16.がらがら
「随分、森の深い所まで来たわよ。そろそろこの辺りに生えていないかしら」
森の深い所なのでうっそうとしてはいますが、決して光が当たらないわけではありません。木漏れ日が緑の鮮やかさを引き立てています。美しさに目を奪われながら辺りを見渡すと、大きな大木の枝に弦が絡んでいます。それを目で追って行くとその先に手裏剣の様な六角形の紫の花。
「あ、ライタあれを見て。あれは『トピカカズラ』って言う、つる性の木よ。ガイドブックによるとあの木の近くに『トピカハッカ』は生えているの。この辺りを探してみましょう」
きっと、この辺りで見つかるはず。私たちは草叢を掻き分け始めました。
「あ、ミドリ姉ちゃんあったよ。きっとこれだよね」
ライタは賢いです。見つけた草をちゃんと根から掘り起こして持ってきたのです。
ライタが持ってきた草の葉は紫蘇色で、クローバーに近いような形で縮れていました。念のためにガイドブックの写真と照らし合わせるとそっくりです。
「うん。これに間違いないよ。ライタでかした」
私が握り拳を作って誉めると、彼は大喜びで再び草叢を掻き分け始めました。私も負けていられません。
2人で必死に探してようやく20株採取できました。これを持ち帰って垣根の周りに植えていくわけですが、上手く根付いてくれる事を祈るだけです。
それにしても、私たち汗と土でどろどろです。安易に森に入り込んだのが失敗でした。飲み物もないし、水に濡らしたタオルもない。もう少し考えてから行動を起こすべきでした。
「ねえ、ユキちゃん。この辺りで小川か何かないかしら…」
ユキちゃんにそう尋ねると、ユキちゃんはナップザックから飛び出し、キイキイ鳴きながら草叢を歩き出しました。時折振り向いて私たちを気にしてくれます。
あ、きっと案内してくれるんだ。ユキちゃんって万能ですね。
ユキちゃんについていくとありました。とても綺麗な清流です。水底が透き通る透明度で水石に当たって出る潺が、疲れた身体に爽快感を与えてくれます。
私たちは水辺に行き、そっと水を掬って口に運びました。冷たくておいしい。カラカラに乾いた細胞の中に、水分が染み込んでいくようです。
喉を潤した後、疲れた足を水に着けました。冷たくて気持ちが良い。スーッと足の疲れが取れていきます。ライタも気持ちよさそうに水の中で、ゆっくり足を動かしていました。
暫く水に足をつけて身体を休めているとユキちゃんが突然「キー」と大きく鳴き、ナップザックの中に飛びこみました。これは何らかの危険信号です。
「いたい!」
ライタがそう叫んで、勢いよく水から足を上げました。すると傍には蛇が蠢いていたのです。私は錫杖で蛇をたたくと、十センチ程の深緑色の石と20ピネルを残して蛇は消滅しました。どうやら蛇のモンスターだったようです。
20ピネルも手に入ったよ。結構お金になる蛇だったのですね。ライタは大丈夫かな。
「ライタ、蛇やっつけたよ。大丈夫?」
ライタの方へ眼をやると、涙目を浮かべ顔を真っ赤にして足を抱え、呼吸も荒くなっていました。噛まれたところは右の脹脛、その場所から大腿にかけて恐ろしい速さで紫色に変色していっています。
これはただ事ではない。
急いで手拭いを水で濡らし噛まれた右の脹脛を冷やしてから、ガイドブックを開きました。
がらがら 猛毒を持つ蛇モンスター
人を襲う事はまれだが臆病なので不意に出くわした時には危険
身体は小さいが毒性は強く、噛まれると約20分で死に至る
20分でライタが死ぬ…
どうすればいいの…薬草も毒消し草も持っていない。森を甘く見ていた…
が、ガイドブック…毒消し草は載っていないのか…違う、20分しかないのにそんなの探している場合じゃない。
今から抱きかかえて帰っても1時間はかかる…それまでにライタは死んじゃう。私のせいだ。私がライタを連れてきたから…
どうしたらいいの…
ライタの身体はみるみる紫に変わっていきます。ガタガタ震え、呼吸も早くて荒い…
「ライタ、ライタ!」
声を掛けましたが瞼を閉じ、意識も混濁してきているのか返事もありません。
どうしていいか判らない。泣いている場合じゃないのに涙が溢れてくる。
こんな時魔法でも使えれば…
ま、魔法…
私は急いでガイドブックをめくりました。プリーステスが使える魔法のページを見つめ、祈る気持ちでナップザックから水晶玉を取り出しました。
お願いします…
ステータスが現れ、習得ポイントを確認すると15ポイントたまっていました。
魔法を獲得できる
私はすぐさまポイントを使い解毒魔法である『カウンテラクション』と、回復魔法である『ヒール』を獲得しました。
お願い、上手くいって…
「『解毒』」
私はそう言って錫杖でライタにそっと触れました。
ライタの身体が白い光で包まれたかと思うと、侵食していた紫色が徐々に元の血色の良い肌に戻っていきます。
だが、まだライタの意識は戻りません。毒と戦うために相当体力を消耗したのです。
「『回復』」
そう言って再び錫杖でライタにそっと触れると、今度は緑色の優しい光が彼を包みこみました。
ライタは瞼を閉じたまま苦悶の表情を解き、フーッとため息をつきました。
助かった…の?
私からあふれ出る涙は、留まる事を知りませんでした。
いつも読んで下さりありがとうございます。




