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心がロボットになったからもうだれも好きにならない?じゃあなんでそんなに泣くんです?  作者: 猫の集会


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3/3

 ボクの家は、実は居酒屋から歩いてすぐだ。

 

 菜央さんの乗るタクシーが無事つかまり、菜央さんがタクシーに乗り込もうとしたその時、菜央さんがボクに

「もう、お会いすることもないと思いますので、きちんとご挨拶させてください。さようなら。」

 と、真っ直ぐにこちらをみて挨拶した。

 

 …

 

 菜央さんは、不思議な人だ。

 

 ボクの正体を知っていて…あえて、さようならを言ったのか…それとも…

 

「さようなら、お気をつけて。あ、菜央さん、また偶然会うかもしれませんよ。世の中は、狭いですから。それじゃあ」

 

 ゆっくりと、パタンとタクシーのドアがしまり、菜央さんがボクにお辞儀をした。

 

 サラサラの髪の毛が、スルスルっと揺れた。

 

 ボクもお辞儀をして、菜央さんを見送った。

 

 連絡先は、聞いていない。

 

 でも、不思議とまた菜央さんに会う気がしてならなかった。

 

 

 

 

 菜央さんたちと出会った一週間後、ボクは友希斗に呼び出された。

 

 仕事終わったら、ちょっと飯いこうぜと。

 

 いつものように、おつかれさーんと乾杯をすると、友希斗が

「オレさぁ、芽依ちゃんと付き合ってるんだぁ」

 なんて言い出すから、おもわずビールを吹いたよね。

 

「はぁ⁉︎えっ…まさか酔った勢いで…?」

「ううん、違いまーす。次の日待ち合わせして、きちんと交際を申し込んだんだ」

 

 …

 

「へー…」

「でさ、ケイジはどうなの?まさか、あのいわくつきの美人とってことは、ないよな?」

「ないけど…」

「けど?けどなんだよ?やめとけ。絶対おかしいぞ、あの女は。だって…」

「なんだよ?」

「だって…ここだけの話、あの女…」

 

 トゥルルル トゥルルル

 

 友希斗の携帯がなった。

 

「ちょっとごめん」

「おう」

 

 菜央さん…やっぱり、なにか事情がありそうだな。

 

 

 

「あ、お待たせー。いやー、芽依ちゃんからだったよ〜」

「よかったっすねー」

「ほんとだよ〜。オレさぁ、幸せなんだよなぁ。あの美人と付き合わなくてほんとよかったぜ」

 

 …

 

「で、菜央さんが、なんでダメなんだよ?」

「だって、いるんだって。」

「え?男が?」

「うん、いるけどいないって」

 

 …

 

「なにそれ…なぞなぞか?」

「よくわかんないけど、そばにいるけどいないんだって」

「どういうことだよ?」

「さあ?芽依ちゃんがそれしか教えてくれなかった。でも、オレは芽依ちゃんのことをもっと知りたいから、それでいいんだ。だから、ケイジも、巻き込まれんなよ?まあ、ケイジは、巻き込まれてもどうってことないだろうけどな。なんなら、自分からわざと巻き込まれに行きそうだな。」

「あー…」

「え、もしかして…もう巻き込まれてる?」

「いや、それはないけど…気になるっちゃぁ気になるんだ。」

「それは、仕事上?」

「うーん…どうだろう…まだよくわかんねーけどさ」

「そっか。ま、なんかあったら上司にでも相談しろ」

「人任せかよ?オレに相談しろじゃないのかよ?」

「ない‼︎」

 

 ハッキリと言いきる友希斗。

 

 

 もしかしたら、事件性高いのかな…。

 

 あんまり人を疑いたくないが…どうしても職業柄、人を疑う癖がついてしまっている。

 

 菜央さん…もしかして部屋に…

 

 芽依さんと優花さんは、菜央さんの秘密を知っているようだ。

 

 …

 

 

「なぁ、もし芽依さんが捕まったらどうする?」

「え〜っ、もうオレに捕まってるよ♡」

 

 …

 

「いや、そうじゃなくて…ガチの方で。」

 

 友希斗は、真面目な顔つきになった。

 

「そんときは、そんときっしょ。……でも、オレはきちんと理由聞いて、一緒に償うつもりだ。その覚悟は、ある‼︎」

「出会ってまもないのに?」

「うん、オレには分かる‼︎芽依ちゃんを信じている‼︎」

「そっか。芽依さんは、いい人に出会ったんだな。」

「だな」

 

 …

 

 たぶん…ボクと友希斗は、あの三人が…なんらかの事件に関わっているような気がしていた。

 

 でも、口には出さないし…どこかで、疑いたくないって、お互い自分に言い聞かせているような気がする。

 

 

 でも、やっぱり…主犯は、おそらく菜央さん…であろうことは、わかる。

 

 彼女は、相当苦しんでいる。

 

 もうそろそろ、限界なのではないだろうか。

 

 

 

 菜央さんには、会おうと思えばいくらでも会えるつてができた。

 

 でも、たぶん菜央さんは…ボクとは会いたくないような気がする。

 

 というか…会いたくないだろう。

 

 初対面のときに、もうお会いすることもないといわれ、きちんとさようならって宣言されてるし…。

 

 しかし、友希斗との飲みの次の日…

 

 偶然にも菜央さんが、仕事先の現場にいた。

 

「「あ…」」

 

 お互い頭を下げて気まずい空気が漂った。

 

「ケイジさんって…刑事さんだったんですね?」

「…はい。」

 

 菜央さんの職場は、冷凍食品を扱う会社だった。

 

「たくさんの冷凍庫があるんですね。」

「ええ、そのためたくさんの電源が必要となりまして」

「では、そのコンセントの一部が発火したと?」

「そうなります…かね。」

「場所は、」

「こちらです」

 

 菜央さんに案内され、現場へと到着した。

 

「では、わたくしは失礼します」

「あ、菜央さん。今夜お食事しながら、お話いいですか?」

 

 こっそりと菜央さんをディナーにお誘いした。

 

 すると菜央さんは、なにかが吹っ切れたように、

「わかりました」

 と、わずかに微笑んだ。

 

 

 

 

 菜央さんは、きちんと約束の時間に待ち合わせ場所のレストランに来てくださった。

 

 

 とりあえず、グラスを上に掲げ白ワインをお互いくぴりと口にした。

 

「お仕事終わりのお疲れのところ、わざわざすみません。」

「いえ…それよりケイジさん、わたしのこと疑ってますよね?」

「えっ…いや、そんなことは…」

「たぶん、彼氏を監禁してて、それを芽依と優花も黙認してるってところでしょうか?」

 

 …

 

「まぁ、正直…そのようなことを少し…考えておりました。でも、それを自ら言うってことは、こちらの勘違いですね。ごめんなさい…。」

「いいんです。勘違いさせてしまったこちらも悪いですし。」

「でも…詳しくは、言えないと…」

「そこは…ごめんなさい」

 

 まぁ、事件じゃなかったのがわかれば、それで少し安心した。

 

 

 …

 

 

「ニンジン…お嫌いですか?」

 ボクが、少しニンジンをフォークでお皿の端に追いやったのを、菜央さんは見逃さなかった。

 

「実は…少し苦手で…」

 

 クスッと笑った菜央さんは、どことなくさみしそうな表情を一瞬浮かべた。

 

「あ、でももったいないですよね。食べられないわけじゃないんです。」

 パクッと口に運んで、一気に飲み込んだ。

 

 喉に詰まりますよ?と心配してくれる菜央さんを、ボクは心配した。

 

 

 あの、たまにみせる表情は…

 

 あの表情こそが、菜央さんの秘密が隠されている辛い事情なのだろう…

 

 

 少し夜風にあたりたいという、菜央さんの要望で、食事後に河原沿いの近くの公園まで歩こうという話になった。

 

 

 

 

「ケイジさんは、なぜ刑事に?やっぱり名前が刑事だからですか?」

「んー、なんかかっこよくて。でも、もしかしたら名前に引っ張られていた部分もあるかもですねぇ。」

「そうですか。実は…わたしにもケイジという名前の彼がおりました。あなたと一緒で…名前も一緒だし、なによりもわたしをみる優しい眼差しがあなたと一緒で…だから、わたし…あなたをみているのが辛かったです。彼、いきなりわたしの前からいなくなったんです。突然…。ごめんなさい…。あなたには、関係ないのに八つ当たりみたいなことをしてしまって…」

 

 やっと…

 

 やっと少し、菜央さんの心の傷がみえてきた。

 

 

 どうやら、また明日という言葉を最後に彼は、いなくなってしまったらしい。

 

 

「突然だったんです。突然…この川の中に突然落とされた…そんな感覚にその時は、陥りました。」

 

 …

 

 

 

 

 バシャーン‼︎

 

 ボクは、川に飛び込んでいた。

 

「なにしてるんですか‼︎ケイジさん‼︎」

 菜央さんがボクを必死で呼んだ。

 

「ボクも、どんな感じなのか体験したくなったみたいです‼︎」

「風邪ひきます‼︎早く上がってください‼︎」

「大丈夫です‼︎このまま泳いで帰ります」

「カッパじゃないんですから」

 菜央さんが笑った。

 

 それにつらて、ボクもビシャビシャになりながら、笑った。

 

 

 

「ハンカチ…じゃ足りないですね」

「大丈夫です。うち近いんです」

「芽依がいってました。大丈夫は、大丈夫じゃないって。」

「そうですね。菜央さんは…大丈夫じゃないんですよ。きっと、、だって…ボクにも伝わります。大丈夫じゃないって。」

 

 …

 

「でもっ…でもっ…こればっかりは…どうしようもないんです。もう死んじゃったら、なにも…なにも伝わらなくて…いきなりトンネルの途中に蓋をされて、そのまま進めない…。わたしは、ずっと暗闇のトンネルなんです…」

 泣きながら訴える菜央さん。

 

 …

 

「わかります…ボクも数年前、大切な家族を失いました。でも、その時父親は末期で…だから、菜央さんとは少しちがい心の準備ができました。と言っても、やっぱり辛かったです。だから…だから、菜央さんのつらさを少し…わかるんです。ボクの場合は、事前に知っていたから、まだよかったです。でも、菜央さんは、突然の出来事でまだ頭の整理ができていないんだと思います。」

 

 菜央さんの心の拠り所は、彼氏だったのだろう。

 

 その彼が突然亡くなったのだから、辛いの一言じゃ、言い表せないのだろう。

 

 

 

「言って欲しかった‼︎いなくなる前に言って欲しかった‼︎って、言ったんです。…でも、でも彼は………目を閉じたままで………ずっと……」

「ボクは…突然いなくならない…とは、言えません。なにがあるかは、自分じゃわからないから。でも、でもさ…菜央さんの話したいこととか、そばにいて欲しい時とか、一緒に隣にいてもいいなら、ボクが生きているいじょうは、ずっとそばにいます。だから、泣かないでください。ボク、いますから。」

 

 

 菜央さんは、ボクにしがみついて泣き崩れた。

 

 大人の女性が…こんなにも大泣きするもんなんだと、少し驚いた。

 

 でも、これほど…辛く、かなしく耐えて抱えてきたのだろう。

 

 ボクは、菜央さんの苦しみごと精一杯抱きしめた。

 

 

 

 

 おしまい。 

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