54.依頼をこなそう、修行ですよ
翌日の朝、早速ギルドに行きました。今日はちゃんと依頼を受けての修行にしようと思います。
こんなに朝早くからギルドに来たことなかったのですが、本当に人が多い。お得そうな依頼などは奪い合いですよ。お得そうなと言うのは依頼者の急ぎの案件で、同じ依頼内容でも報酬が割高になっているのですよ。その代わりに期限も短く「本日中」とか「三日以内」とかで、守れなければ罰金が発生するのは当然で、更に一週間の業務停止ですって、厳しい。
報酬が高くとも、急かされるような依頼には興味はありませんが、少々緊迫感があった方がより集中できるかもとは思ってしまいます。
冒険者同士の争いを横目で見ながら私は「キラーウルフ3匹討伐」と「蜘蛛毒の結晶の納品」の二つを手に取りました。『蜘蛛毒の結晶』はポイズンスパイダーが時折落とす素材で薬の元です。キラーウルフ3匹だけの討伐ってのは何か変な依頼ですが、生態調査目的だそうです。キラーウルフもポイズンスパイダーも昨日討伐したモンスターよりずっと強く獲得経験値も高い、アイラを鍛えるにはもってこいです。
なんでこの二つの依頼が残っていたかと言いますと、キラーウルフは凶暴で危険度も高いのですが、その割に報酬は安い。3匹分の討伐と落ちる素材…牙ですが、それを含めての報酬は500ピネル。冒険者たちに言わせると「その倍は貰わないと」と思っているらしく、人気が無いのです。『蜘蛛毒の結晶』の方は1000ピネルと報酬は良いのですが、この素材は必ず落ちるわけではなく運によるので、敬遠されがちです。
私たちの第一の目的は報酬ではないので、一向に構いません。皆が敬遠するものを敢えて受けようと思います。ただ依頼内容はアイラには知らせていません、意地悪ではありませんよ。現地に着くまでリラックスをしていてほしいからです。
この忙しい時間帯なので、マリーさんとゆっくり話すことは出来ませんでしたが、こっそりと「バナードが仕返しを考えているから気を付けて」と耳打ちをしてくれました。
出来れば会わずにこの街を出たいのですが、無理ならどうしましょうか…ま、その時に考えますか。
ガイドブックで調べるとキラーウルフとポイズンスパイダーは、西の森林の更に奥の樹海に居るそうです。一番初めの依頼で行った森の奥で、ユキちゃんの故郷です。
西の森林迄は3kmなので、樹海までだと1時間強はかかるかしら。そこからモンスターを2時間ほど倒して戻ると、お昼過ぎには帰って来られますね。
◇ ◇ ◇
「いい天気で良かったですね。歩くのも気持ちいい…今日は何を倒すのですか?そろそろ依頼内容を教えてくださいよぉ」
ほんわりした表情でそう語りかけるアイラ、まるでピクニックです。昨日とは大違い、弱っちいモンスターを沢山倒して、レベルも上がったから気持ちに余裕が出てきたのでしょう。
依頼内容は昨日と同じくらいに思っているのでしょうね。キラーウルフが討伐対象だって知ったらどんな顔をするのでしょう?
そろそろ樹海が近づいてきたので、アイラに依頼書を見せる事にしました。やはり見た途端に、表情が硬くなり眉間に皺が寄っています。
「師匠…お腹が痛くなってきました…」
「その辺りでお手洗いをしてもいいけど、モンスターにおしりを齧られないようにね」
「おトイレに行きたいわけではありませんよ!もぅ」
はいはい、怖くて帰りたいって言っているのね。ちゃんと分かっていますよ。依頼が終わればすぐに帰してあげます、頑張りましょうね。
「ふえぇぇ…また一人で戦うんですか?」
「今回は危ない敵だから一緒に戦うよ。でも、アイラも一緒に前衛に立つよ。二人並んで戦うからね。場合によっては背中を預けるよ」
「おおお、背中を預けるってなんか恰好いいですね。師匠にそう言って貰えるとがぜんやる気が出てきました。師匠の背中預かりました!」
アイラはいきなり鼻息荒くガッツポーズをしました。なんだか気合が入った様で良かったです。怖がっていたら攻撃が後手に回って危ないですしね。やや興奮気味くらいが丁度いい。
◇ ◇ ◇
樹海の中はまばらにしか太陽の光が差し込まなかったのですが、辛うじて冒険者たちが通ったと思われる、獣道の様なものがあったので、歩くには思ったよりも不自由はしませんでした。リンちゃんを探しに行った時の方が余程大変でした。アイラはスカートなので少し嫌そうでしたけどね。今度ブーツを買ってあげよう。
しばらく歩いていると肩に乗ったユキちゃんの毛が逆立ち、私の首に張り付きました。その場に立ち止まり耳を澄ますと「グルルル…」とあちこちから唸り声です。
「アイラ、杖を構えて。5,6匹は居るかもしれない。背中の方は任せたわよ。それと2倍の身体強化魔法をかけるから魔法の出力には気を使ってね。大丈夫負けやしないから」
今のアイラの実力では、複数のキラーウルフを相手にするには荷が重すぎます。でも身体強化魔法を使えば、レベル的には10と同等。この辺りのモンスターの強さから考えると、複数であっても十分戦えるはずです。
アイラは少し震えながら黙って頷きます。今度こそ武者震いですね、気持ちが伝わってきます。さあ、行きますよ。
『身体強化』
いよいよ戦いの始まりです。
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