87.分析結果と後始末
「おじいさんマフィンを有難うございます。これ(マフィン)を分析して…って、もう悪の根源が討伐されたのだったら調べる必要ないかな?」
私がそういうと、おじいさんは首を横に振りました。
「いや、そこにダークフェタミンが入っていれば、今病で苦しんでいる患者の原因が明らかになる。少なくともお前さんはビベック氏達を解毒して治したのだろう?ダークフェタミンの含有量が少なくとも中毒になる者は居るからの。確認が出来たら直ぐに解毒剤を投与することにしよう」
うおお、お医者さんらしい発言だ。とても、さっきの助べえじじいと同人物だとは思えなません。
「では結果が判ればおじいさんにお知らせします。おじいさんの名前と診療所を教えてください」
「ん。わしはエドワードと言うものだよ。繁華街を西に抜けた所に診療所がある。では、そこで結果を待つことにしよう。あ、そうそう。お前さん方は冒険者だったな。後で頼みたいことがあるのでな」
それだけ言うと、エドワードさんは西に向かって歩いて行きました。分析結果が出た後が忙しくなるよ。皆を治療して回らないといけないものね。頼みたいことって、きっとお薬配りとかですよね。それとも調剤の手伝い?それですよ、そう言うのをしに来たのだもの、頑張りますよ。
これから起こるだろう出来事を想像しながら少し気合を入れていると、アイラがぽそっと呟きました。
「あのおじいさん、お医者さんだったんですね。もしかしてエッチな振りをして、私達がダークフェタミンに冒されていないかを、試したのかもしれないですね」
そうか。もし気分がハイになっていたら喜んで胸を差し出すから?いや、ハイになっていても差し出さないでしょう。それに試す?いや、無いね。無いない。だって助べえな目だったもの。買いかぶりすぎだよ。
「うん。良い様に考えすぎよ。絶対にセクハラだわ…まぁ、もうどうでもいいか。さあ、急いで戻るわよ」
◇ ◇ ◇
私達がキリコさんに指定された、ギルドの冒険者用のホテルの320号室を訪ね、ノックをすると、遠くから「入れ」って聞こえた気がしたので、鍵の閉まっていないドアを開けました。
わあ、私達が泊っている所と全然違うよ…
セント・ライトランド公爵家の直属の部下って言うだけあって、とても広くて立派な部屋です。部屋数なんて4つくらいありそう。冒険者用のホテルにこんないい部屋があるなんて…そりゃあ、声も遠くなりますわ。
部屋の奥へ進むと、応接室みたいな間の扉が開かれて、その中でキリコさんはソファーに凭れかかり、足をテーブルに投げ出し、顔を帽子で覆って横たわっていました。
それにしてもその恰好、昔の刑事ドラマのワンシーンみたい。恰好は良いけど…少し古いよ。黒いスーツ…これをする為に着替えたの?
「キリコさーん、マフィンが手に入りましたよぉ。鑑定してくださいな」
私がそう声をかけると、キリコさんは右手でそっと帽子を持ち上げ、うっすらと目を開きました。
「誰だい?俺の素敵な夢を遮る奴は…」
へ?もしかして腐ったマフィン食べちゃったの?頭沸いていない?そんなセリフどうでもいいから、仕事をしてくださいな。私は呆れましたが、アイラは違います。
「ヒュー。なんかキリコさん格好いいです。上下の黒いスーツが良く似合っていますよ。どんな夢を見ていたのですか?」
アイラのセリフに気を良くしたのか、キリコさんはフッと笑みを浮かべて「霧の中をさまよっていたよ」と意味不明な事を言いました。
「もういいですからその話は、後でじっくり聞きま…いえ、アイラがじっくり聞きますから。待たしている人がいるので早々にお願いしたいです」
危ない危ない…私も話を聞かないといけなくなるところだったわ。アイラは聞きたそうにしていたからいよね?って…嫌な顔をしている…社交辞令だったの?ごめん…
「それにしても、よくこれが手に入ったな。さっき聞いたのだが、これを売っていた店はつぶれてしまったそうじゃないか。民衆は菓子を求めて、右往左往しているらしいぜ。たぶん、ダークフェタミンの依存性の影響だな」
「まあ、これから調べて分かる事だが…」とか言いながらキリコさんはブツブツ呪文を唱えました。
「ああ、やはりそうだ。あのカビの生えた奴と違って、ダークフェタミンの含有量は少ない。うまく依存性と高揚感が出る量だな。まあ、人によって中毒になる場合もあるだろうけどな。さて、この事はまだギルドには伝えてはいない。誰に話して治療を進めるか、だが…」
予想通りだけど、これを売っていた奴って最悪な奴ですよね、依存させて儲けようとするなんて。市民の健康なんてどうでもいいんじゃない。ホント酷い。
私が怒っている横では、キリコさんは副市長がらみの藪医者どもが、事実の発覚に伴って逃走するのを阻止したいと考えていたようです。下手に話が漏れると逃げ出しちゃうものね。でも、現にもう副市長が失脚しているのだから、既に逃走準備を始めているかも…急がなきゃ。
「治療の方は大丈夫。このマフィンをくれた人がお医者さんでして、ダークフェタミンの事も分かっていましたよ。きっと今頃、解毒剤を集めているはずですよ。助べえじじいだけど…」
「もしかして、助べえじじいの医者って…エドワード氏かい?」
「え?エドワードさん知っているのですか?」
「ああ、俺と同じセント・ライトランド公爵家で働いていた医師だよ。そうか、彼もここに来ていたのか…知らなかったな。なら話は早い、俺がルイ様に手紙を送るとしよう。この件に関わっている奴らを捕らえるぜ」
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