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第3節 私の友達

 式は厳かな雰囲気の中滞りなく進み、披露宴を行う熱田神宮会館へと場所を移動。ここで出てくる料理には興味津々ですごい楽しみなんだけど、凜子から頼まれている余興が終わるまでは落ち着かない。付き合いの長い友達だけに頼まれるに違いないと皆で話していたら案の定という訳で……

 それに対してトッキーは威勢よく「あっちが勝手に結婚を見せつけるために人を呼びつけて金を払わせて、それで(なん)か出し物やれと命令するとは凜子の奴。私の時にはこき使ってやるわっ」と口走り皆笑った。

 そのトッキーが提案してきた余興は私達が芸妓さんになって新郎の孔明さんをお持て成しするというとんでもない企画。他の皆は無理せず歌を歌うくらいにしようと言ったものの、トッキーは「凜子の旦那側に負ける訳にはいかないでしょっ!」と言って一体何のためにやるのかわからない対抗意識。彼女の本気度は高く資料はもちろん道具までも用意しリアル・ライブチャット(俗称リアッチャ)で私達を指揮した。さすが体育会系トッキー。


 私達の出番が近づいてきたころ、会場スタッフの人が来て声をかけてきた。そして私たちは会場の外へ出て準備をする。

「リアルの練習無しで本番ってさぁ、どうなのよ?」とテンヨが溜め息交じりで言うと、トッキー以外の皆は「ねぇ」と顔と声を合わせて同意するもののトッキーは「プロじゃないんだから、わいわい楽しくやりゃあいいのよ。さあさあ、これつけて」と準備してきたカツラを私達に配った。

 人前で話をするのが苦手な私はこの時、相当緊張していて心臓がドキドキだった。

 司会の(かた)から私達の紹介が始まるとスタッフさんから合図が。私達は用意した音楽と共に入場。場内は拍手で沸いた。

 そしてトッキーの喋りとリードで私たちの拙い踊りや新郎さんの友達を巻き込んだ簡単な芸妓遊びで会場は温かくも大きな笑い声で満たされようやく緊張から解放された。

 披露宴の締めは定番の両親への手紙。これには簡単に私の涙を誘い、否応なしに自分の時はどんな感じになるのだろうと想像させた。


 私たちは披露宴後、二次会が行われる熱田神宮駅前に最近できた(あつ)田宮(たのみや)横丁(よこちょう)へと向かった。

 二次会までは二時間くらい時間があるので両手を塞いでいた荷物(大きな引き出物と余興で使った道具とかです)をレンタルロッカーへ入れて時間まで熱田宮横丁をぶらつくことにした。

「これ絶対、伊勢のおかげ横丁のパクリだよね」

 と、トッキーが言うように伊勢神宮にあるおかげ横丁のように時代劇のセットみたいな店がたくさん立ち並んでいた。できて間もないこともあって大勢の人で賑わっている。

 しばらく私たちはおしゃべりを楽しみながら熱田宮横丁の中をねり歩いた。私たちの着物姿は随分と目立ち、何人かの外国人観光客に呼び止められて一緒に写真を撮られたりした。ちょっとしたタレント気分で私たちのテンションは上がる。そして私たちは10代の頃に戻ったような心持ちではしゃいだ。


 一通り見て回った頃「まだ時間あるからそこでお茶しない?」と美紅が和菓子店に指差して言った。

「きよめ餅? 何、それ?」とトッキー。

「熱田名物って書いてある。私、全然知らなかった」とキミえもんが応えると「私も」と美紅と私でハモる。

 誰も知らなかったきよめ餅に惹かれ、みんなで「名物食べよ♪ 名物食べよ♪」と合唱して店内へと入りきよめ餅とお茶のセットを頼んだ。

 店員さんが立ち去るとテンヨが「じゃあ、さっき撮ったやつ見ようよ」と言ってフィルパ(フィルム型ノートパソコンの商標)をカメラバッグから取り出し、テーブルの端にあったメニュー立てに立てた。

 そしていきなり再生されたのは駅の改札口での映像だった。

「嫌だぁーっ、テンヨこんなところを撮ってたの?」

 私が必死になってIDを探しているところを離れたところからズーム撮影していてこれぞ隠し撮りという感じだった。

「へへー。実は一部始終を私はカメラで覗いとりましたっ!」

 そう言ってテンヨは私に敬礼。

 あの時はとにかく焦ってたから全く気付かず。その後の式場までも私たちの後ろを追っかけるように撮ってあった。

「その後の挙式部分は撮影禁止だったからさすがに撮っていないんだけど」とテンヨはすごい残念顔。

 でもそれ以外はいつの間に撮っていたのかと不思議に思うほどたくさんの写真や動画があった。そしてフィルパの映像は披露宴から熱田宮横丁へと、そしてこの店に入るところで画面が暗くなった。

 ついさっきまでの事だけど、何だかもう楽しい思い出となって懐かしさが沸き起こる。しみじみって感じです。

「あっという間だったね」とトッキーが言うと、みんな頷きながら私たちの周りにほっと一息ついた空気が出来た所に、「何これぇ」とテンヨ以外の皆が口を揃えて騒がせたのは懐かしい高学時代のスクリーンショーだった。

「何、テンヨ。こんなの仕込んでたの?」

「披露宴用に凜子に提供したやつと全然違う隠し玉。まだ皆にも見せたことないやつばかりだよーん」

 テンヨはにっこり自慢顔で言った。テンヨは写真やビデオとかが大好きで何時もレンズ交換ができるカメラを持ち歩いていた。そして知らない間に色々写真や動画を当時も撮られてた。

 フィルパに映る十代の私達は無邪気さ炸裂でとても他人には見せたくないような恥ずかしくなるようなものばかり。

「ホント、この頃と比べると確実にウチら年食ったね」と美紅が言うと「リアッチャでしょっちゅう顔見てるから全然そういうのって意識してないけど、実際こうやって昔の映像観ちゃうとねぇー」と私が続く。そしてみんなで「ねぇ」の合唱。

「お肌の曲がり角をとっくに通りすぎちゃって、もう今年で26だもんなぁー。なんか最近ニキビの治りも悪いし」とトッキーは頬をなでながら言う。

 そこへ間髪無しに「吹き出物ね」テンヨがトッキーの頬を突っついて言った。

「つまんないツッコミしないっ!」

 私は二人の会話に笑っていたら不意をつく話をトッキーが振ってきた。

「でも、こっこなんか大変でしょ? 夜勤があるから」

「時間が不規則だから特にねぇ」

 テンヨはそう言って大きく頷いている。

 そこで「そうなのよ」とサラッと言っておけば良いものの私は「え?」と口にして急に焦りの気持ちがやって来た。

 そして普段から口数が少なく大人しいキミえもんは「患者さんを相手にするから気苦労も絶えないだろうし」と言って心配顔までしている。

「ん? うーん、まぁー……」と返答に困りお茶をすすってみる。

 焦る気持ちはもちろん私自身だけのものでみんなからしたら普通に私を気遣って言ってくれているだけなのに。みんなに隠し事をしているという事への罪悪感が私の中にあるから緊張しているんだと思う。そんな緊張して口ごもっている私の態度を美紅は見逃さなかった。

「雪村、まだみんなに話してなかったの?」

「ん? う、うん」

 美紅の言葉にトッキーは鋭い口調で反応した。

「話してないって何よ?」

「もしかして私達に黙って実は結婚して憧れの主婦業やってるとか?」とテンヨが言うと、私は何も返事していないのにトッキーは立ちあがって言った。

「許さぁぁぁん!」

 それは店の中の人達の注目を集めるだけの力は十分あった。

「まさかまさか。違うよ」

 私はなだめるようにトッキーへ言った。対してトッキーは立ったまま私の目を見つめている。じゃなくて睨んでる……。でも、トッキーは怒っているわけではなくただ単純に真実を知りたいだけ。自分に素直なトッキーはいつもストレートに表現するから苦手な人もいる。でも私たちはみんなの長所短所を解っているからそんな態度のトッキーにびくともしない。

 でも、私は言いづらさがあったから俯き加減にぽそりと言った。

「実はね、私、少し前に転職したの」

 “ライフ・ケアへ”と言わないところが私らしいと自分で思う。

「なーんだ、そうなの。隠すようなことじゃないじゃん」

 トッキーはみごとにつまらなそうな顔をして言うと椅子にドスりと座った。

「なかなか時間合わなかったからてっきりそのまま看護師やってるかと思ってた」

 テンヨは淡々と口にした。

「私、看護の仕事に向いてないみたいでね。鈍臭いもんだからいつも主任から叱られてて…… 実はかなり落ち込んで鬱ってた時期があったんだ。そんなとき今の仕事の募集をたまたま見つけたの。で内容を色々聞いたりして私にできそうだったから思い切って転職したんだよね」

「で、何やってんの?」

 私の話が終わるやいなやトッキーの質問。私の仕事を知らないみんなは私に注目。その目線にまた緊張がやってきて言葉がすんなり出ない。

「あのぉ……」

 じれったいとツッこみを入れてくれと言わんばかりのモジモジをしてる私を気遣ってか美紅が私の代理を務めてくれた。

「雪村はライフ・ケアで働いてんだよ」

 さすが美紅。躊躇(ちゅうちょ)なくあっさり、ハッキリと代わりに言ってくれた。助かったようなそうでもないような……

「ええーっ! マジぃ?」

 私の仕事を知らなかったトッキーとキミえもんとテンヨの三人はみごとなハモりを聞かせてくれた。当然だけど。そしてトッキーは身を乗り出して興味津津に聞いてきた。

「こっこ。ライフ・ケアで何やってるの?」

「そういえば、私も詳しく聞いたことないよなあ」

 隣にいる美紅もトッキーの質問に乗っかって私を覗きこむように言った。テンヨもキミえもんも目を丸くして驚きの表情を私へ向けている。そんなみんなの気迫に押されて一瞬固まってしまったもののこの状況で黙ったままでいる訳にいかず、私は話すことにした。

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