10.集結
帰れない事を理解した綾乃。でも聖母になるつもりは無くて…
「運が無いかぁ…」
聖母由美子さんにそう言われ、納得いく訳も無く未だ頭の中はぐちゃぐちゃだ。無駄に広いベッドに大の字に寝転がり天蓋をぼんやり見つめていた。猪神様と由美子さんと話し、帰る事が出来ない事は理解し諦めた。後は元の世界の私の扱いだ。行方不明でずっと探し続ける家族を想うと無かった事にした方がいい気がするが、自分がなかったものになるのは嫌だ。
「それに恋愛する気が無いのに、相手を充てがわれるなんてイヤ」
推しを愛で脳内恋愛で満足していた私にはハードルが高く、この年で結婚とかも想像もできない。
「やっぱり帰りたい…」
そう思うと涙が出てきた。布団の中で丸まり声を殺して一頻泣いた。
泣き疲れ眠っていた様で、侍女さんの声で目が覚めた。体を起こしぼんやりしていたら
「本日のご予定を申し上げます」
戸惑う私に事務的に予定を告げる侍女さん。どうやら今日はどこかに出かける様だ。行先を聞いても聖母様に聞いて下さいの一点張り。諦めて食事をとり身支度をする。
そして身支度ができるとマコトさんが迎えに来た。
朝から美形の微笑みは眩しい。
「朝から貴女に会えるのは至極の喜びです」
「えっと…お出迎えありがとうございます」
マコトさんにエスコートされ着いた先は大広間だった。中に入ると注目を浴び後退りする。
広間には若い男性と父親らしき男性が3組と、ケンジ様がいた。このメンツから想像するに4公の当主と嫡男さんだろう。望まない見合いにため息を吐くとケンジ様が歩み寄り手を差し出した。断るのも面倒で手を取ると、優しい眼差しを向け体調を気にかけてくれる。
その眼差しは父親が娘に向けるそれだ。本当に心配してくれているのを感じ、お父さんを思い出し泣きそうになる。今この時も私を捜しているのかもしれない。お母さんは持病の喘息があり、お母さんのサポートだけでも大変なのに、その上私を捜すとなると過労で倒れてしまうかもしれない。
「ケンジ様。お聞きしていいですか?」
「何でもお聞き下さい」
ケンジ様は私の両手を取り少し屈み目線を合わせた。そしてもし娘が突然居なくなったらどうするか聞いてみた。家族を愛しているのケンジ様には酷な質問なのは分かっている。でも父親の気持ちを知りたい。すると表情を曇らせ
「想像を絶する苦痛となるでしょう。ですが私が有する物を全てかけ、命尽きるまで捜し続けるでしょう」
そして手を引き私を抱きしめて
「私達は我が国を守る為に、その苦痛を貴女と貴女の家族に課してしまった。申し訳なく思っております。烏滸がましいが貴女の父君の代わりに貴女を愛し守って差し上げたい」
「…」
今のケンジ様の言葉で心が決まった。顔を上げお礼を言い背筋を伸ばし心を入れ替える。そして
「ケンジ様。この集まりと今日の行先をご存知ですか?」
そう質問するとケンジ様も行き先は聖母に聞く様に言い教えてくれない。でもこの集まりについては教えてくれた。この集まりは次期聖母となる私と4公との顔合わせ。この国を守るには聖母と4公の関わりは多く、親交を深めるために年に何度も集まりがあるそうだ。
「今回は綾乃様のお披露目をし、伴侶候補との顔合わせとなります」
「それについてはまだ了承していません」
お見合いはまだ了承していない。気を引き締めないと、あっという間に婚約者が決まりそうだ。
ケンジ様から説明を受けていると、シュウジさんが来て
「ゲンブ公爵様。そろそろご紹介を」
シュウジさんに促され、私の手を取ったケンジ様は大きな円卓の上席に私を座らせると、私の右隣にケンジ様とマコトさん。左隣にセイリュウ公爵様?とシュウジさんが着席した。そしてゲンブ家の横には赤髪の男性達。そしてセイリュウ家の隣には白髪の男性達が着席した。
そしてケンジ様が立ち上がり挨拶を始め、そして4公の紹介が始まる。
まずは左隣のセイリュウ家当主のシンヤ様。シュウジさんのお父さんだ。シュウジさん似てクールなイケおじだ。次に挨拶してくれたのはゲンブ家の隣に座る赤髪の男性。赤髪から推測するなら…
「スザク家当主カツミと申します。綾乃様にお目もじ叶い光栄にございます。そして息子のゴウシにございます」
『ビンゴ!』
たしか朱雀って確か火の鳥?だよね。赤髪だからそうだと思った。という事は…セイリュウ家の隣はビャッコ家だ。
この後ビャッコ家からも挨拶をいただき一息つくと、ビャッコ家当社のタツヤ様が
「そうそう。スザク家が受け入れた奉仕者はお元気でしょうか?」
「分かっておるくせに嫌な聞き方をする。あの者は…」
タツヤ様は嫌味を言い、苦い顔をしたカツミ様は渋々あの女性事を話し出した。結論から言うとあの女性は国外追放となったそうだ。
初めはスザク家で丁重にもてなされていたが、薬切れで瞳の色が元に戻りバレたようだ。でも国外追放までしなくても奉仕くらいさせてあげてもいいのに。そう呟くとシンヤ様が
「やはり真の乙女様はお優しい。しかし奉仕者の誓約に、虚偽があった場合は即国外追放とされているのです」
『あれ?誓約書にそんな事書いてあったっけ?』
首を傾げ思い出していたら、ケンジ様が追加説明をしてくれる。
「検問所の責任者は洞察力に優れた者を付け、挙動の怪しい者にはその一文を加えた誓約者にサインさせます。真面目に奉仕すれば関係なく身分証は発行されますし、何かやらかせば不履行により追放できるのです。因みに綾乃様の誓約者にはその一文は無かったはずです」
確かに無かった。慎重な私は誓約書を全部読んで内容を覚えてる。という事は私は怪しく見えなかったんだ。
この事で少し気分が良くなると、マコトさんとシュウジさんが微笑みを向けてくる。
「とにかく乙女様をお迎えできた事は、我ら4公にとって喜ばしい事だ。後は乙女様に4公の嫡男からお相手をお決めいただき、次期王を決めなければなりません」
やっぱりお見合いさせようとしている。慌てて立ち上がり
「ちょっと待って下さい!私。聖母を受けるつもりはありません。帰れない事は理解しました。でも生き方は自分で決めます。もちろんお相手も」
初めにちゃんと意思表示しておかないと! そう告げるとタツヤ様とカツミ様が立ち上がり、ケンジ様に詰め寄る。
「ちゃんと乙女様に説明はしたのか!」
「聖母様の代替わりは必要なのは分かっているだろう!」
詰め寄られタジダジのケンジ様。ケンジ様は関係ない。再度口を開こうとしたら扉が開き聖母様が入室された。すると皆さん立ち上がり胸に手を当て深々と頭を下げた。聖母様は私の前に来てハグをして
「綾乃さんはまだ来たばかりなのよ。皆の圧が強過ぎて萎縮しているわ。もう少し時間をあげて。私はもう少し頑張れるから」
聖母様はそう言い私の頭を撫でた。やっと落ち着き皆さん着席される。そして聖母様は私に微笑みかけて
「今からオベリスクに向かい、綾乃さんに聖母の役目を知ってもらいます」
「オベリスク?」
聖母様が手を上げると皆さん立ち上がり、聖母様はシンヤ様がエスコートし、私はマコトさんに手を取られ移動を始めた。どうやらオベリスクと言われる聖母が祈りを捧げる場所に移動する様だ。
不安になってきたらマコトさんが手を握り心配ないと宥めてくれる。でもそんなんで安心しませんから!
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