第4節 やっと言えたよ
「えーっと、私がやってるのはコンダクターっていう仕事なんだけれど、色々な人から来る電話やメールの応対をやってるの」
「それって、つまり死なせてくださいという電話があるってこと?」
湾曲した言い方は絶対しないトッキー。
「うん…… ハッキリ言うとそういうことだけど…… でも、ライフ・ケアってそういう場所って思っている人が多いだろうけど、本当はできるかぎりそういう人を無くそうとするための施設なんだよ。で、私たちコンダクターが色々話を聞いて適切な処置をするの。処置と言っても病院を紹介して予約したり、借金問題で悩んでいる人には専門アドバイザーを紹介したり。あと生活保護の手続きとか」
私の言葉に隙無くテンヨの質問が続く。
「でも、それってかなりキツくない? かなり濃い話を聞かされるんでしょ?」
「そうだね。かなり重い話もね。だから電話応対とメール応対は1日交代なの。直接声を聞いて対応し続ける方が精神的負担が大きいから」
みんなは興味津々を通りすぎて神妙な顔つきに。今日の日の雰囲気が壊れるのが怖くなったけれど、話し始めてしまったものを止める術が無くあまり深い話にならないように続けた。
「でもコンピューターが電話の声をリアルタイムで自動解析してくれてどう対応すればいいかアドバイスしてくれるから大きな不安はないよ」
トッキーは理解をしてくれたのか頷きながら姿勢を正した。すると意外にも美紅が小声で聞いてきた。
「でもさぁー、こんな事言っちゃあ何だけど…… 実際、そこで死ぬ人がいるんだよね?」
「う、うん……」
「そういう人たちはどうなっちゃうの?」
話が進むとやっぱりそのことが誰しも気になるんだろうなと分かっていて警戒してたけど、美紅に聞かれてしまい困惑し小声で私は答えた。
「どうなっちゃうって…… そういう人たちはライフ・ケアで最期を迎えて……」
この時ここでライフ・ケアの話をしたことに後悔の念が沸いたけど、それでもみんなには話しておきたいという気持ちの方が強く言葉は止まることなく滑らかに口から出てきた。
「その後は遺族の方が引き取ることもあるし、本人の希望や遺族がいなかったりした場合は、ステーションにある納骨堂に納められるの」
「楽に死ねるもんなの?」
容赦なく来るトッキー。またまた覚悟しているはずなのに困惑する私。
「楽かと言われると…… たぶん……」
今まで仕事の事をみんなに黙っていて、リアッチャで会うたびにどことなく気が引けていた感触があって、今こうやってリアルで会って話すことになった訳だけど、やっぱり世間では人の命を助ける仕事っていう見方をされていないのが常に私自身、肌で感じてるからかこればかりは口にしづらい。
「私が知っているのはナノマシンを使ってるっていうことだけ」
「ほぉー、文明の利器はそうやって利用されてるのかぁ。いわゆる安楽死ができるんでしょ? 生涯独身で行ったらお世話になりたくなるかもしれないよね。孤独死するよりはいいのかな、なんて思っちゃったりするよ」
トッキーはホントあっけらかんと簡単に安楽死だとか孤独死だとかを言っちゃうからスゴイ。
「あーん、なんとか30までにはいい人みつけたいよねー。凛子が羨ましい」
テンヨの言葉に私たち完全フリー独身組は黙って頷いた。
凛子の結婚式というおめでたい日にライフ・ケアの話をしたのは心苦しかったけれど、みんなにライフ・ケアの話ができたことで胸の奥の重たいものが溶けて軽くなった気がした。
やっぱりみんな私の大事な友達だから私の事を知っていてもらいたい。