6.推し
猪神と乙女の歴史を聞き困惑中。頭の整理をしたくて早めに部屋に戻り…
「はぁ…誰か夢だよって言ってくれないかなぁ…」
部屋に戻りベットに寝そべり、自分に起き事を整理していた。
まずは私が異界から来た乙女と認識されている事。そして乙女は猪神の血を引く4公と結婚し、この国を護る事を求められている。
「公爵の話では猪神が啓示で次の聖母となる乙女を異界に迎えにと告げ、日本で(普通じゃないサイズの)猪と遭遇し私はここに来た。つまり…」
つまり駅前で遭遇した猪は猪神になる。それより何故私が選ばれたのだろう? 偶々?それとも何か条件があり私がマッチしちゃったのだろうか?
「運がないわ」
そう思うと落ち込んできた。私はちゃんと家に帰れるのだろうか… いきなり消えてあの後おにぃはどうしたのだろう。やっぱり警察に通報し捜索願いが出され、地元では神隠しにあった子と言われているのだろうか。
「怖くなって来た。マジで私どうなっちゃうの?」
自然と涙が出て来た。ここで出会った人は皆んな親切だし、衣食住を提供され一応大切にしてもらっている。だからってここで結婚とか嫌だ。
私は人当たりがいいと言われて、男女とも友達は多い。でも隠れ人見知りな上に、推しにマジ恋してて男性と付き合った事もない。つまり男慣れしていないのだ。今は好きな2.5次元俳優さんと脳内恋愛し満足している。
そんな私がいきなり結婚と言われできる訳ない。ゲンブ家の人は息子さんとくっつけ様としてるのが見え見えだし、マコトさんを断っても他の3公の嫡男と見合いさせられそうだ。
「はぁ…猪神に”私は聖母なんて無理だから帰して”って直談判しようかなぁ」
そもそも猪神様に会う事はできるの?実在するの?
駅前で会った猪は猪神様?それとも使い?
そんな事を考えていたら、疲れいつの間にか寝てしまった。
そして翌朝。目が覚めるとちゃんとベッドに入り掛け布団を被っていた。夜中に侍女さんが被せてくれたようだ。起き上がり寝室の扉を開けると侍女さんがお茶を入れてくれている。昨晩のお礼を言いソファーに座りお茶をいただくと
「お嬢様。朝食は如何なさいますか?」
「あの…ここでいただく事はできますか?」
頷いた侍女さんは準備のために席を外し、他の侍女さんが来て身支度を手伝ってくれる。
1人部屋でのんびり美味しい朝食をいただく。こちらの料理は初めてのものが多いが私の口に合うようだ。食べ終わると侍女さんが
「マコト様がお屋敷をご案内させていただきたいと仰っておられます。いかがいたしましょう」
「えっと…ハンスさんにお願いは無理ですかね…」
侍女さんは表情を変えず確認をする為に退室した。こちらに来てまともに話したのはハンスさんだけ。人見知り発動している私はハンスさんが一番話し易い。
少しすると侍女さんとハンスさんが部屋に来た。スーツ姿のハンスさんは貴族に見える。半笑いのハンスさんは胸に手を当てお辞儀をして
「ご指名いただき光栄にございます。ではご案内いたします」
「すみません。よろしくお願いします」
こうしてハンスさんに案内されゲンブ公爵邸を見回る事になった。ハンスさんは前と同じく気さくに話してくれ直ぐに緊張は解けた。すれ違う使用人の皆さんは和かに挨拶してくれ感じが良い。
屋敷を見回り次に庭園に出ると、立派なガゼボが見えてくるとそこに誰かいる。
「あ…」
そこにはマコトさんが花束を持ち待ち構えている。立ち止まった私にハンスさんが
「騙した様で申し訳ございません。しかし私はマコト様の側近なのです。ですから…」
「あ…ハンスさんの立場は分かりますから謝らないで下さい。マコト様が嫌な訳では無いんです」
そう言い人見知りする事を話し、まだ慣れてないから気まずいと言うと理解してくれた。
「若は幼い頃からいつかお見えなる乙女様を待ち望んでおられ、乙女様に似合う男になるべく文武共に努力されて来られました。直ぐにとは言いません。お話する機会をいただきたい」
「えっと…少しなら。後、ハンスさんも同席してもらえますか?」
こうしてマコトさんとハンスさんと庭でお茶をする事になった。ガゼボに着くとマコトさんから花束をいただき、社交辞令をたっぷりいただき汗が噴き出る。こうして緊張必至のお茶会が始まった。
マコトさんは私が緊張しない様に、落ち着いた口調で話してくれる。年齢を聞くと私の2つ上でウチのおにぃと同じ年だった。少し親近感が出てきて話が弾み出した時、屋敷の方からヴィンセントさんが走って来た。初老のヴィンセントさんを心配していたら、息を切らしたヴィンセントさんがマコトさんに何か耳打ちした。
「申し訳ございません。旦那様も奥様も外出されておられ、シュウジ様をお止めできず…」
「はぁ…仕方ない。あいつは幼馴染で普段からここを自宅の様に出入りしているからなぁ。遅かれ早かれ紹介せねばならんのだ。こちらに通しなさい」
眉間に皺を寄せたマコトさんがそう言うと、またヴィンセントは屋敷走っていき、侍女さん達は慌ただしく茶器を下げて、新たなお客を迎える準備を始めた。それより参加者が増えるなら私に一言断るべきじゃない⁉︎
少し不機嫌になるとハンスさんがマコトさんに耳打ちをする。するとマコトさんが
「断りなくシュウジ殿の参加を決めた事お詫びいたします。実は幼馴染のセイリュウ家のシュウジ殿が乙女様に会わせて欲しいと約束無く訪問した次第です。強引な奴で断っても明日アポを取りまた来るでしょう。ですから…」
約束なく来たのだから、顔を合わせが終わったら追い返せる。だから会わせておこうと判断した様だ。
確かに正式に申し込まれたら、お見合いになりそっちの方が厄介だ。
不満はあるがいずれ他の3公とは会わなればならないだろう。遠い目をして(結婚を)回避する策を考えていた。すると屋敷の方から綺麗なダークグレーの長髪にライトグレーのスーツを纏った美丈夫が花束を抱えてこちらに向かってくる。
『ディーノ!』
その姿は私の推しが舞台で演じているアニメのキャラに似ていて固まる。
『こんな異世界で推しに会えるなんて鼻血もんだ!』
さっきまでの不機嫌は吹き飛んでいった。
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