92.やり切りました。
山を下りて、まず立ち寄った場所。そう、ここはエドワードさんの診療所です。
もしかしたら往診で不在かもしれないとは思いましたが、出来事を直ぐに報告したくていちばんに立ち寄りました。街の人たちの様子も気になりますしね。あ、そうそう、アイラはレベル14になりました。そして『炎の魔法』と『水流の魔法』を新たに覚えました。勿論これらは『火の魔法』と『水の魔法』の上位魔法で強力なやつです。
アイラもこれで「今度はキラーウルフも瞬殺よ」と息巻いていました。いいなぁ…私はまだ、レベルが上がらないです。
でも、いいんです。目的は達成されましたし、良い報告が出来ます。胸を張ってエドワードさんに会えますよ。
「ただいまエドワードさん、帰ってきましたよ。全部燃やせましたよ」
そう言って、中に入ろうとした時です。「ドン」と何かにぶつかり、そのはずみで私は尻餅…を着く寸前にアイラに支えられました。
「きゃあ…ごめんなさい」
ん?この一場…面同じような事がどこかで起きた気がしますが、何時だったでしょう?
「失礼、怪我はなかったかい?プリーステスのお嬢さん」
あわわわ…その声は、そのシルエットは…る、ルイ様じゃないですか…なんでこんな所へ…
ルイ様の美しいお顔を見た私の胸は、ドキドキと120ビートを打ち、頭は瞬間湯沸かし器です。
「クスッ…ミドリさんはいつも僕にぶつかって来るね。次はちゃんと抱きしめるよ」
ルイ様…顔色一つ変えずにサラッとそんな事を…私だけ沸騰していてバカみたいじゃないですか。あぁ…穴があったら入りたい。
私が恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っていると、アイラが庇う様に私の前へ躍り出ました。
「ちょっとちょっと、何処の誰かさんかは知りませんが、私の師匠に変な事を言わないでください。誘惑しようとしても無駄です。私が黙っていませんので、さっさと何処かへ行ってしまってください」
軽薄な男が私にちょっかいを出しているとでも思ったのでしょう。怖い顔でルイ様を睨んでいます。でもね、アイラ、ルイ様が私を名前で呼んでいたのに気づかなかった?
「ねえ、アイラ…私を守ってくれる気持ちは嬉しいんだけど、このお方セント・ライトランド公爵家のご子息のルイ様よ…(小声)」
アイラの背中がブルブルっと震えて、ロボットの様な動きで私の方を振り向くと、顔面硬直状態です。勿論こめかみには汗、瞳はウルウルさせています。
「し、師匠…わ、私極刑ですか?…泣いてもいいですか?」
もう既に泣いてんじゃん…
「師匠って…君がミドリさんの弟子なのかい?師匠思いのいい子だね。話は聞いているよ、ミドリさんと二人で今回、頑張ってくれたんだってね」
ルイ様はアイラの言動には、全く気にしない素振りで、彼女を労ってくれました。そのさわやかな笑顔ときたら…アイラの目には入っていないか…
「わ、私…不敬罪で牢屋に入らなくちゃならないのですか?…(泣)」
やっぱり見えてないし、聞いてないね。アイラは私の腕にしがみつきました。
「なんで頑張ってくれた人を、牢屋に入れなくちゃならないんだい?それよりも、ブラックソムニの群生の話を詳しく聞かせてくれないか?」
ルイ様はクスっと笑われました。それを見て、ようやくアイラもほっとした様で冷や汗を拭きながら胸をなでおろしました。ブラックソムニのお話、もう聞いていたのですね。
私たちは診療所の中に入り、受付前の長ソファーに腰を掛けました。
「さて、アイラも落ち着いたところで、ブラックソムニの群生の件をお話しするとですね…」
私たちは、キラーウルフに襲われた事や、ブラックウルフに出会った事、ブラックウルフが私達を襲ってきたキラーウルフを倒したこと等を話しました。
「なんと、ブラックウルフに出会ったのだと?よく無事に戻れたな。滅多に出会う事も出来ないうえに、奴に戦いを挑んで助かったものは誰も居ない」
ルイ様は大層驚いていますが、私たちは戦いを挑みませんでしたから。
「ブラックウルフはかなり知恵を持ってそうでしたよ。それと、戦い方も戦略的というか大したものでした。私たちが攻撃を仕掛けなかったから見逃してくれたのかもしれません」
ルイ様は「ふむ…」と言って何やら考え込んでいる様子でした。ブラックウルフに関して何か思う事が有るのかもしれませんね。
「そう言えば、一緒にあった『黒い小さな丸い球』を見せてくれないか?」
私はナップザックから拾ってきた黒い小さな丸い球を出し、ルイ様に手渡しました。
「キリコ、これを調べてくれるか?」
え?キリコさんもここに来ているのですか?
部屋の奥から、兵士の将校のような恰好をしたキリコさんが現れました。だらしない格好だった以前のキリコさんとは全く態度が違います。そりゃあ、主の前ではきちんとしますよね。
キリコさんは一礼をした後、黒い小さな丸い球を手に取り、分析をはじめました。こんなのも分析できるのですね。
「ルイ様、これは『誘惑の欠片』ですね。誰かがキラーウルフを操り、ブラックソムニの群生を守らせていたと考えられます」
「そうか、大方の予想通り、今回の流行り病の件も副市長のフランコが絡んでいたのだな。噂によると、フランコを倒した冒険者たちもブラックソムニの煙で危なかったと聞いている、被害がこの程度で抑えられてよかったよ。そう言えば、群生を焼却した時は大丈夫だったかい?すまなかった、この情報が早く分かっていれば事前に知らせることが出来たものを…」
そうですよ。燃やした時本当にやばかったんですよ。まあ、知らなかったのなら仕方がない。ほんと、私達で良かったですよ、『解毒』が使えなかったら一体どうなっていた事か。くわばらくわばら…
いつも読んで下さりありがとうございます。
次話で第六章完結です。




