であい
また、明日な。
そう彼は微笑みながら言った。
それが最後の言葉だった。
今でも、あの言葉の温もりと笑顔を忘れたことは、一度もない。
「もー、芽依飲み過ぎー」
「え〜、いいじゃん。たまにはー」
とある居酒屋で友達の芽依は、お酒を水のようにグビグビと飲んでいた。
それをなんとか阻止しようとしているのは、これまたわたしの友達の優花だ。
「わたし、ちょっとお手洗い行ってくる」
「あー菜央トイレ⁉︎いってら〜‼︎」
芽依がポンっとわたしの背中を軽くおした。
トイレに向かう途中、まったく知らない男性とちょっとだけ、ぶつかりそうになった。
お互いに、すみませんとペコリとお辞儀をして、普通…それでおしまいのはずなのに…
なのにその男性は、ずっとこちらをみてて…
だからわたしは、
「あの…なにか?」
と尋ねたの。
すると男性は、なにかを言いかけようとして、
「あ、いえ…な、なんでもありません…」
と言って自分の席の方へ戻っていったの。
何回もこっちを振り向きながら。
なに?
わたしになにかついているわけ⁉︎
きみの悪い男性だわ。
あの男性のおかげで、スッキリしないお手洗いを済ませて、席に戻ったの。
?
なに⁇
なんか…
さっきの男性以外もわたしのこと…チラチラみてない⁉︎
な、なに⁉︎
やっぱりわたしに何かついている⁉︎
席に戻ると芽依がニコーって微笑んで、おかえりー‼︎と声をあげ、お酒をグビグビ飲んだ。
と同時に、さっきわたしのことをジロジロみてきた男性が、もう一人男性を連れてわたし達の席にやってきた。
お酒持参で。
「いやー、マジで美人じゃーん」
⁉︎
わたしと優花は、顔を見合わせた。
「えと…なんですか?」
「えー、焦らす系?もうさ、さいっこうじゃん」
?
それをみて芽依が、ゲラゲラと笑いながらわたしの背中を指差した。
優花がわたしの背中からなにやら、ベリっと剥がし、机に置いた。
「これは、やりすぎだって。芽依!いい加減にしなよ」
みると、わたの背中に貼ってあったのは付箋?
そして、その付箋には
【彼氏募集中】
とかかれていた。
…
芽依…
「ちょっと芽依、どうしてこんなこと?」
芽依は、さっきまで笑っていた顔とは違い、少し真面目な顔つきになり、
「だって…優花もわたしも菜央だって…うちらもそろそろいい年じゃん。わたし達は、彼氏なんてすぐできるだろうけど…菜央は、だって…だからさ、いい出会いあればって思ってさ…」
軽くため息をついて、わたしは芽依に優しく言ったの。
「わたしは、大丈夫だから」
って。
「でもね、大丈夫って言う人ほど大丈夫じゃないって聞いたの‼︎だから、大丈夫じゃないの‼︎ね、おにいさんたちもそう思うでしょ?」
いきなり、見ず知らずの二人のおにいさんに話しかける芽依。
「おお、そうだぞ!ねえちゃん‼︎無理すんな?黙ってオレと付き合えばいいんだよ」
…
なぜそうなる?
「もー、友希斗酔っ払いすぎだって」
「いいじゃーん。だって美人が彼氏欲しいんだろ?そりゃ名乗り出ても損はないっしょ」
「すみません、こいつ連れて席に戻ります」
「ダメ‼︎」
席に戻ろうとする二人を芽依が阻止した。
「もう、芽依!」
優花が、おかあさんのように軽く叱った。
「あー、もしかしてこの美人めっちゃ性格悪すぎて彼氏いないとかー?」
…
「ちょ‼︎どうもすみません…。こいつ今日、悪酔いしちゃったのかなぁ。ほんとごめんなさい。」
「いえ、お気になさらず」
「いや、気にしろよ。性格悪すぎとか最悪だよ?なぁケイジー」
…
友希斗がオレの名前を呼んだとたん、三人の女性たちの様子がおかしくなった。
芽依さんは固まり、優花さんは菜央さんを険しい顔でみて、菜央さんなんて…食べようとしていた卵焼きを、ポロリとテーブルに落として涙を浮かべた。
⁉︎
え?
どうしたんだ⁉︎
一瞬にして、テーブルを囲むオレたちの空間に不穏な空気が張りつめた。
この三人って…
「えっ、なんか…どうされました?」
オレの質問に三人は、我に返ったかのように、
「「「…ううん、なんでもありませんよ。」」」
と、それぞれ飲み物を口に含んだ。
「あ、でさこいつケイジっていうじゃん。実は、け…」
オレは咄嗟に友希斗の口を唐揚げで塞いだ。
「友希斗は、ほんとに唐揚げが大好きでさー。あ、勝手に食べてごめんなさいね」
慌てて友希斗を黙らせることができた。
「いえ、それより友希斗さんがいいかけた、け、の続きってなんですか?」
優花さんが身を乗り出すように質問してきた。
オレの名前が…この三人は、どうしても気になるようだ。
なぜそんなにオレの名前が気になるのだろうか。
「あー、け、けつえき型がえー型って言おうとしたんだよ」
「「「あー…」」」
三人の女性は、三人とも目を見合わせていた。
この三人、なんかあやしいなぁ。
続く。




