19.トゥルーエメラルド
マリーさんに引きずられる様に連れていかれた場所は、ギルドの応接室。「ちょっと、ここで待っていてね」と言われクッション性の良いソファーに腰を掛けていると、彼女は一人のキザっぽい男性を連れて戻ってきました。
「あんら、可愛いお嬢さん。ボンジュール」
「へ?ぼ、ぼんじゅーる…」
頭に…ポマード?(っていうものかしら)をコテコテに塗りたくり、鎖の付いた上品な丸眼鏡を片手でちょいと持ち上げたその男性。ギルドには似つかわしくない上品なスーツを着用した細身の彼は、『ケイン』と言う名の宝石商の鑑定士さんでした。
依頼で集められた宝石類は、本物かどうかと、その質を鑑定してもらうために、週に何度かギルドに来て貰っているそうなのです。今日が丁度その日だったので、マリーさんが気を利かせて彼を呼んでくれたのです。
「ふむふむ、これがマリーちゃんの言っていた『深緑色の石』ね」
女言葉を使うケインさんは懐からルーペを取り出し、光に翳したり影を作ったりして、石をクルクル回しながらじっくり眺めていました。
「うん、これは良い『トゥルーエメラルド』ね。僅かに動く中心の毒が、更にこの石の価値を上げているわね。価値とすれば10万ピネルってとこかしらね」
なんですって!10万ピネルですって!そんなに価値のある石なの?騙されているんじゃないですよね?夢じゃないですよね?
私は自分の頬を両手て引き伸ばしてみました。びろーん…痛みありです。
「変な顔をして、何をしているのですか…」
マリーさんが呆れた顔で私を見ています。しまった、動揺してヘン顔を見せてしまいました。
ケインさんによると『トゥルーエメラルド』は宝石のエメラルドとは違うものですが、『がらがら』が体内で育てた?と言うより勝手にできた石で、人間で言うと胆石みたいな物なのです。長い年月をかけ『がらがら』の体内で、あの恐ろしい毒が蓄積され石になっていくのです。通常の大きさは2センチくらいが多いそうなので、私の持ってきた10センチは相当大きなものなのです。
年月によって大きくなり、毒も濃縮されます。濃縮された毒が濃いもの程、緑色は深くなり価値が高くなります。さらに年月が経つと石の中心部の毒が融解し、その部分が微妙に揺れ、石を動かした際にその都度違った顔を見せてくれるそうです。そう言う石はまれなので非常に高価なのだとか。
毒に関しては長い年月を経てるので、すっかり抜けているそうです。つまり、毒性は無し。因みに私が持ち込んだ石の推定年齢は百歳ですって。
「お嬢ちゃんが良ければ10万ピネルで買い取るけど、ギルドの依頼に有ればそちらでもいいわよ。手元に置いておきたいならそれでもいいしね。でも、ギルドの依頼は『トゥルーエメラルド』の質に指定がないから依頼料が安くて損だわよ。手元に持っていても、こう言う石は加工して初めて価値が出てくるから、何もしなけりゃ宝の持ち腐れだわね」
ケインさんは丁寧に教えてくれました。ギルドに関わる業者さんは信用が第一なので、相手が素人でも誠実に対応するそうです。それを知っているからマリーさんはケインさんを紹介してくれたのですね。有難うございます。
マリーさんも本当なら依頼にした方が、ギルドの評価が上がるのを分かっていても、敢えてそうしない所に誠実さを感じました。マサトがお勧めしてくれた理由が分かりましたよ。
「マリーさん、有難うございます。ギルドには申し訳ないですけれど、ケインさんに買って貰おうと思います。そのお礼にたーっぷり『いたずらネズミ』を討伐してきますね」
私がそう言うと、マリーさんは興奮気味に「そうと決まれば!」と言って一枚のカードを出してきました。
「ミドリちゃん、大金を持ち歩いてもろくな事がないわよ。はい、これはCCギルド銀行のキャッシュカード、ここに入れておきなさいね」
マリーさんに言われるがまま、そのカードの上に個人カードを置き、更に手をかざすとキャッシュカードに私の名前が浮かび上がりました。
今後の依頼料はここに振り込まれるから便利よね、と言われ、今持っているお金も必要最低限にして、貯金しておいた方が絶対安全よねと、言われ、更に僅かだけど利息も付くからお得ねとまで…まんまと預金させられてしまいました。
流石はマリーさんただでは転びませんね。
ケインさんに石を渡すと「確かに受け取ったわ」と言って、数字の書かれた小切手のようなものを切られ、マリーさんに手渡しました。マリーさんがその紙をキャッシュカードに重ねると、書かれていた数字がカードに吸い込まれる様に消えていきました。
「これで10万ピネルは入金されたわ。はい、これに手を翳してみて」
キャッシュカードを受け取りそれに手を翳すと、目の前に『102,700』と言う数字が浮かんできました。
「数字が浮かび上がりましたけど」
「それがミドリちゃんの預金額よ。お店によってはそのカードで買い物もできるから失くさないようにね」
「これで取引はお終い」とマリーさんが席を立つと、ケインさんも「また何かいいものが手に入ったら教えて頂戴ね」と手を振りながら応接室を後にした。
うふふ、思わぬところで大金が入りました。次はネズミ駆除です。やる気が出てきました。
でもその前に…一旦現実の世界に戻ります。
いつも読んで下さりありがとうございます。




