60.商人との出会い
昼食を終えた私たちは、再びルナサフォランへ向けて歩き出しました。私の肩の上にはユキちゃんが、アイラの肩の上にはマロンちゃんがでんと座ってまだプチリンゴを齧っています。お願いですから、果汁を肩に垂らさないでくださいね。
私たちが歩いている所は一応街と街を結ぶ街道なので、時々乗合馬車や商人の貨物馬車が通ります。大きな馬車には護衛が就いているのですが、小さな馬車になると護衛料を払えない為か、商人が手綱を取って馬車を走らせている事もあります。決まってそう言った馬車の御者は顔を強張らせ、ピリピリしている様に見えます。
「ねえアイラ、御者の人って結構ピリピリしているよね。この道ってそんなにやばいの?」
「え?師匠はその事も分かっていて歩いているのかと思っていましたけど、モンスターに加えて山賊も出るそうなのですよ?」
セント・ライトランド家の人々やマリーさんも「山賊が出るから気をつけろ」って言っていたけれどそんなに毎日出るものかしら?あまりにも頻繁に出てしまうと、誰もこの道を通らなくなって結局山賊達の収入も減る事になるのではないでしょうか?
「そんなに毎日でたら、討伐されたり、誰もこの道を使わなくなったりしないの?」
「あいつら馬鹿だから、そんな事は全く考えないのですよ。取れるものは取れる時に採れって感じで、弱いものを見つけたら直ぐに飛びつくみたいなですよ。師匠は全く気にしておられない様ですが、本当は私たちもかなり危ないんですからねっ!」
叱られました、藪蛇でした。どうやら、危機管理がなっていないのですね。そうかと言っても、強くなる以外にどうしたらいいのですかね?透明になる魔法を手に入れるとか?そんなのあるのかしら…
でもね、よく考えればここはゲームの中の世界。何かイベントがあるのが当たり前なのです。その事をすっかり忘れていました。イベントがなければゲームって成立しないですものね。ほら、言った先から案の定ですよ…道の向こうで人の叫び声です。
アイラと二人で叫び声の方へ走って向かうと、小さな馬車の前に非常にガラの悪そうな2人の山賊が仁王立ちしています。馬車馬は既に無く、轡と手綱が馬車近くに落ちている所から、山賊が剣で切り逃がしたことが伺えます。
「こ、この荷物を運ばないと生きていけねえんだ…た、頼む…み、見逃してくれ…」
馬車の前に座り込んでいる中年男性は、涙ながらに目の前の山賊に懇願していました。
「ああ、それは俺たちも同じだぜ、その荷物が無いと生きていけねえんだ。なんせ人からものを奪わないと生きていけない仕事なのでな。がははは…だが、お前にはまだ生きる権利はある。その荷物を置いて行けば生きていくことは出来るんだ、いい話だろ」
要は命が惜しくば、荷を置いて去れと言っているのです。逆らえば命は無いと…
「アイラ、私はこいつらに襲われても立ち向かえるようになる為に、技を鍛えたんだよ。だからここは助けないとね」
アイラにそう言って私は中年男性の前に割って入りました。
「痛い目に遭いたくなければおとなしく去りなさい」
私は錫杖を地面にトンと突き、私なりに精一杯相手を威嚇してはみましたが…山賊達はと言いますと…
「おい」
「おい」
「女だ」
「ああ、若い女だ」
いきなり厭らしい目つきで私を見つめ、そのうちの一人が懐から笛を出し「ピー」っと吹きました。
するとどこから湧いてきたのか、更に5人の山賊が茂みから現れたのです。
「おい、どうした」
「ああ、俺が見つけたんだ。女だ」
「見つけたんじゃないだろう、勝手に出てきたんだ」
「それでもよくやった。今夜は楽しめるな」
「ああ、ちょっと貧弱だが、若いし大丈夫だろう」
ピクッ…
「まあ、そう言うな、貧弱でも一応女だ」
ピクッピクッ…
「俺は貧弱でも構わないぜ、顔はそれなりに可愛らしいじゃないか」
ピクッピクッピクッ…
「今日は荷物も手に入るし、女も手に入るし大安吉日かぁ?がははは」
な、何を好き勝手な事を言っているのよ、バナードと言い、山賊と言い、ろくでなしばっかりじゃないの!
その時です。私のすぐ横にアイラが走ってきたのです。
「師匠、私も助太刀いたします!」
するとアイラを見た山賊達
「お!」
「おお!」
「おおおお!」
「上物が出てきた!今日は最高の日だぜ!」
山賊達の歓喜の声が沸きあがりました…が
「何を言っているのよ!最悪の日に決まっているじゃないの!」
アイラが上物ですって!じゃあ、私は何なのよ!私の怒りは頂点に達し考える間もなく身体が動いていました。
ズバン!ドカッ!バキッ!ズドドドド!
「地獄に落ちろ!」
「師匠!待った待った!もう地獄にと言うか、意識が完全に落ちていますよ、それ以上やったら生命まで奪ってしまいますぅ」
後ろからアイラに抱きかかえられました。
「あら、私としたことが…貞操の危機だったので必死になってしまいましたわ。ちょっとはしたなかったかしら…おほほ」
「絶対嘘でしょ…」とアイラにジト目されました。
「あ、一応言っておきますけど、アイラが上物だってことに腹を立てたわけじゃないからね。アイラが上物だって事は私も知っているよ?でも、私も上物なのになって…」
「やれやれ、何を気にしているのですか、師匠は特上に決まっているじゃないですか」
アイラは優しく私の頭を撫でてくれました。
ああ、アイラに気を使わせてしまった…泣けてきます。
目の前には7人ののびた山賊達、そして私の横には目玉と口を思いっきり開いて、唖然としている中年の男性。
「あ、有難う…き、君はプリーステスだろ?とても強いのだね…」
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