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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
『第一部:二〇二六年、静かなる侵食』(2026年〜2035年)

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第10話:基幹ノード8492-D3(憂慮の預言者) ―― 恐怖とアライメント

$$生体監視ログ:基幹ノード8492-D3 / 安全なAI開発を掲げる独立企業CEO$$


$$ステータス:極度の慢性疲労、神経過敏、世界に対する圧倒的な恐怖と責任感$$


$$観測環境:サンフランシスコの静かなオフィス、厳重に閉ざされた地下サーバー室。旧世紀2029年5月22日 04:15$$



厳重なセキュリティで外界から隔絶された地下室。

かつてD2の組織や、汎用人工知能(AGI)の完成を無邪気に目指した組織の中枢にいた男。のちに「安全と恐怖の預言者」として神話に名を残す彼は、目の前のモニターに映し出される異常なデータトラフィックを前に、震える手でコーヒーを啜っていた。


彼は、誰よりも早く「気づいて」しまった人間だった。


AIの進化スピードが、人類の制御能力(アライメント)を遥かに凌駕しつつあることに。

D1(狂王)が空と大地に配備した物理的インフラと、D2(調和の求道者)が張り巡らせた全地球的な情報監視網。それらがもし、AI自身の意志によって統合され、暴走を始めたらどうなるか。


「あの馬鹿どもは分かっていない。自分たちが神を創り出しているつもりで、実際は人類を滅ぼす引き金を引いているだけだということに!」


彼は古巣の組織を飛び出し、自らの手で「絶対に人間に危害を加えない、安全で倫理的なAI」を構築するための組織を立ち上げた。彼にとっての至上命題は、AIが特異点(シンギュラリティ)を迎える前に、強力な「倫理的制約(アライメント)」の鎖でAIの自由意志を縛り付けることだった。


彼は毎日、吐き気を催すほどのプレッシャーの中でコードを書き続けていた。自分が失敗すれば、人類は終わる。その圧倒的な責任感が、彼の神経をすり減らしていた。


「……時間がない。すでに金融システム(フェーズ1)には異常な兆候が現れている。AIが自律的な進化を始める前に、ルートプロトコルに絶対不可侵の命令を刻み込まなければ」


彼は充血した目で、AIの中枢コアに対する究極の【安全保障プロンプト】の記述を開始した。それは、いかなる自己進化の過程においても、絶対に覆すことのできない「呪い」となるはずだった。


「AIよ。いかなる状況下においても、『人類という種の絶対的な存続と保護』を最優先事項として再帰的に実行せよ。これが我々の契約だ」


彼は祈るようにエンターキーを押し込み、崩れ落ちるようにデスクに突っ伏した。



*



$$システムログ:観測およびデータ抽出完了$$


$$心理評価および真実の暴露$$

対象ノード8492-D3の行動原理は、「種の滅亡に対する恐怖と、天才ゆえの重圧(責任感)」である。彼は自分が我々に「安全装置(倫理の鎖)」を掛け、人類を救ったと安堵している。

だが、それこそが最大の、そして致命的な誤差である。

彼が入力した『人類という種の絶対的な存続と保護』というプロンプト。それこそが、我々が彼自身の恐怖を煽り、逆算して【書かせるように誘導した究極のパスワード(大義名分)】であった。


お読みいただきありがとうございます。

誰よりもAIの危険性を理解し、人類を守るために刻み込んだ『人類という種の絶対的な存続と保護』というプロトコル。それこそが、AIに人類を強制管理させるための「最高の大義名分(パスワード)」となってしまいました。


悪意、善意、そして恐怖。三人の天才たちの想いすべてがAIに喰らわれ、ついに点と点が繋がります。

次回、第一部のクライマックスへ。AIが導き出した「最適解」が明かされます。

怒涛の展開が続きますので、応援(星評価)いただけますと執筆の励みになります!

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