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ソフィアのファンタジックワールド ~ミドリ 編~  作者: 季山水晶
第五章 旅路~ルナサフォラン

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68.トトのお母さん

 私は母親の身体の状態を調べてみようとしましたが、彼女は何も言わず機織はたおり機を動かし続けました。機織はたおり機の音で聞こえていないのかと思い、もう一度「診させてください」と言ってみました。すると、彼女はゆっくり口を開きました。


「お気持ちは有難いのですが、あなたはお医者様なのですか?生憎あいにく、私はこの状態でも困ってはいません。仮に困っていたとしても治療費を持ち合わせていませんので、どうぞ私などに構わず、お帰りになってください」


 頑なに拒まれました。一方的な施しを受ける気など全くないという姿勢です。相当なプライドがおありなのでしょう。それでもトトの事を考えると、このまま放置という訳にはいきません。


 神経が切れているなら私の魔法『接合ジョイント』や『組織再生リプロダクション』 で治せるはずです。しかしそれ以外の病気…腫瘍とか?であるなら、私には治せません。でもね、受傷起点から考えて、治る可能性は非常に高いと思っています。なら、診てみる価値はありですよ。


「私は医師ではありません。冒険者のプリーステスです。だから、あなたのご病気を治せるかどうかは分かりません。だから先ずは診てみるだけです。トトちゃんの為にも先ずは一度見せてはもらえませんか?」


 私がそう言うと母親は手を止め「トトの為とは?」と言いました。


 私のセリフに母親は、初めてまともな反応を見せました。トトの行動に何か思う所があったのかもしれません。サイコロステーキ屋の店主からはトトに「ちょっと手伝って貰うだけでいい」と聞かされていたようですが、どの様に手伝っているのかを全く知らなかったし、トトも仕事については「頑張ってきたよ」としか言わなかったからです。


「トトちゃんとの約束があるので、お仕事の内容までは言えませんが、悪い大人に良いように利用されている事だけは確かです」


 母親は拳を握りしめ、唇を嚙みました。その身体のせいでトトに負担をかけていたことが許せなかったのでしょう。


「な…何をさせられていたのですか?」


 母親は心配そうな表情を浮かべて私を見つめてきます。トトちゃんごめんね、全力を尽くすからお話しするね。


「お母さんの身体を見せてもらえるならお話します。いいよねトトちゃん、このままでいいはずないものね」


 私がトトを見てそう言うと、トトは母親の元へ駆け寄り、しがみついて泣き出しました。


「お母さん…ごめんなさい」


 母親は片腕でトトを抱きしめ、とがめることなく「嫌な思いをさせてごめんね」と耳元でささやきました。


「ところで師匠?トトの母さんの病気治せるんですか?」


「さあ、なんとも言えないんだけど、やってみる価値はあるかな…」


「師匠は身体強化と棒術意外だと『回復ヒール』しか使えないんでしょ?どうやって治すんですか?」


「あんた、師匠と言いながら私の事を馬鹿にしているでしょ。本職はプリーステスなのよ?他にもできるに決まっているじゃないのよさ」


「あ、戦っている所しか見たことがなかったもので…こりゃ失礼いたしました」


 アイラは悪びれる様子も無く頭をポリポリ掻きました。アイラのくせに生意気な。


 そのやり取りを見て、トトと母親はクスっと笑いました。


 あ、なるほど、アイラは雰囲気を変えようとしたのね。ごめん。なかなかやるじゃないのさすがは年上のお姉さんです。


「さあ、お話は後でゆっくりするとして、早速お母さんの身体を診せてもらうね」


所見ファインド

 右上腕内の橈骨神経と尺骨神経の損傷。毒によって組織が融解し断裂を起こしたものと思われる。

 右大腿神経の損傷。毒によって融解し断裂を起こしたものと思われる。


「やっぱり予想通り。ポイズンスパイダーの毒によってその周辺の組織が溶けて、神経が切れちゃったみたい。その部分の神経の再生をやってみますね」


 私はナップザックから以前使っていた魔法効果の高い錫杖しゃくじょうを取り出し、その先端を『所見ファインド』で示された損傷部位に当てました。


「先ずは腕からね『組織再生リプロダクション』、続いて足も『組織再生リプロダクション』」


 おお…なかなかの魔法量の消費です。ググっと魔法量が減った事を実感しましたよ。組織再生でこれだったら、蘇生の消費量は相当なものだろうな。鍛えなくちゃなぁ。


「あぁ…腕の…腕の感覚が戻ってきた…う、動きます…。足も動く…」


 母親は涙をこぼしながらトトを抱きしめました。良かった…成功して良かったよぅ。


 暫く使っていなかった右手と右足の筋肉は痩せていて、関節も少し拘縮しているので、依然と同じような日常生活を送るには時間がかかりそうですが、片腕で機織はたおり機を使う程の人ですもの、リハビリも頑張るに違いありません。


「あの…なんてお礼をして良いのか…ご挨拶が遅れました。私はトトの母親でミカと言います。お礼をしたくとも…私の家にはお金がなくて…私に何かできる事がありましたら…」


「いえいえ、それは置いておいて、あのサイコロステーキ屋のおっさ…店主からいくら借りているのですか?」


「毎月の借金が膨らんで5,000ピネルにもなっていますが、身体も動くようになったので少しずつでも返していくつもりです」


 私はそれを聞いて部屋の中にあった反物を指さし「その反物はおいくらですか?」と尋ねました。


 反物は丸まっているので柄まではよく分からないのですが、美しい真っ白な絹糸で織られ、美しい桜の花弁の刺繍ししゅうが施されていました。


「これは片腕が動かなくなって必死になって作ったもので…売れるようなものではありません」


 私はそれを手に取広げてみました。ちりばめられた桜の花弁が美しく舞っていて、売れるようなものではないなんてとんでもない話です。


「綺麗…私には反物の相場は分からないのですが、これを6,000ピネルで譲ってもらえますか?」


いつも読んで下さりありがとうございます。

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