34.なんなのですか一体?
翌朝、ホテルのロビーでルイ様を待っておりました。久しぶりにふかふかのベッドで眠ることが出来たので、心身ともに万全の状態。前回訪問した時と比べて、特に何かネタを仕入れたって訳ではありませんが、今回は後ろで見守ってくれている人がいます。質問作戦でフレディ氏の感じの悪い部分を目一杯引き出すつもりです。
ロビーの真ん中には、流水仕様になった人工池が作られており、中には自然の岩や、苔などを使いながら、見事な清流を演出されています。その中に泳ぐ淡水魚がこりゃまた美しくて、いつまで見ていても飽きが来ない程なのです。
私は美しい流れの中に、尾鰭動かしながら止まる魚たちを、ぼんやりと眺めていると、揺らぐ水面に人影が写りました。
そちらの方に目をやると、白髪で杖を突いたおじいさんが私の真横に立っています。
ルイ様が「お年寄りの姿で行く」って仰ってましたけれど、この方でしょうか?あまりジロジロ見るのは失礼かもしれませんが、ルイ様の様にも見えるし、そうでないようにも見えるし…あぁ、もう、話しかけてくれないかしら…
すると、チラチラ見ているのに気が付いたおじいさんは、私を見て「何かね?」と聞いて来られました。でも、どうしていいのか分かりません。下手に「ルイ様」と言ってしまって別人だと恥ずかしいし…それに、人前で『ルイ様』と呼ぶのもこの場合どうかと思う。ルイ様なら私の名前を読んで下さればいいのに…
目が合った為、ほんの数秒ですがお互いが見つめ合い、妙な沈黙が流れた後、おじいさんは「ちょっと手を見せてみなされ」と言いました。
なんだろうと思い、私が手を差し出すとおじいさんは両手で私の手を握り、手背を撫で出したのです。
「え…?」
い、意味が解りません。手はヨレヨレでもし、これがルイ様の変装なら物凄い技術です。どう見ても年寄の手にしか見えません。もし、ルイ様だと思って引くに引けないでいると、おじいさんは急にふらつき私のかわいい胸にタッチ。
「★△×※〇!」
わ、わざとですね。絶対わざとですよ。
辛うじて声を出さずに、その手を振り払い後ろへ飛びのくと、後ろにも人がいてドンッ!
「きゃあ…」
ぶつかった人にしっかり支えられ、後ろを振り向くと後ろにもおじいさんです…
けれど、支えられた手背はとても張りのある若い皮膚。
「ミドリさん…一体何をしているんだい?」
ミドリさんって言った…この人がルイ様…じゃあ、目の前に居るおじいさんは?私が目の前のおじいさんを怪訝そうに見つめると、そのおじいさんは「かっかっかっ…」と笑いだしました。
「何じゃ、連れが居たのかい。それもわしと同じような年寄じゃないか。娘さん、年寄りが好きなんじゃな。手を差し出すから、わしに気があると思ってしまったぞ、かっかっかっ…」
「な、な、な…」
私の顔が真っ赤になって沸騰寸前です。何を勝手な事を言っているのですか、手を出せって言って私の手を触り、ふらつくフリをして胸を触った。セクハラですよ、セクハラ。
あまりにも腹が立ちすぎてろくに声も出ません。するとその後ろから、知らないおばあさんがやって来て、杖でそのおじいさんの頭をゴンッ!
「エロじじい、何をやっているんだい。全部見ていたよ。ごめんなさいね、お嬢ちゃん…このエロじじいはうちの亭主なんだよ。心からお詫びするよ、後でしっかり罰を与えておくから許しておくれ…ほら、あんた、行くよ!」
セクハラじいさんはおばあさんに耳を摘ままれ、「あいたた」と顔を顰めながら引っ張っていかれました。もぅ、一体何だったのですか?
「ミドリさんは、誰にでも手を触らせるんだね」
その様子を見ていた年寄に扮したルイ様が、ぼそっとそう呟きました。
「ち、ち、ち…ちがいますぅ」
な、何を言っているのですか、ルイ様は…誤解にもほどがあります。私の頭の中は完全にゆだっていますよ。今なら、ゆで卵でも作れそうなくらいです。もう勘弁してください…って、え?何を笑っているのですか?
ルイ様は両腕でお腹を抱えて「ククク…」と必死に笑いを堪えておられました。判っていてそう言いましたね。酷いです。
「すまない。君が慌てる姿があまりにも可笑しかったので、つい、余計な事を口走ってしまった。大丈夫、本気には思っていないさ、機嫌を直しておくれ、飴ちゃんあげようか?」
きーっ、何が飴ちゃんですか!ルイ様は、仲直りをしようとばかりに握手を求めてこられましたが、私は騙されませんよ。ここで握手をするとまた「ほら、誰とでも手を繋ぐだろう?」とでも言うのでしょう?その手には乗りませんからね。
私は思わず、頬をぷくっと膨らまし、そっぽを向いてしまいました。しまった、仕草が子供っぽかったかしら…
しかし、ルイ様はそんな事を一向に気にされず、私の肩を抱きかかえ「さあ、このじじいを役場まで連れて行っておくれ」と言って、ほほ笑まれました。
馴れ馴れしいです。もう、離してください。おじいさんに肩を抱かれても嬉しくありません。
…もう、仕方がないので、手を引いてあげる事にしました。ちくしょー、私としたことが、完全に手のひらで転がされています。
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