2.選択
捕まり留置所送りになった綾乃。不安な夜を過ごし…
「起床!」
「!」
野太い男性の大きな声で目が覚めた。起き上がると他の3人は既に起きていて寝具は畳まれ私が最後だった。スージーさんにこんな所で熟睡できる事に呆れられ自分でも驚く。
そしてまた簡素な朝食をいただき、他の3人から色々聞き情報収集していたら、書類を持った騎士が留置所に来た。そして一人一人に書類を渡しよく読む様に言い戻って行った。
紙にはアグニ王国に入国する為の条件が書かれており、それに同意した者のみ入国を許可し、同意できないの者は強制送還となる様だ。
「流石アグニだね。こんな上質な紙は見た事ないわ」
「それに書いてある文字も筆跡が同じで驚いたわ」
他の3人は内容より他の事ばかりで内容をちゃんと読んでいないようだ。
『そんな驚く事なの?ありふれたコピー用紙に印刷された書類だよ。それより内容をよく読まないと入国条件は厳しいよ』
そう入国条件は大変厳しくそれ相応の覚悟がいる。まず3年間決められた貴族または豪商の屋敷で下人・下女として奉公し、給金も管理され自由に使えない。また異性との交際接触も禁止され、国外への手紙や金品の仕送りも禁止。まるで囚人…いや奴隷のようだ。
だがこの厳しい条件をクリアーした暁には、アグニでの身分証が発行され、滞在や住居を置くことができる。
『3年かぁ…簡単そうで厳しいなぁ…』
でもここを追い出されても私は行くあてもない。なら評判のいい国で奉仕しながら、帰り方を探した方がいいのかもしれない。
そんな事を考えていたら騎士が来て1人ずつ別室に連れて行き意思確認する。
「説明書はよく読み内容を理解したか?」
「はい」
「聖母様は秩序を守り常識ある者は、性別出生関わらず受け入れやられる。奉仕の3年間はそれを判断する為の期間である。貴女の判断を聞こう」
事務的に確認する騎士を真っ直ぐ見据え、奉仕する事を述べると騎士は机から紙を1枚出した。それを見ると誓約書と書かれ、再度内容を読み同意のサインをする様に言われた。
時間をかけ条件を読みサインする。この国の文字は見たこともないのに、何故かサイン出来た自分に驚いていると
「痛!」
急に騎士に耳を掴まれ耳たぶにピアスを着けられた。痛みは直ぐ引いたが先に声くらいかけて欲しい!
「この”ぴあす”が奉仕者の印となり、不埒なことをすれば直ぐに分かる。真面目に奉仕を終えれば外され、晴れてアグニ王国の住民となれる。貴女は真面目そうだから大丈夫だろう。頑張りなさい」
先程まで厳しい顔をしていた騎士は微笑み応援してくれた。怖い顔をしているけどいい人かもしれない。
こうして留置所から馬車に乗せられ、王都に向けて出発する。馬車には留置所で一緒だった女性1人と男性が4人。初めて話をしたスージーさんは居なかった。奉仕に同意しなかった様だ。
『思いっきり密入国したって言ってたから、面倒ごとは嫌なんだろう』
そんな事を考えていたら男性の1人が話しかけて来た。狭い車内で無視する訳にいかず耳を貸すと
「お嬢さんの髪色と瞳なら4公の屋敷でお勤めになりそうだね」
「4公って?」
何も知らない私にその男性は丁寧に教えてくれた。
4公とはアグニ王国の高位貴族で四方を守る公爵家の事。北を守るケンブ家、南を守るスザク家、東を守るセイリュウ家そして西を守るビャッコ家。
『なぜ異世界で四神? もしかしてこの国に転移者がいたの?』
驚き固まっていると隣に座る女性が話に加わり、自分も4公の屋敷で奉仕したいと言いその男性に詰め寄る。すると男性は
「4公は代々聖母様の配偶者を出しているんだ。今の聖母様はかなりご高齢で、次の聖母をお決めになるそうだ」
聖母様は黒髪に黒い瞳で真珠色の肌の幼い面立ちの女性らしい。だからこの国では女性の美人の条件が黒髪と黒い瞳なのだ。
そして次期聖母の配偶者となる者が、この国を王となり国を治めるそうだ。
「だから今この国では4公が血眼になって黒髪と黒い瞳の女性を探しているんだ。こっちのお嬢さんは残念だがその髪色と瞳では選ばれないよ。でも可愛いから豪商の屋敷には行けるさ」
そう言いもう1人の女性を慰める。選ばれないと言われショックを受けた女性は、私を睨みつけ
「この子は黒く無いわ!ちっ近いけど黒じゃ無いもん!」
と不満を私にぶつけた。そう私は日本人だが髪の色も瞳の色も一応黒だが色素は薄い。何故ならクォーターなのだ。母の父つまり祖父がロシア人で、祖父は銀髪と薄茶色の瞳だった。母は祖母に似たのでハーフに見えない。だか私は祖父の血を濃く継いだ様で色素が薄い。だからよくハーフと間違えられた。
だから私は関係ないと自分に言い聞かせ、2人の会話を聞いていた。
暫くすると馬車が止まり、騎士に降りる様に言われる。降りるとそこは宿場町の食堂。ここでお昼休憩をし、深夜に王都に着くそうだ。
休憩中もあの男性が話しかけてきて、この国の事を色々話してくれる。あまりにも親切で途中から警戒すると
「君に下心があるんだ。と言っても恋愛とかでは無く、君は奉仕期間勤め上げ貴族に伝手が出来そうだから、今のうちに仲良くなっておきたくてね」
そう言い名乗った。彼は隣の大陸から来たハンスさんと言い、この国に移住するのが夢だったそうだ。
だがこの国での身分証を取得するのは難しく、奉仕の制度を利用し身分証を得ようとしている。
『だからこんなに詳しいんだ』
感心しているうちに時間になり王都は向けて出発した。長い馬車での移動で体も心も疲れ果てた頃にやっと王都に着いた。予定通り王都の詰所に着いた頃には真夜中の鐘が鳴り響いた。
このまま詰所の留置所で休む事になり、また冷たい床に敷物を敷き薄い布団に包まり眠る事になった。
『また留置所だよ…』
そう呟き転移2日目を終えた。
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