文句を連発している幼なじみを抱えて俺は飛び退いた。
『ザクッ』
刺音とともに俺たちがいた場所に穴が開いていた。
俺は少しビビりながら上を見た。巨大な刀を装備した人間……いや、人間じゃないかもしれない。そんな気持ち悪い歪みが俺達を睨みながら立っている。
「ちょっと、何なのよこの化け物は?」
幼なじみは恐怖に声を震わせ、俺は化け物の姿に見入っていた。
『ドスッ』
化け物の背後で鈍い音。同時に化け物の躰は空に霧散した。
霧の向こうには歪みを持った女が立っている。
「あなた達、邪魔よ。どきなさい。」
その女は表情の無い冷たい声でそう言った。
それに反応したのは俺ではなく幼なじみだった。
「あなた……何者なの?あんな化け物を一撃で倒しちゃうなんて……普通じゃないわ。」
幼なじみは恐れを持って問いただした。
しかし女はその質問には答えずこちらに歩いてくる。
少しずつだが確実に歩を進めてくる。
そして目の前で止まった。
幼なじみと俺は静かに女を見つめていた。
しばしの沈黙。
「あなた達どうしてここに来たの?」
沈黙を破ったのは女の表情の無い冷たい声だった。
「そ、そんなの知らないわよ。」
「そう。それじゃあなたは知ってる?」
幼なじみの答えに満足出来ない女は俺に問いただした。
「俺は……俺は……自ら望んでこの端界に来た…誰の指図も受けない!」
俺は叫んだ。
「……そうね。分かったわ。それに私にあなたを止める権利もないしね。せいぜい死なないように気を付けなさいよ♪」
女は去っていった。
これから起こる全ての現象を知ってるかのようなセリフを口走って………