2.ギルドへ
驚きました。目の前に現れたのは本当にゲームの中の世界。このゲーム『竜討伐の物語2』を遊んだ事は有りませんが…と言うよりもそもそもゲーム自体あまりしたことがありません。ただ、現実とは違う街並みという事は分かるので、ゲーム内だという実感が沸きます。
ゲームの目的はまだよく判ってはいませんが、わくわくしてきました。
物珍しくてキョロキョロ周りを見渡していると、将人が上から目線で私を見ています。
「きみどり、お上りさんみたいだよな」
ちょっと私より早く始めて色々知っているからって、将人のくせに生意気な事を言ってきます。それに「お上りさん」って死語じゃないの?実際に耳で聞いたのは初めてよ。
そうそう、話は変わりますが、彼は私の事を『きみどり』と呼びます。幼少の頃、彼は私の本名『斉木みどり』を『サイ』と『黄緑』の組み合わせだと思っていたんだって。いくら違うって言っても『きみどり』って呼び続けるので、私の方が根負けしてしまった次第です。こういうところが少し意地悪で、男の子だよねって思うところなんだけど、まあ、それも昔の話。
それよりもこの街並みです、この街の名は『カナディフシティ』と言うそうです。なんて美しいのでしょう。赤い屋根の洋風の建物が多くて、道路もアスファルトではなく石畳みたいな感じで、まるで中世のヨーロッパに来たみたいです。こんなに美しい街並みを目の前にしているのだもの、キョロキョロして当然だと思いますよ。将人はこれを見ても何も思わなかったのかしら?
私が将人の小生意気なセリフを無視して街並みの鑑賞に浸っていると、彼はそんな事には気にも留めずに、私の手と取りどこかへ連れて行こうとします。
ふいに将人を見つめると、随分私と彼とでは風貌が違います。
服装が全然違うじゃないの。一体どういう事?
それに、私のこの格好なに?麻っぽい胸ポケットのついた生成りの被り物の長袖に、同様のズボン、布製の草履。ダサすぎ…それに比べて将人は綺麗な濃紺の服に白いジーンズ。いい服を着ているじゃないの、ズルいわよ。
「こんな格好で人前に出なきゃいけないの?なんで将人だけ良い服を着ているのよ」
「僕は仲間も作って、ある程度の冒険をクリアしているから、お金、あ、ここじゃあ『ピネル』と言うんだけど、依頼をこなして自分で買ったんだよ」
そうです。将人は私と違い、途中のセーブポイントから始めていたのです。だからいい服を着ていたのです…私も服が欲しけりゃ働かないとダメって事ね。
初めてなので仕方がないか。ジロジロ見られているわけでもないし、決めた。最初の目標はその『ピネル』とやらが入ったらかわいい服を買うことにする。
将人に引っ張って行かれたその場所は相当大きな建物で、人の出入りも激しい場所でした。こんな所へ連れてきて何をしようって言うのでしょうか?
「ここは?」
「ギルドさ、まあ、人材派遣センターみたいなものだよ。ここで職を決めて、冒険者登録をするんだよ」
「無職で登録もしなければどうなるの?」
「へ?これからこのゲームを始めようっていう人のセリフには思えないけど…何も起こらないだけだよ。何も始まらないし、何も起こらない。料理人の居ない食堂で料理が出るのをじっと待っているようなものだよ。他の言い方をすると、ガソリンの入っていない車が動き出すのを待っている状態、もっと他の言い方をすると材料のない…」
「わかった、わかった。一体いつまで続ける気?最初の料理人の話だけで十分だわ。登録したくないっていう訳ではないし、ちょっと聞いてみただけだから」
ゲームをやるうえで登録が必要な事くらい分かっていますよ。登録しなければ何かイベントが起こったりしないか、ちょっと聞いてみただけじゃないの。
あまりにもしつこく言うものだから、思わず両手で将人の口を塞いでしまいました。彼もいきなり口を防がれたものだからびっくりして、少し照れているようです。
やりすぎたかしら…
「ところで将人はなんて登録しているの?それと、職業は何?料理人とか、看護師さんとか教師とかあるの?」
「え?本当に何も知らないんだね。一応、このゲームはモンスターとか魔族を討伐するゲームだから、職業と言うのはいわゆる『魔法使い』とか『戦士』とかっていう部類になるんだよ。言い方は違うけどね」
少し呆れられましたが、これから覚えていけばいいじゃないですか、ねぇ。
このゲームではどうやら悪者を倒すことが目的の様です。少し不安もありますが、魔法とかあるのですね…楽しみ。
「僕はカタカナで『マサト』と登録しているんだよ。職業は『ハーミットソルジャー』いわゆる戦士の上位職だよ」
「へえ、それじゃあ私もあなたの事を『マサト』と言っていいのね。それと、なに?上位職って。凄そうじゃない。…なんだかズルくない?」
「まあまあ、こんな所で話していないで、ギルドに行こうよ」
という訳で、早速ギルドに向かう事にしました。ギルドに入るとマサトに言われた通りに、指定された受付の場所に並びました。何故ここを選んだかを聞くとよく知っている受付嬢がいるんですって。
対応をしてくれた受付嬢さんは眼鏡をかけた若い女性でした。名前はマサトから聞いていました。『マリーさん』って言うのだそうです。
「あら、初めて見る方ね。登録しに来たの?胸ポケットに入っている個人カードをだしてくれる?」
本日2話目の投稿です。(プロローグ除く)
宜しくお願いします。