88.エドワード氏の頼み
キリコさんはすぐさま手紙をしたためた後、窓を開き指笛をピーッっと鳴らしました。
すると、なんという事でしょう。真っ白いフクロウが飛んできたのです。もしかしてヘドウィグって名前ですか?
「ヘドウィグって名前かと思っただろう。そうではない、ヘクトルだ」
キリコさんはそう言いながら、したためた手紙をフクロウに咥えさせると、フクロウはちょこんと頷き、真っ白で大きく翼を広げ、すぐさま飛び去って行きました。
わあ、かっこいい。超有名な魔法使いが飼っていたフクロウと一緒じゃないですか。誰が見てもヘドウィグって思いますよ。でも…さすがに同じ名前にするのはまずいですよね。
「そ、そんな事思っていませんよ、物語じゃあるまいし…」
でも、見透かされている様なので否定しましたが…ここはゲームの中か…。ちょっと、ニヤニヤしないでください。そんな事よりも、ルイ様に手紙ってどういうことですかね?
「別にお前さんの事を書いたわけじゃない。内密に治安部隊を整えて、関係者を捕獲してもらうように依頼をしたのさ。それとも、何かお前さんの事を書いてほしかったのか?」
キリコさんにそう言われて、私の顔がいきなり紅潮するのが自分でも自覚できました。そりゃあ、ルイ様に良い所を見せたくないと言えば、嘘になるけれど、あえてアピールしたいわけでもないし…それに身分も違う訳だし…それに、それに…
「師匠、なにぶつくさ言っているんですか?結果が分かったのならさっさとおじいさん(エドワード氏)に報告しに行きましょうよ」
別にぶつくさ言っていたわけじゃあ…
「だって…キリコさんが変なこと言うから…(小声)」
「へ?何ですって?今何か言いました?」
「べ、別に何でもないですぅ」
私の微妙な反応に、キリコさんは何か感じるものがあったようで…
「ははは、ルイ様の手紙には『ミドリはとても可愛くて優秀なプリーステスでした』って書いておいたから安心しな」
「ぎゃあ、やめてください」
「良かったですね、師匠褒められて」
アイラは全く悪気無くニコニコしています。ち、違うんだよ…うぅ、軟弱な私…
「よ、よ、良くない。もう、いい…アイラさっさと行くよ!」
私はアイラの手を引っ張り、急いで部屋を飛び出しました。後ろでキリコさんが大笑いしているのが耳に入りましたよ。わざと揶揄っているよね。まったくもう…
◇ ◇ ◇
私とアイラはエドワードさんに教えて貰った通り、繁華街を西に向かいました。丁度、繁華街が途切れて暫く歩いた所に小さな看板。ありました、ここがエドワードさんの診療所です。
「こんにちは」と扉を開くと、中年だけど上品で、清楚な顔立ちの看護師さんが中から出てきました。
「あら、もしかしてあなた達が先生から聞いていた冒険者さんかしら?随分若いのね」
看護師さんがそう言うと、私が返事をするのも聞かずに「先生、冒険者さん達が来られましたよ」と大きな声で奥に向かって叫びました。
すると中から白衣を着たエドワードさんがやってきました。疑っていたわけじゃないけど、本当にお医者さんだったんだね。
「おお、早かったな。それで分析の結果はどうだったかな?」
「はい、エドワードさんが言った通り、ダークフェタミンが含まれていました。因みに分析してくれたのはキリコさんです」
「キリコって、あのキリコか…という事はわしの事も話したという事だな…まあ、キリコの分析なら信頼がおけるわい」
「そうですね。それと、エドワードさんの事も聞きましたので、ルイ様にセクハラされたことを伝えようと思います」
私がそう言うと、エドワードさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、つるつるの頭をポンッ。
「あちゃあ、えらい相手に関わってしまったものだよ…」
あら、困った顔をしていますね。少しは反省したのかしら?でもね、安心してください。貴重なマフィンを譲っていただいたので、今回だけは許してあげますから。
「ふふふ、反省していますか?反省しているなら街の人の為に頑張ってくれていますので、今回だけは勘弁してあげます。でも、次にセクハラをしたら許しませんからね」
私が笑みを浮かべてそう言うと、隣でアイラが私の袖を引っ張りました。
「ねえねえ、師匠?気になっていたんですが、ルイ様って誰ですか?」
「え?ルイ様はセント・ライトランド公爵家の嫡男だよ。それでもって、キリコさんも、エドワードさんも公爵家に仕えている人なんだって」
アイラは「うわぁ師匠、大変な人と知り合いだったんですね」と、とても驚いた顔をしています。だって、パンピーにしたら公爵家の人なんて、雲の上の存在みたいなものですからね。
「ほっほっほっ、そりゃあ助かった。ルイ様にバレると職を失うところだったよ」
エドワードさんは気楽に笑っていますが、隣で話を聞いていた看護師さんが「先生、いい加減にしてくださいよ」と怒っていました。
「ところで、私に手伝って欲しいことって何ですか?薬配りですか?調剤ですか?もしかして注射?」
私がワクワクしながらそう言うと、エドワードさんは「何を言っているんだこいつ?」みたいな表情です。
「なんじゃ、そのご飯にする?お風呂にする?それとも私?見たいのなのは…そんな事は頼まないぞ?だいたい、患者を診て投薬をするのだから、お前さんに任せるわけにはいかないよ。それに薬剤師もいるしの。注射ならタナちゃんがやってくれるしな、だいたいお前さん注射できるのかね?」
はい。注射できません。で、それとも私って何?あ、どうでもいい話か…
どうやら看護師さんの名前はタナちゃんです。でも、それなりのお歳なのに『ちゃん付け』ってどうなの?まあ、高齢のエドワードさんから見たら子供に見えるのかな?エドワードさん、70歳は超えてそうだものね。
「じゃあ、一体私に何をさせようと?セクハラは嫌だよ?それに、私も魔法で解毒は出来ますよ?」
そう言うとエドワードさんは再び苦虫を噛み潰したような苦笑を浮かべ、一枚の黒っぽい葉を取り出しました。
「この診療所から更に山に向かった所に、この葉の群生があるのじゃ。それをすべて燃やして貰いたいのじゃ、治療はわしでも出来るが、この仕事はわしでは出来ぬ」
「え?これってもしかして…紫蘇?」
「あほかい、何故紫蘇の葉を見せにゃならんのじゃ」
確かに…なんか恥ずかしいです。えっと、えっと、ここは場の空気を読んで…
「分かった、ブラックソムニだ」
「そうじゃ、これがブラックソムニの葉じゃ」
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