7.婚約者
セイリュウ家のシュウジが推しにそっくりで心躍るが…
「お初にお目にかかります。セイリュウ家嫡男シュウジと申します」
「早川綾乃です。お花ありがとうございます」
目の前に現れたシュウジさんは推しが演じていた【ディーノ】にそっくり…だけどゴツイ。
推しの彼は細身で中性的な男性だけど、シュウジさんは背が高く細マッチョで男の色気?が溢れている。期待した分残念で過ぎて真顔になる。
私が1人で落ち込んでいたら、微笑みシュウジさんが椅子を引いてくれたので着席しお花を侍女さんに預ける。そしてシュウジさんは声のトーンを下げマコトさんに
「メイナ嬢には連絡はしたのか?」
「あぁ…昨日会って来たよ。お前こそジュリアン嬢には?」
2人は女性の名をだし話し出した。こんな時知らない話題は避けるべきなんじゃないの? 少し不機嫌になるとそれに気付いたマコトさんが説明をしてくれる。
「4公の嫡男は幼い頃から婚約者を決め、乙女の伴侶に選ばれなかった時は、婚約者と婚姻するのです」
「そんなお相手が可哀想だわ」
そう言うと2人は首を傾げる。だって乙女の相手が決まるまで結婚は保留にされるし、もしかしたら婚約破棄されそこから新たなお相手を選ぶ事になる。そう言うとお二人は何故か熱い眼差しを向け
「綾乃様はお優しい。しかし彼女達は4公の婚約者である事が誉れなのです。もし解消となっても彼女達との縁を望む令息達は絶えないでしょう」
そう言いこの国では当たり前の事だと話した。マコトさんは直ぐに追い返すっと言っていた割に、シュウジさんと楽しそうに話している。幼馴染だと言っていたから本当は仲がいいのだろう。ふとお2人の名前が気になり質問する。シュウジさんの登場で気付いたが、4公の男性の名前が和風名が付けられている。理由を聞くと4公の嫡男が誕生すると聖母が名付け親になるそうだ。
「嫌じゃないんですか?」
「「何故です?」」
2人は名前をとても気に入っている様だ。この和風な名前は乙女の相手となる4公の嫡男の証で大変誇りに思っているそうだ。もし…いや聖母何てなるつもりはないけど、もし私が聖母になったなら現代的な名前にしたい。そんな事を考えていたら2人はハンスさんも交え聖母様に会いに行く相談を始めた。
「あの…私の意思は尊重してくれないのですか?」
そう主張したが3人とも無言で微笑み話を進める。もうこの国のトップ?である猪神様に直談判しかない様だ。3人とも真剣に話し合いを始め暇になった私は、侍女さんに部屋に戻ると伝え一人で部屋に戻った。気分が上がらない私は昼食を部屋でいただく。食後外出から戻られたケンジ様が部屋に来た。
どうやらスザク家が受け入れた女性が乙女で無い事が分かり、スザク家とビャッコ家がこちらに向かい領地を出たそうだ。
実はこの情報はセイリュウ家からもたらされ、早馬で知ったケンジ様が急いで戻って来た様だ。
「現国王はセイリュウ家のトモキ様で、その前の国王は我がゲンブ家より輩出しております。スザク家は長く聖母さんのお相手を出しておらず啓示が下った後、一族総出で乙女の捜索をしていた様です」
実は今日アポ無しにシュウジさんが来たのはその件伝える為。スザクから横槍が入る前にゲンブ家とセイリュウ家が囲いたいのだろ。
皆さん親切だけど確実に外堀を埋められている。この国の事情に振り回されている事に苛立ちを覚え思わず
「こちらに来てお世話になっている事には感謝致しますが、私の意思は聞いていただけないのですか? 私は物ではありません。自分の意思や感情があります!」
ここに来てからのストレスで感情が爆発してしまい、自分でも驚くほど大きな声が出た。目の前のケンジ様は目を見開き驚いている。
頭に血が上った私は咄嗟に部屋を飛び出てしまった。そのまま走り屋敷を出て行こうと決心する。だが後ろでケンジ様の声が響き、使用人達の足音が近づく。スカートをたく仕上げ必死に走るが足が遅く追いつかれそうだ。
『あそこ!』
階段前の小さな扉が少し開いているのが目に入る。一か八かその部屋に飛びこんだが!
「わぁ!」
部屋に入るのと同時に誰かが部屋から飛び出て行った。飛び出した人は階段を駆け下りている様で、私と間違えた使用人達が追いかけ階段を駆け下りていく音が聞こえる。このままここで時間をつぶし脱出方法を考え様としたら、背後から口元を覆われホールドされ動けない。もう何が何だか意味不明で涙が出てきたら…
「落ち着いて下さい。シュウジです。聖母様の命でここに参りました」
「!」
突然のシュウジさんの登場に涙も引っ込んだ。シュウジさんに抱きかかえられ暫く身を潜めていた。私の居た2階は静かになり、やっとシュウジさんも腕を緩めた。慌てて離れるが部屋は物置の様で狭い。
警戒心MAXの私を見て微笑んだシュウジさんが
「貴女が嫌がる事はしませんから、そんなに睨まないで下さい。女性に睨まれると心が痛みます」
「ならちゃんと説明して下さい」
頷いたシュウジさんはランプを点け、部屋の隅から椅子を持って来て、そこに私を座れせた。そしてここで待つ様に言い、部屋から出ようとする。こんなところで一人残されても困るので呼び止めると
「私はお会いする事を許されておりませんので…大丈夫です。安全である事は私が保障致しますから」
「いや。色々意味不明なんですけ…どぉ!」
結局何の説明も無くシュウジさんは出て行ってしまった。
『私どうなっちゃうの?』
そう呟き。薄暗い天井を見つめていた。
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