66.ずるいおっさん
「お姉ちゃん…お肉の文句を言いに行くんでしょ?行かないで…」
やっと話し出したと思ったら、トトは意味の分からない事を言ってきました。アイラの第六感が冴えていましたね。何か裏がありそうです。
「だってトトちゃん。あれは絶対ワイルドボアの肉じゃないよ、だってワイルドボアの肉なら私食べたことあるもの(昨日だけど…)もっと、も~っと美味しかったんだよ。あれは絶対に別の肉だよ」
わたしがそう言ってもトトは錫杖を離してくれません。
「美味しくなかったらトトが食べるから、お願い行かないで…」
どうしてこんなに引き止めてくるのかが分かりません。やはり何かあるんですね。
「トトちゃん。確認するだけだから、お店の人も間違ったかもしれないでしょ?間違ってたら他のお客さんにも迷惑がかかるかもしれないし、ちゃんと伝えてあげなきゃね。間違っていなければそれでいいんだし」
トトは俯いたまま黙り込んでしまいました。仕方がありません、錫杖を握られているので、抱きかかえる事にしました。
「あ…」
トトは大層驚いていましたが、私にギュッと抱かれてもう逃げられません。そして諦めたのか、私の胸に頭をうずめたのです。
◇ ◇ ◇
「ねえ、おじさん。ここのお肉本当にワイルドボアのお肉なの?全然味が違ったけど…」
店主の目の前には私とアイラ、そしてトトは私の足にしがみついています。
店主は私とアイラ、そしてトトを睨みつけ、大きな鉄板のあるカウンターから店先へ出てきました。店主はどすの利いた声で威嚇し、隙あらば殴ってやろうって言う程の勢いです。
「肉食ってから文句を言うなんて、お前らたかり屋か?俺をゆすろうったってそうはいかねえぜ、ちゃんとワイルドボアの肉を出しているし許可も取っているんだ。何なら役人を連れて来いよ、確認してもらってもいいぜ。それよりもこの言いがかりの落とし前はちゃんとつけてもらうからな。他の客もこの事を聞いているんだ。店の信用が落ちた保証はしてもらうぜ。賠償金として1万ピネルはもらわないとな、そもそもお前らの舌に問題あるんじゃないのか?」
よくしゃべる人ですね。それに何か言い訳っぽく聞こえるし…賠償金を出せだなんてこの人の方がたかり屋じゃないの。そこんな人おじさんなんて呼び方しません。おっさんで充分だわ。
「分かった、おっさんの言う事が正しいかどうか、この肉の遺伝子検査でもしてもらうから(この世界でできるのかどうかは知らないけれど、ハッタリよ)、それでこれがワイルドボアの肉なら1万ピネル払ってあげるわ、でもね、もし違ったなら私に1万ピネルをはらうのよ」
おっさんは私のセリフに舌打ちをして、カウンターの中に入っていきました。
「うわぁ、強気に出ましたねぇ師匠。遺伝子検査ってよく分からないけれど、できるんですか?」
アイラが半ば感心しながら、小声で耳打ちしてきます。
「ハッタリよ。こんな時は強気で行かなきゃ、あのおっさんも大金を吹っ掛けたら引くと思っている節があるからね、相当怪しいと睨んだわ。きっと安い肉を使っているのよ」
「おい、何をコソコソ喋ってやがるんだ」
おっさんは再び戻って来て、生のサイコロステーキ1欠片を差し出しました。
「これをもって検査してこい。1万ピネルの賠償金を楽しみに待っているぜ」
「ええ、確かに受け取ったわ。いまおっさんが持ってきたこの生肉と、さっき買った私の持っている焼いた方のお肉を両方調べてもらうから」
私は先程購入したサイコロステーキをおっさんに見せました。そして『記録装置』を取り出し「今までの会話は全て録音しているから、安心してね」と言いました。
記録装置にそんな機能はありませんが、勿論それもハッタリです。でもこれが功を奏したのか、おっさんはいきなり動揺をみせたのです。
「おい、そんな焼いてある肉の検査なんてできるのか?それに録音ってなんだよ」
「焼いてあろうが腐ってあろうが検査は出来るわよ。それに録音は録音よ、今までの会話がすべて記録されているわ。検査結果が出た後、お互いに言い逃れが出来ないためのね」
おっさんは複雑な表情をして口をモゴモゴしだしました。それに額には変な汗が出てきたようで、袖口で汗を拭いだしました。
「あ、う、も、もしかしたら焼き試し用のケッパーラビットの肉を間違えて出してしまったかもしれねえ…。に、肉の焼き加減を見る時、ワイルドボアを使うともったいないだろ、だからケッパーラビットの肉を使うのだが、申し訳ない…お、お客さんに渡したものがそれの可能性がある…そ、その肉の焼き具合を見てそう思ったんだ…本当に申し訳ない…4皿分の代金は返金するから、それで丸く収めてくれないか…」
お客さんと来ましたよ。私の勝ちですね。
「それでいいのですか?本当にワイルドボアの肉なら、1万ピネルが手に入るのですよ?」
「いや、ちょっと考え事をしていたものだから、そう言う事も有り得る気がしてきたのだ。お客さんの舌まで疑って申し訳なかった。返金に加えて、本物のワイルドボアの肉を焼くから、それを食べて水に流してはくれないか」
罪を憎んで人を憎まずと言いますので、それで勘弁してあげました。「もう二度と間違えないでくださいね」と念を押しましたよ。おっさんは1皿分のサイコロステーキと120ピネルを私に手渡し、頭を下げた後カウンターに戻っていきました。何やらトトを睨んでいた様に見えますが、気のせいでしょうか?
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