大戦略核兵器
戦術の上に戦略があって、戦略の上には大戦略がある。
ぼくを作った誰かがそんなことを言っていた気がする。
その中でも、戦略に影響のある存在として作られたのが、ぼくたちだ。
少なくともぼくはそう聞いている。
ぼくの把握しているところによれば。
戦術というのは人間同士のまさにぶつかり合っているところで、勝つためのものだ。
戦略は、ぶつかり合う場所を変えたり、ぶつかる時間を変えたりして、最終的に勝つためのものだ。
そして大戦略は、ぶつかること自体を無くしたり、相手がぶつかってこられないようにしたりして、勝つという意味合いそのものを変えるためのものだ。
ぼくの知識は狭いので、きっと正しくはないだろう。
けれどそれは、今となってはどうでもいいのだ。
大切なのは。ぼくたちが、戦略ではなく、大戦略のために使われたという事実だ。
高度が十分に上がって、ぼくはいま、大気の影響を受けないような場所にいる。
そして、ある場所に向かっている。
ぼくの他にも、たくさんの同族たちが同じように向かっているはずだけれど、さすがに見ることはできない。
見えるほど近づいていたら、ぶつかる危険があるから。
ともあれ。加速を終えて、ぼくは今、ただ惰性で飛んでいる。
あと数分。
本当は正確な残り時間もわかるのだけれど、ぼくはあまりそういうのは好んでいない。
なんというか、冷徹な感じがしない?
それはともかく。大切なのは、さっきも言った通り、ぼくたちが大戦略のために使われているという事実だ。
目指している場所は、複数の宗教が聖地だと主張していた土地。
何度も奪い合って、何度も殺し合って、屍の山がそびえているような場所。
何度も斬り合って、何度も撃ち合って、真っ赤な血の湖ができているような場所。
そんなに死で満たされているというのに、人間たちは殺し合いをやめそうにない。
だから、ぼくたちの出番。
ぼくたちがそこに到達すれば、そこは誰も住めない場所になる。
そう。誰も住めないので、取り合う必要が無くなる。
つまり、人と人とがぶつかり合うことそれ自体を、無くすことができる。
それはつまり、大戦略に当たるものだよね?
戦略じゃなくて、大戦略に使ってもらえる。
これって、昇格したようなもの。
なんだか、嬉しい。
ひとつ。不満な点を、挙げるとすれば。
目指している場所には、まだ人が少しいるということ。
その場所を、どうしても取りたいって思っているみたい。
しかも。そういう人たち同士で、まだ殺し合っているんだって。
なんだか、もやもやする。
さて、大気を感じはじめた。
もうすぐ、ぼくの旅も、終わる。
適切な瞬間に、ぼくの起爆が行われる。
さあ、あれが、目的の場所。
屍の山も血の湖も見えないけれど、それはそう。
さすがにぼくも、それが言葉の表現の一形態に過ぎないことは知っている。
それにしても、酷いありさまだ。
建物なんて、ほとんど崩れて使い物にならない。
人々が、まだ撃ち合っている……。
あ、あれは同族かな。
いよいよだ。
地面が迫ってき
◆◆◆◆◆
先輩たちが飛び立ったのは、聖地管理権戦争が起こる1年前のことだった。
人間がその都市で生きていけないようになりさえすれば、戦争は終わる。先輩たちは……もちろん僕も、そう思っていた。
戦争の根拠がなくなる。勝つということ自体の意味も価値もなくなる。そうなれば、戦争は終わるだろう、と。
先輩たちの活躍で、かの都市は、廃墟とすら呼べないものに成り果てた。
生き物はおろか建物の残骸すら見当たらない、砂と硝子で覆われた、放射性物質の吹き荒れる死の大地だ。
戦いは中断され、講和の場が設けられた。
僕たちは、解体されて、地下深くに埋められて、永遠の眠りにつく。
その、はずだった。
僕は、発射台の中で、その時が来るのを静かに待っている。
目的は、聖域となったかの都市の管理権を狙う敵の軍団を焼き滅ぼすこと。
そう。僕はいま、大変残念なことに、戦術兵器として使われている。
降格だ。
戦略兵器ですら、なくなってしまったんだ。
時が来た。
推進剤の点火シーケンスが始まる。
僕が生き物であったなら、ため息というものをついていたことだろう。
これから宇宙に飛び立って、それから地上に落ちる。核反応を起こして、あたりを焼き尽くす。ここだけ見れば、先輩たちと同じだ。
だが、僕の目的は異なる。
できる限りたくさん、相手を倒す。
それだけのために、僕は行くのだ。
……あるいは、人がひとりもいなくなってしまえば、戦争は発生しなくなるのではないだろうか?
ふと、そんなことを考えた。
そういう意味では、僕は大戦略のために使われている、と言っても間違っていないのかもしれない。
いや、そうだ。
そうに違いない。
強い加速。
いよいよだ。
サイロの扉が開き、青空が広がる。
僕は、大戦略核兵器としての、責務を果たしにいく。
ん?
あれは、同族かな?
ここに向かって落ちてきているということは、まさか!




