37.終わりましたね、フレディさん
フレディ氏が大きな声で警備員を呼んだので、二人の警備員が大急ぎで私たちの元へとやってきました。全部裏目にでていますねぇ、フレディさん。なんせ、侮辱罪に問われそうなのは彼自身なのですから。まあ、自業自得です。
「フレディ課長、一体どうされましたか!そんなところで座っておれられて…何かされたのですか?」
一人の警備員がそう言いながらフレディ氏を支えると、もう一人の警備員は私に剣を突きつけました。
「おまえ!一体何をしたのだ!」
いくら心臓に毛が生えているのではないかと思われている私でも、(勝手に自分が思っているだけですが…)剣を突きつけられてはバンザイするしかありません。
まさかいきなりグサッと刺したりはしないでしょう。まあ、ルイ様も見ている事だし、後で色々言い訳したらいいかな…なんて気楽な事を考えているとですね、ほらね、もう隣で声がしたのですよ。
「おい、その人は関係ない。拘束するのはむしろフレディとキャロルだ」
その声のする方向を見ると、おいおい、いつの間に変装を解いたのですか、ルイ様。完全に暴れん坊な将軍って感じじゃないですか。印籠も、桜の入れ墨も無くったってそのお顔は皆が知っていますものね。「余の顔を見忘れたか」とか言いそう。え?なんでそんな古臭い事を知っているんだって?うちのおじいちゃんがよく見ていますので。
そうそう、キャロルと言うのは受付姉さんの事ですしね。胸の名札にそう書いてありました。
「はっ、ルイ様ではありませんか。こんな所で一体どうされましたか?」
「ルイ様じゃありませんかではない。さっさとその剣を下げろ、その人は関係が無いと言っただろう。それに、私の大切な友人だ」
きつめの口調で窘められた警備員は、大慌てで剣を下ろし「し、失礼いたしました!」と私にペコリ。そして、今一つ状況把握が出来ていない彼らは、戸惑いながらもフレディ氏とキャロル氏をお縄に掛けたのです。
調子に乗ってわめき散らした相手がルイ様だったなんて、フレディ氏は正に「慢心は身を亡ぼす」ですね。まあ、どういう処分になるかは知りませんが、改心してくれることを祈る迄です。
それにしても、変装を取って威厳を示すルイ様って本当に格好が良かったです。周りで見ていた領民の方々も「ルイ様だ」とか「公爵家の方だ」とか口々に言って、拍手を送っていた人も居たし、領民にとっては本当にヒーローなのですね。
そして、二人が拘束されたのを見て喜んでいる人たちが大勢いました。それは、役人の態度が横柄だったのは私に対してだけではなかったという事を示しています。
ルイ様が「悪いようにはしないので今後の事は任せてくれ」と言われましたので、今後は領民に優しい役場になってくれるでしょう。
私は役場を後にして、一旦現実の世界に戻る事にしました。
◇ ◇ ◇
現実の世界に戻り、将人にゲーム内での出来事を話すと、色々と新たな発見がありました。
マサト(ゲーム内での将人のニックネーム)はとんとん拍子に話を進めていったので、気付かなかったかもしれないのですが、このゲームの世界には日時の観念がなく、その時々の必要に応じて進んでいくのです。
私がこの街に何日か泊っているのに、時間は変化しても日に変わりがないのです。そもそも、カレンダーもありませんしね、日が変わっている事すら分かりません。来るのは朝と夜だけ。例えば、私がこの最初の街『カナディフシティ』に留まってクエストを攻略しないでいると、時間は進んでも日は進まないのですよ。
だから、孤児院の返事の期限って一週間だったのだけれど、そのイベントが何らかの形でクリアされない限り一週間以内のままなんですよね。だって、誰も後何日とか教えてくれなかったのだもの、何処が区切りか判らない、間違いないと思います。
多分ね、イベントをクリアした時に初めて日が進みだすのです。だから、この街で暮らそうと思えば、イベントをクリアしない限り、年を取らずに永遠にここで生活ができるはずです。
そう考えると、マサトの居る日に追いつこうと焦って頑張っても、頑張らなくてもクエストを攻略していればいずれ重なる時が来るのですよ。それさえ分かっていれば、無理をして先に進まずとも、じっくり私を育てながら先に進んでいくことが出来ます。
それともう一つ。マサトの冒険の中には『孤児院』は出てこなかったのです。ルイ様やマリア様のことも「初めて聞いた」って言っていました。同じゲームなのにです。ゲームの結果は兎も角、どういうイベントに遭遇して、最終クエストに至るかははプレイヤーの歩む道によって変化するって事なのですね。だから、今歩んでいる道はマサトが歩んでいる道とは違う道筋ですので、彼の助言が全く役に立たないわけです。『おやすみの笛』の存在も彼は知らなかったですし、うふふ、私独自の世界…この先の展開がもっと楽しみになってきましたよ。
◇ ◇ ◇
再びゲーム内に戻ってきた私ですが、着地地点は役場の前です。勿論セーブをしていたところからのスタートなので、役場から出たばかりの状態です。
さて、次は何をしようかしら。取り敢えずギルドに行って何か依頼でもこなしますか。それとも、シスターマーガレットさんに役場での事を報告にでも行きますか。
どちらにしても同じ方向なので、お気楽に、のんびり歩いていると後ろから「ミドリ様」と飛び留められました。
誰ですか?私を様付けで呼ぶのは…
いつも読んで下さりありがとうございます。
これで第三章は終了です。
第四章開始まで暫くお休みいたします。




