27.マリア様
カッポカッポと馬車の中で揺られていると、色々な事を考えてしまいます。
安易に、孤児院へ連れていくって言っても、淑女のマリアさんから見たら相当汚い場所だと思います。入口に着いただけで、そのまま180度反転して帰られるということもあるやもしれません。
そもそも、孤児院を見たいなんてどうなのだろう。単なる興味本位かしら?高貴な方の考えはよく解りません。
チラッと目が合うと、マリアさんは微笑んでくれますが、隣に座っておられる侍女の方はどうなのでしょうか?実は付き合わされて嫌がっているとか…
うん、ポーカーフェイス。全く表情が読めない方ですね。マリアさん以上に何を考えておられるのか解らないです。もしかして…怒ってらっしゃる?
どんどん心配になってきました。子供たちが私の時みたいに、マリアさんに抱きついたりでもしたら、どうしよう。「汚らわしい」とか言われて、侍女さんに払い除けられでもしたら子供も可哀そうだし…
話すことでストレス解消じゃなくて、ますます増大してしまった気がします。
こうなったら、私が見た孤児院の良い所をいっぱい話しちゃいましょう。こうと決めたら直ぐに実行するところが私の良い所です。私は身振り手振りを加えながら、あんな事やこんな事をこめかみから汗が流れ落ちる程沢山話しました。
マリアさんが突然「暑いのですか?」と問われました。いえ、このだらだら流れ出るのは冷や汗ですよ。
「大丈夫です」と言いましたが、マリアさんはサッと絹の美しい手拭いを差し出されました。
ひえぇ、こんな美しいもの借りるわけにはいきません。私は自分の手拭いを…うわぁ…
出そうとすると、ライタの顔を冷やした時のままでびっしょり濡れていました。乾かすの忘れてた…とても使う気になれません…すみません。お借りいたします…今日の私ってダメダメです…
不安を抱えながらも、馬車は止まることなく孤児院についてしまいました。子供たちがマリアさんに飛びつこうとしたら、全力で止めなくちゃ…
馬車の扉が開くと、やはり目の前には子供たちが集まっています。そりゃそうですよね。豪華な馬車が止まっているのだもの、珍しいわよね。見に来るわよね。当然だよね。
近寄る子供たちを、さりげなく制止しようとした時です。
「マリア様いらっしゃい。ご機嫌いかがでした?」と子供たちが口々にそう言ったのです。
へ?マリア様?お知合いですか?
やきもきしながら、動揺の隠せない私のとなりに来られたのは、シスターマーガレットさん。なんと、マリアさんの前で片膝をつき、頭を下げられたのです。
「これはこれはマリア様、ご機嫌いかがでしょうか。今日はどういった御用件で突然のご訪問を?」
「え?あの?その…ま、マリア…様?」
え?マーガレットさんもマリアさんの事を知っておられるのですか?
「はい。この『カナディフシティ』の領主様で、セント・ライトランド公爵家のご令嬢でマリア様です。ここにある本を寄贈して下さったのもマリア様なのです」
ええぇぇ!もっと早く言ってくださいよ、領主様の悪口いっぱい言っちゃったじゃないですか。気まずすぎますよ。
緊張のあまり、ロボットのような関節の動きになっている私は、首をギシギシ言わせながら恐る恐るマリア様の方を見ました。
「あ…あの…知らぬこととは言え、た、大変失礼な事を…さんざん申し上げまして…」
もう、しどろもどろです。だめだ、私、死刑かもしれない。侍女の方がポーカーフェイスだったのは、好き放題言う私に憤慨していたからだわ。まだまだゲームは序盤だけど、楽しかったです。皆さま、さようなら…
私がしゃがんでお祈りをささげる様に、十字を切り、手を組み、天を仰ぐと、マリア様もしゃがみ込み、私と同じ視線の高さに合わされました。
「ミドリ様。孤児院の為に尽力を尽くして下さり誠にありがとうございます。それと、領主の娘でありながら、そのような事態になっている事に気付けず、申し訳ありませんでした」そう言って頭を下げられたのです。
「へ?私、死刑じゃないのですか?」
あんなに言いたい放題、好きな事を言ったのに?お礼を言われた?私の目は点ですよ。
「何を仰っているのですか?死刑だなんて…うふふ。生の声を聞くことが出来て、本当によかったです。聞いたことをそのまま鵜呑みにする事は出来ませんが、内密に調査をさせて頂きます」
そう言って突然私の手を取られました。『ママブレッド』に居た時と同じです、真っ白く美しい手です。手を取られ、ブルーの瞳で見つめられると私はもう、俎板の鯉、猫に睨まれたネズミ状態です。全身の力を吸い取られたように、「は、はい」としか言えなくなってしまいました。
この後、どう展開していったら良いのでしょうか?私の頭はパニックを起こしています。
「マーガレット、あなたにも辛い思いをさせてごめんなさい。私に恥をかかせまいと、我慢していたのね…」
「マリア様、おやめください…」
マリア様に謝罪をされ、シスターマーガレットさんが困惑している時です、
「大変だ、リンがどっか行ってしまったんだ」
息を切らしたライタが、大慌てで駆け寄ってきたのです。
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