86.じじいと理由
「もお、若い者はせっかちじゃのぉ…」
じじいは後頭部をポリポリ掻きながら、やれやれとため息をつきました。
「そうなんですよ。師匠はせっかちなんですよね。折角かわいいのに玉に瑕なんですよ」
「ほほう、あの娘さんはお前さんの師匠なのかい。若いのに凄いのぉ。一体何の師匠なんじゃ?」
「それがね、私達はね…」
おーい、お前さん方…話があらに方向へ向かって行っていますよ。速やかに修正してください。
話の本題などそっちのけで、二人は私達のこれまでの冒険話で盛り上がっています。
「あのね、盛り上がっている所悪いのですが、本当に急いでいるの。ここでマフィンが売っていないのなら、同じマフィンが売っているところを探さないといけないから、潰れた原因が判らないと対策が立てられないので…理由を言えないならもう結構ですので」
私がそう言うと、じじいは急に真面目な顔をしました。似合わないけどね。
「ほぉ…マフィンを買いに来たのか。そんなにマフィンが食べたいのかね?我慢できない程?」
ん?いきなりなんでそんな所に突っ込んでくるかな?
「あのね、そのマフィンにね…」
「アイラ黙って!」
何を話そうとしているのよ、アイラは。見ず知らずの人にペラペラしゃべって、パニックとかになったらどうするのよ。
「あ、ごめんなさい。理由は言ってはいけないみたい」
アイラはビクッと跳ねた後、舌を出して自分の頭をコツンと叩きました。行動が古いよ。おまけに、言ってはならない理由があるって告白したのよ?分かっているのかな?
「もしかして『ダークフェタミン』に関連する事かね?」
「え?…」
じじいの発言は寝耳に水でした。なんで、このじじいがそんな事を知っているのだ?こやつ怪しいじじいだ。この場で捕えて…
私は錫杖を振りかぶりました。
「おっと、待った待った…わしは悪党じゃないぞ!」
じじいは私の行動にびっくりして思わず首と手をブンブン横に振りました。そして一息ついた後、じじいは得意気にニヤリと笑みを浮かべました。
「その反応はダークフェタミンを知っているという反応じゃな?それに、何故こんなじじいがその名前を知っている?という顔をしているな。話は簡単じゃ。わしはこの街の医者だからな。流行性の病だと言われる病気を診ていて、ようやくここに行きついた」
話を聞くと、病気が流行ったのと同時に患者の家族も気分の高揚が激しく、おかしいと思っていると、皆マフィンを食べていた事に気が付いたのだそうです。そして、毎日、酷い人は3食マフィンを食べずにはおれない状態の人もいて、薬物依存を疑ったそうです。
そして確証を得る為に店に来たが閉まっており、たまたま出会った患者の家族に店がつぶれた理由を聞き、家に残っていたマフィンも頂けたそうです。丁度、じじいもギルドに行って分析を頼もうとした所、私達と出会ったという事でした。
「お医者さんって…じゃあ、ビベックさんの所で、ろくに診察もせずに匙を投げて帰ったお医者さんっておじいさんの事だったのね」
うん、人の胸を触ろうとするじじいだもの。やりかねないね。
「なんじゃ?知らんぞそんな事。だいたい、病が流行りだした時には役所がらみの医者が、他の医者を立ち入らせないようにしていたのでな。わしも診察できたのは最近じゃよ」
違ったようでした。でも、ロクな事しないからそんな風に私から思われるのよ。
「じゃあ、私がここにマフィンを買いに来た本当の理由を教えるし、おじいさんも私にお店がつぶれた理由を教えてください」
私はこれまでの経過を包み隠さず話すと、「じゃあ、これをお前さんに預けよう」と言ってなんと、マフィンをくれたのです。もう、じじいって思うのはやめておきます。
「わあ、最初はこんなに美味しそうだったのね」
私が紙袋に入ったオレンジのマフィンを手に取ると、アイラも「わあ、ほんとだ」と言って目を輝かせました。そして、事もあろうに
「ちょっと味見してみてもいいですかぁ?」
「「だめ!」」
初めておじいさんと意見が一致しましたよ。それにしてもアイラは今まで何を聞いていたのかしら。
◇ ◇ ◇
アイラが「冗談に決まっているじゃないですかぁ」とへらへら笑っていると、おじいさんはクスっと笑った後、「そうしたら、そろそろ潰れた理由を話すとしよう」と言いました。
話によると、この街の副市長と言うのは欲深で、この街に娯楽施設を立てて大儲けをしようと考えていたみたいです。その裏では何やら悪どい事も色々やっていたのですが、何処からともなく現れた冒険者の一行が、その副市長を成敗したのですって。
いるよね、何処でも金もうけに走って、悪いことをする奴って。裏金とか、パーティーチケットとかも売っていたんじゃないかしら。
成敗した時に分かった事ですが、なんとその副市長は魔族だったんですって、この世界には魔族が居るんだね。まあ、モンスターも居るんだから、魔族が居てもおかしくないか。
そして、その副市長が後ろ盾をしていたのが、このスウィーツのお店だったのです。働いていた人も副市長の息のかかった者だったので、そそくさと逃げ出したらしいのです。そいつらも魔族だったのかしら?
「ここで売っていたマフィン以外のスウィーツも、きっとダークフェタミンが入っていたに違いない。ダークフェタミンの依存性と、気分の高揚感を利用してこの街の住人を骨抜きにするつもりだったに違いない」
なるほど。それなら納得ですね。依存させてしまえばスウィーツはずっと売れるし、気が大きくなると娯楽に走り易いものね。流石はお医者さんですね。そこまで考えていらっしゃるとは…
「うふっ、おじいさん、骨抜きって。魚じゃあるまいし(ケラケラ)」
おーいアイラ、ケラケラじゃないよ。ちゃんと国語勉強しましょうね
いつも読んで下さりありがとうございます。




