4.決めました。
やれやれ、一つの物事を進める毎に、何らかのアクションをしてくれるのですね、マリーさんは。
まあ、楽しくていいのですが私は早く先に進みたいのです。てなわけで決めました。決めましたよ。
「わたしゅはプリーステシュになりましゅ…」
…は、恥ずかしい。噛んでしまいました。隣からマサトの声を殺して笑うのが聞こえてきます。後で抓ってやることにしますね。
「分かりました。プリーステスになるのですね。じゃあ、ミドリちゃんあなたは今からプリーステスよ。おめでとう」
プリーステスと登録されると同時に、何やら不思議な感触が私の中に入ってきました。聞いたところによるとどうやら魔法が使える様になった様です。
ふふふ。私が感慨にふけっていると、何処から出してきたのか分かりませんが、マリーさんは紙吹雪を撒いて祝福してくれました。有難うございます。でも、散らかして叱られたりしませんか?
それにしてもマリーさんは人の失敗を笑ったりはしないのですね…優しい人です。株急上昇です。
「では、登録料は10ピネルになります」
「え?登録料がかかるのですか?」
マリーさんはニコニコしながら両掌を差し出してきますが、ここに来てまだ何もやっていないので、全くお金は持っていません。登録できないのでもう詰みですか?…困りましたね、オセンニキャラメルを売ったところで2ピネルにしかならないし…
「一文無しです」
「え?一文無しですか?登録はしちゃったので既に経費は掛かっていますよ?払っていただかないと困ります」
「持っていないので、このオセンニキャラメルで勘弁してください」
「それだけでは足りませんね。それに、それ私がプレゼントした物じゃないですか。…仕方がありません。着ているものを脱いでください。それを売って資金にします。それでも足りなければ身体で払って頂きましょう」
「うぇ?」
マリーさん…可愛らしいお顔をして恐ろしい事を言ってきます。ここで裸になれって事ですか?足りなければ身体で払え?ですって?
きっと、周りから見た私は恐ろしく嫌な表情をしているに違いありません。
「勿論、冗談です」
「やめてください!」
真顔で冗談を言うのはやめてください。本当かと思うじゃないですか。もういいから早くお話を進めてください。株、急降下しますよ。
私が少しイラついているのを察したのか、マリーさんは悪びれる様子もなく「まあ、まあ、可愛い冗談じゃないですか」とか言いながら「ピネルがない場合、最初の依頼の給金から10ピネルを引いた後、カードを返す仕組みになっている」という事を説明してくれました。
「じゃあ、これで登録は完了よ。依頼頑張ってね」
マリーさんは満面の笑みで手を振ってくれていますが、依頼申請の度にこのやり取りがあるかと思うと憂鬱になります。
予想以上に時間がかかりましたが、ようやく登録が終わりました。まったくもう、マサトに一言文句を言ってやらなくちゃ。
マサトの元へつかつかと向かって行くと、先制攻撃をされてしまいました。
「きみどり、マリーさん面白い人でしょ?面相臭い所も有るけどとっても親切なんだよ。これから困って時に力になってくれると思うよ」
やり取りを漫才でも見ているかのように単身でいたくせに。でも、そう言われると何も言えなくなってしまうじゃないの。もぅ、嬉しそうな顔をしちゃって…
「あ、ありがとう。でもここでの登録名は『ミドリ』だから『キミドリ』じゃなくて『ミドリ』で呼んでよね」
せめてこれだけは言っとかなくちゃ。これをきっかけにゲームの外でも『キミドリ』じゃなく、『ミドリ』って呼んでくれるようになればいいなぁ。『ミドリ』って呼ばせる作戦開始です、ってそんな事どうでもいいか。
「じゃあ、次に行こうか」
その後聞いた話によると、マリーさんは新規登録者を揶揄うのが趣味なんですって。この借りはいずれきっちりお返しします、楽しみにしておいて下さいね。
そのまま掲示板へ行って依頼を受けるのかと思いきや、私はマサトに気安く手を握られながら、ギルドの外へ連れ出されました。
あまりこの格好でウロウロしたくないのだけどね。さっさと依頼をこなしてピネルを貰って服を買いたいのですけど…
「討伐依頼を受けるんじゃないの?」
マサトにそう尋ねると「そんな服に、武器もないんだから討伐依頼なんかこなせないでしょ?簡単な薬草を取りに行くだけでもモンスターに出くわすことがあるんだから、危ない」と言われました。
そんな事を言うけどさ、依頼をこなさないとピネルを貰えないのでしょ?じゃあ、始めたばかりの人は一体どうするのさ? 誰も進めないじゃない!
弱すぎるから依頼なんか無理と言われているようで、少々腹が立ちます。
「まあ、最初にできる依頼は街の中の宅配って感じだと思うんだけど、依頼料は安いよ。それに折角僕がいるんだから、最初位協力させてよ」
経験者のゆとりでしょうか、それともお金持ちの自慢?爽やかな余裕のある笑顔が憎らしく感じます。でも、ここも我慢我慢。きっと、私の事を考えて行動しているに違いないわ。
到着した先は武具の店でした。あの…私、一文無しなんだけど。
読んで頂いてありがとうございます。明日も二話投稿予定です。