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9.存在

伯父が猪神様だと知り、益々混乱する綾乃。そして決断を迫られ…

目の前の伯父こと猪神の猛様はご機嫌で多弁だ。実質帰れない事が分かり落ち込む私に


「聖母としての役割は私では分からん。故に現聖母である由美子に会って貰う事になる」

「どうせ私に拒否権は無いんでしょう」


拗ねながらそう言うと


「悪いが聖母をやって貰わないとこの国が立ちいかない。その他に関する事は綾乃の意思を尊重しよう」


どんどん機嫌が悪くなる私に猪神様は少し気まずそうにしながら私の手を取り


「綾乃に決めてもらう事がある。それは綾乃の日本での存在だ。今は行方不明者として届が出され、家族が捜している」


私が予想していたとおり失踪扱いになっていた。そして猪神様は私に二者択一を迫る。それは失踪者として扱われるか()()()()()()()にするかだ。


「つまり後者を選べば私は無かった事になるの?」

「そうだ。綾乃を知る全ての者から綾乃に関する記憶が無くなる」

「…」


つまり私は存在自体しなかった事になり、両親や兄、そして親友も私の事を忘れてしまうのだ。こんな酷い話はない。感情が悲しみから怒りに変わり、猪神様に向って声を荒げてしまう。猪神様は反論せず私の話に耳を向ける。ストレスMAXの私は言いたい事を言いきると、どっと疲れ椅子になだれ落ちる。すると


「綾乃には酷な話しなのは分かっている。しかしこのままにしておけないのだ」


猪神様はそう言い過去の乙女がどの様に決めたのか話してくれた。ある乙女は親や身内が行方不明の自分を、探し続ける苦労と苦痛を味合わせたく無いと言い自分の存在を消す事を望んだ。また別の乙女は自分の生があるうちに帰る望みがあるのなら、このまま行方不明扱いでもいいと言ったそうだ。

両者の気持が分かり益々決めれなくなってきた。色々有り過ぎた上に激情した事でぐったりし動けそうにない。すると猪神様は少し屈み私を抱き上げた。


「おっ伯父さん?」


いきなりの姫抱っこされ間近に綺麗な御尊顔があり焦ってしまう。そんな私をみて猪神様は笑い


「取りあえず由美子に会うといい。この屋敷の者には伝えておこう」

「”由美子”って聖母様だよね。えっ今から行くの?ちょっと待ってゲンブの人に一言断っていかない!」


そう言ったが聞き入れてもらえず、眩暈がしたと思ったら…


「お見えになるなら、もっと早く知らせて下さいまし。この老体では準備にも時間がかかります故」


優しい声色の女性の声が聞こえ顔を上げると、目の前に品のいい女性が杖を突いて立っていた。この人が現聖母の由美子さん?


「どうも私は女性の機微に疎く、綾乃を怒らせてしまった。女性同士茶でも飲みながら話した方が良いだろう」

「まぁ元々お会いする予定でしたしね。綾乃さん。気持ちはよく分かりますわ。私も何の説明も無く連れて来られたのだから」


そう言いしわくちゃの小さな手で私の頭を撫でた。それまで怒りで尖っていた心が凪いでいくのを感じていると、私を下ろした猪神様は聖母様をハグし、あっという間に消えてしまった。

取り残されここが何処かもわからない私は挙動不審(パニック)になってしまう。すると聖母様が私の手を取りソファーに誘導する。座ると聖母様がベルを鳴らし、暫くすると従僕が部屋に来て甘い香りの果物と茶菓子そしてお茶を運んできた。聖母様にお茶菓子を勧められ一口いただく。上品な甘さが五臓六腑に染み渡る。お菓子を頬張る私を見詰める聖母様。沈黙に困り何か言おうとしたら…


「聖母様。シュウジにございます」

「あーはいはい。お入りなさい」


扉が開きシュウジさんが入って来た。そして私を一瞥し微笑み、聖母様に元に行きハグをする。そして


「本日はこちらで綾乃様をお預かりするとケンジ様には連絡をしておきました」

「ありがとう。相変わらずゲンブの男は不器用ね。綾乃さんを不安にさせて」


話しの展開が見えず口を開けて2人の話を聞いていたら、シュウジさんが猪神様と話し合えたのか聞いてきた。シュウジさんが私と猪神様との関係を知っているのか分からず返事に困る。すると聖母様が


「シュウジは察しはいいのに物言いが直球なのよ。レディの心情を察しなさい」

「失礼いたしました。ですがおばあ様」


そっか…聖母様のお相手はセイリュウ家の男性だと言っていたから、シュウジさんの祖母になるんだ。

シュウジさんは聖母様の小言を聞きながら、私にウインクをしてくる。


「では貴方はもうお帰りなさい。貴女がいては綾乃さんがゆっくりできないわ」

「残念ですが今日は失礼いたします」


そう言いシュウジさんは退室した行った。やっと一息つき話をしようとしたら、また誰か部屋に来たようだ。聖母様が溜息をつき扉に向かうと…


「いや…これまた愛らし娘さんが来てくれたんだね。由美子さん紹介してくれるんだろう?」


部屋に入って来たはイケジジでどことなくシュウジさんに似ている。


『っという事は…』


聖母様はその男性を紹介してくれる。やぱり聖母様の伴侶のトモキ様だった。トモキ様は白髪の長髪を後ろで一つに纏め、背筋も伸びダンディーなおじい様だ。

挨拶が終わるとトモキ様は聖母様の手を取り隣に着席される。従僕がお茶を出し退室すると、足を組み優雅にお茶を飲みにながら、この国の事を話し出した。すると聖母様が話しを遮り


「綾乃さんはまだ来たばかりで戸惑っているのよ。国王である貴方が国を想い話をしたいのは分かるけど今はダメよ。綾乃さんがきちんと自分で聖母を引き受ける決心をしなければならないの」

「それは済まなかった。60年ぶりの渡に心逸ってしまった様だ。済まないね綾乃さん。由美子さんに話を聞き相談するといいよ。由美子さんは優しい女性だから力になってくれるはずさ」


トモキ様はそう言い聖母様に頬に口付け退室してされた。全く話が進まなくて落ち着かない。そんな私を見て苦笑いした聖母様は


「私から一言。”運が無かった”と思って欲しいの。そしてその代わりここでは自分のしたい様にすればいいわ」


やっぱり同郷の聖母様にも諦めろ言われ自然と涙が出てきた。そんな私の隣に座り抱きしめてくれる聖母様。もう情調不安定で心も体もぐちゃぐちゃで壊れそうだ。暫く泣き少しスッキリすると


「今日はゆっくり休んで明日から聖母の歴史をお話するわね。歴史を学べば聖母の大切さが分かるから」


聖母様はそう言い私の手を取り、呼んだ女官に部屋の案内を指示した。

こうして王城に泊まる事になり、更に不安が増していった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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