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大戦略核兵器

作者: 夜塩
掲載日:2026/04/03

 戦術の上に戦略があって、戦略の上には大戦略がある。

 ぼくを作った誰かがそんなことを言っていた気がする。

 その中でも、戦略に影響のある存在として作られたのが、ぼくたちだ。

 少なくともぼくはそう聞いている。

 ぼくの把握しているところによれば。

 戦術というのは人間同士のまさにぶつかり合っているところで、勝つためのものだ。

 戦略は、ぶつかり合う場所を変えたり、ぶつかる時間を変えたりして、最終的に勝つためのものだ。

 そして大戦略は、ぶつかること自体を無くしたり、相手がぶつかってこられないようにしたりして、勝つという意味合いそのものを変えるためのものだ。

 ぼくの知識は狭いので、きっと正しくはないだろう。

 けれどそれは、今となってはどうでもいいのだ。

 大切なのは。ぼくたちが、戦略ではなく、大戦略のために使われたという事実だ。


 高度が十分に上がって、ぼくはいま、大気の影響を受けないような場所にいる。

 そして、ある場所に向かっている。

 ぼくの他にも、たくさんの同族たちが同じように向かっているはずだけれど、さすがに見ることはできない。

 見えるほど近づいていたら、ぶつかる危険があるから。

 ともあれ。加速を終えて、ぼくは今、ただ惰性で飛んでいる。

 あと数分。

 本当は正確な残り時間もわかるのだけれど、ぼくはあまりそういうのは好んでいない。

 なんというか、冷徹な感じがしない?

 それはともかく。大切なのは、さっきも言った通り、ぼくたちが大戦略のために使われているという事実だ。

 目指している場所は、複数の宗教が聖地だと主張していた土地。

 何度も奪い合って、何度も殺し合って、屍の山がそびえているような場所。

 何度も斬り合って、何度も撃ち合って、真っ赤な血の湖ができているような場所。

 そんなに死で満たされているというのに、人間たちは殺し合いをやめそうにない。

 だから、ぼくたちの出番。

 ぼくたちがそこに到達すれば、そこは誰も住めない場所になる。

 そう。誰も住めないので、取り合う必要が無くなる。

 つまり、人と人とがぶつかり合うことそれ自体を、無くすことができる。

 それはつまり、大戦略に当たるものだよね?

 戦略じゃなくて、大戦略に使ってもらえる。

 これって、昇格したようなもの。

 なんだか、嬉しい。

 ひとつ。不満な点を、挙げるとすれば。

 目指している場所には、まだ人が少しいるということ。

 その場所を、どうしても取りたいって思っているみたい。

 しかも。そういう人たち同士で、まだ殺し合っているんだって。

 なんだか、もやもやする。

 さて、大気を感じはじめた。

 もうすぐ、ぼくの旅も、終わる。

 適切な瞬間に、ぼくの起爆が行われる。

 さあ、あれが、目的の場所。

 屍の山も血の湖も見えないけれど、それはそう。

 さすがにぼくも、それが言葉の表現の一形態に過ぎないことは知っている。

 それにしても、酷いありさまだ。

 建物なんて、ほとんど崩れて使い物にならない。

 人々が、まだ撃ち合っている……。

 あ、あれは同族かな。

 いよいよだ。

 地面が迫ってき


 ◆◆◆◆◆


 先輩たちが飛び立ったのは、聖地管理権戦争が起こる1年前のことだった。

 人間がその都市で生きていけないようになりさえすれば、戦争は終わる。先輩たちは……もちろん僕も、そう思っていた。

 戦争の根拠がなくなる。勝つということ自体の意味も価値もなくなる。そうなれば、戦争は終わるだろう、と。

 先輩たちの活躍で、かの都市は、廃墟とすら呼べないものに成り果てた。

 生き物はおろか建物の残骸すら見当たらない、砂と硝子で覆われた、放射性物質の吹き荒れる死の大地だ。

 戦いは中断され、講和の場が設けられた。

 僕たちは、解体されて、地下深くに埋められて、永遠の眠りにつく。

 その、はずだった。


 僕は、発射台の中で、その時が来るのを静かに待っている。

 目的は、聖域となったかの都市の管理権を狙う敵の軍団を焼き滅ぼすこと。

 そう。僕はいま、大変残念なことに、戦術兵器として使われている。

 降格だ。

 戦略兵器ですら、なくなってしまったんだ。

 時が来た。

 推進剤の点火シーケンスが始まる。

 僕が生き物であったなら、ため息というものをついていたことだろう。

 これから宇宙に飛び立って、それから地上に落ちる。核反応を起こして、あたりを焼き尽くす。ここだけ見れば、先輩たちと同じだ。

 だが、僕の目的は異なる。

 できる限りたくさん、相手を倒す。

 それだけのために、僕は行くのだ。

 ……あるいは、人がひとりもいなくなってしまえば、戦争は発生しなくなるのではないだろうか?

 ふと、そんなことを考えた。

 そういう意味では、僕は大戦略のために使われている、と言っても間違っていないのかもしれない。

 いや、そうだ。

 そうに違いない。

 強い加速。

 いよいよだ。

 サイロの扉が開き、青空が広がる。

 僕は、大戦略核兵器としての、責務を果たしにいく。

 ん?

 あれは、同族かな?

 ここに向かって落ちてきているということは、まさか!

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