1.転移
猪タクで異世界転移してしまった綾乃の物語。
「迷信だと思ってた…」
だだっ広い草原のど真ん中で、そう呟き立ち尽くす私。とりあえずスマホをカバンから取り出し見るが圏外。どこか知りたくて人を探すが見当たらない。
途方に暮れ空を見上げるとお日様が二つ並んでいる。
「確実に異世界じゃん」
私は早川綾乃。地方の都市に住む大学生。今日はサークルの飲み会に参加し終電で帰り、最寄りの駅で降り迎えの車を待っていた。
ウチは地方の大都市から電車で1時間のド田舎。夜9時を過ぎるとバスが無くなり、タクシーを呼ぶか家族に迎えに来てもらわないと帰れない不便な所にある。
とはいえ自然豊かで喘息の母にはいい環境。お陰で家族仲良く健康に過ごしている。
難点は駅から家が遠い事かなぁ。徒歩なら小さな峠越えがあり1時間半はかかる。駅前も最終バスが出ると店も閉まり人通りもない。駅前なのにタクシーの乗り場もなく駅に無線タクシーの電話が設置されている。迎えが来れない時はタクシーを呼ぶしか無いが、3つ前の駅から来るから呼んでもかなり待つ。
そんな不便な街には迷信がある。主にお年寄りが夜遊びする子供達を諌めるために言ってきたもので、若い世代は誰も本気にしていない。その迷信とは…
【 夜遅く出歩くと猪に連れ去られ、2度と帰って来れない 】
と言うものだ。隣の曾祖母ちゃんが子供の頃に若い娘が連れ去られ、神隠しにあったと事を話していた。
その話を聞き近所の子供達はその曾祖母ちゃんはボケていると言い本気にしなかった。
そして子供達は大人が早く家に帰らせる為に、怖い話をしているのだと気付き、この話を笑い話にしていた。それが
〈夜遅いと猪タクが来るぞ〉
と揶揄していた。かくいう私も親たちが夜子供が遊び回らない様に言っていた迷信だと思っていた。
30分ほど前までは…
終電が最寄の駅に着いたのが23時50分。改札をでるとお迎えの車が4台止まっている。お迎えを頼んだおにぃはまだ来ていない。私と同じでまだお迎えが来ていない中年の女性と2人駅前で待っていると、中年女性のお迎えが来た。するとおにぃから少し遅れるとメッセージが入る。
迎えに来てもらう立場だけど、遅れている事に苛つきため息を吐くと、車に乗り込もうとした中年女性が戻って来て
「迎えはくるの?なんなら送っていきましょうか?」
「ありがとうございます。あと少しで兄が迎えに来るので、大丈夫です」
そういい頭を下げた。女性は少し考え気をつける様に言い帰って行った。人気のない駅前でスマホでゲームをしながら待っていると、視線を感じ下を向くと
「犬?いやイノシシ?」
田舎だが山が近いわけでも無いのに猪が目の前にいる。その猪は体が大きくポニーくらいある。そして目が金色に輝きとても綺麗で恐怖は感じなかった。
意味が分からず猪と見つめ合っていると、遠くから車のベッドライトが見えた。やっと迎えが来て安心…出来ない!だって猪が目の前にいるんだもん。
視線を合わせたままで、ゆっくり後退りすると
「!」
その猪は頭を下げて私に突進して来た。思わず心の中で
『これぞ猪突猛進!』
と叫んでいたら足元が金色に光り、足元が無くなり落下した。落ちながらおにぃが私を呼ぶ声がしたが、返事をする事なく意識を手放した。そしていまに至る。
「猪タクはマジだったんだ…」
そう迷信だと思っていた猪タクに遭遇した私は、あっという間に異世界に落ち、この何も無い場所に放置された。
自分の感覚で1時間ほどその場に居たけど、誰にも遭遇せず陽が傾き慌てて移動を始めた。こんな何も無い荒野に深夜いるのは危険すぎる。当てもなく陽が傾く方へ歩き続けると遠くに塀が見えて来た。
『塀があるって事は民家があるかも…』
一抹の希を抱き歩き続ける。やっと塀の前に来た。どこかに入口があるはず。塀を辿って歩いていくと第一町人発見! 走って行くと剣を携えた大柄の男が7、8人いる。どうやら検問所のようだ。
門扉から中を除くと街並みが見えた。ここを通れば野宿は免れるかも… そう思い検問の列の最後尾に並ぶと、前に並ぶお婆さんが手に札を持っているのが見えた。
『もしかして通行証とか要るの?』
「あ…ここも要るのか…」
後ろに並ぶ男性がそう呟き、思わず振り返ると困った顔をした男女が相談を始めた。2人の会話は理解できて言葉が通じる事に安心していたら、後ろの男女は列を離れ立ち去ってしまった。そうしているうちに私の番になり通行証又は身分証の提示を求められた。持っていない私はここに来たばかりで持っていないと説明するが、そんな事で許してくれる訳もなく、大柄な騎士らしき男に腕を掴まれ詰所に連れていかれ、留置所らしき部屋にいれられた。
異世界に来て速攻でピンチに陥り前途多難に涙が出て来た。すると先に入っていた同じ年くらいの女性が話しかけて来た。
「貴女も他から来たの?」
「えっと…そうみたいです」
「厳しいとは聞いてはいたけど、若い女が泣きついたら見逃してくれると思ったけど甘かったわ」
その女性はスージーさんと言い、他の国から出稼ぎに密入国し、この検問所で捕まったそうだ。捕まった割に飄々としているスージーさんにこの世界の事を質問すると、怪訝な顔をしつつ色々教えてくれた。
この国はアグニ王国と言い聖母と聖塀に囲まれ、豊かで平和な国。他国から楽園と呼ばれこの国に永住する事が憧れらしい。しかしこの国で身分証を得るのは難しく、他国からの入国には書類が沢山必要。
だから自ずと密入国が増え検問も厳しい。
『だから列に並んでいた後ろの2人は断念したんだわ』
大体状況を理解したが検問所で捕まってしまった。この後どうなってしまうのか不安になる。
暫くすると2人ほど留置所に来て、留置所は4人になった。勿論女性ばかりで貞操は守られそうだ。
この夜は簡素だが食事も出て、敷物と毛布が支給されギリ寝ることがさ出来た。
『考えても仕方ない。明日の事は明日考えよう』
考える事をやめ、転移1日目を終えた。
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短編の予定です。ブクマ&評価がよければ長編になるかも⁈