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春の面影、夏の面影

作者: なと


シャボン玉を飛ばす少女が蔵屋敷の二階から

よく見たら少女のマネキン

そこの床屋さんはやっているようですよ

干された洗濯物が風に靡いて

刻の止まった時間を過ごす

遠雷の夢を見る春先に

何故か懐かしい恩師の面影

恋は罪なのですよ

盲目に囚われるなかれ

台所のシンクタンクの

水たまりに青いインク

夢遊病、別名夢見病

若い子が陥りやすい病気で

年寄は

懐古病、古町病とか

薬の匂いのする病院で

桜が散るのを見ました

人生は儚いものです

何故、古い世に憧れてしまうんでしょう

産まれた時代を間違えた

哀れな小鬼とは

誰の事でしょうか

春は来て

風はまだ冷たく

田園の上を

滑るように舞っています







夏の宿場町には

想い出人形が

昔の商家のショーケースに並ぶ

影があってマネキンも妖しい雰囲気

時折、夜出歩いて屋根の上なんかを

歩いているんだそうだ

さるぼぼが布団の中に潜り込んできて

青空が怖いんですと泣き言を

夏の空に娘の形見

ここは宿場町

鄙びた古町に吹く風は

何処から来るのだろう





赤子の鳴き声

女の悲鳴は

熱帯夜の閻魔堂

タケヤブヤケタ

謎の回文謎の怪人

古町に跋扈するチオビタの世界征服

雨がすべてを洗い流し

踏まれて腐った椿の匂いが

夜の道端で薫ってる

いつまでも子供で居たいけど

過去を持つ人間は皆怪人

海の磯の貝はのそりと人間の棲み処で

悪さを






懐かしい風景に

温かな木漏れ日みたいな

それは呪いの様に

いつまでも耳に海鳴りの音

幽かなため息は

夏の余韻

夢の中でも踊っていて

起きて見たら

丑の刻

いつまでも子供みたいに

母の温もりが忘れられない

胎内回帰

汗の匂いと真っ白なシャツに

しゃぼんの薫りが

蛇口には

水母が絡みついている






夏の面影

夏の面影は

儚くて少し妖しい

あの電柱の影に居たのは誰だろう

入道雲が朱く朱く染まる頃

夜の灯りは熱帯夜の夜、虫達の賛歌

蚊に刺された跡を

黒い影が覆ってゆく

只、子供みたいに

自由に走り回りたい

なんて、遠い日の面影ばかり追ってしまうんです

宿場町の片隅に

向日葵を堕とす遊び






座敷の上で水母が正座して

味噌汁を食べてゐる

まるで母上のよう

僕を叱る水母は

海のカレンダーを見せたら

お風呂場のたらいの中で

溶けて消えてしまった

仏壇の阿弥陀様が

其れを見て笑ってゐる

春がもうすぐ来る

風はつむじ曲がりで

旅人のコートの中で

びょうびょうと

雨はまだ軒の下で眠っている







廊下に祖母の舌べろが

もの言いたげに落ちている

宿場町の押し入れの中で

夕べ小鬼と花札をした

小鬼はなんだか赤くなったり青くなったり

信号機みたいに怒りながら

僕をあの世のお堂へ連れて行った

道端にさかさまに祀られた

地蔵菩薩がいる

彼岸花も雨の中赤くぼんやり光っていた

此処は不思議な処







夜の信号は呼んでいる

だからあんなぴかぴか光っている

夕暮れは問いかける

あなたはそのままでいいのかと

なぜか右手を開いたり閉じたりして

世界の終わりにはなにもいらないのだと

大勢の人が櫻へ詰め寄り

あなたはなぜこんなに

綺麗なのに死臭がするのか

それは過去からの呼び声

サイレントヴォイス






さあ帰ろうみちよちゃん

土管の横でみゃあとなく黒猫を置いて

夕陽はいつも帰り道を優しく照らして

夜間飛行の遊覧船を布団の中で楽しみにしている

かっちゃんは鉱石ラジオを

台所でネギを切るトントンという音が

毛布だらけの座敷に童の妖怪が

御御御付にヒトデを入れておいたからと

ひそひそ声で






ピカピカに磨いた仏像が光る午後三時

居間では過去へ戻るスイッチを探す兄が

仏間では線香の薫りで舞い踊る母が居て

私は庭の満開の桜の下で家族を埋める

宿場町の緑は太陽をだまして

夕陽はお台所で水に浮かんでいる

糸電話で会話するいとこは

四六時中妖怪の話ばかり

此処は可笑しなところなのです







春が来て果てしない夢を見る

閉じ込められた座敷牢の中

西日にビー玉が光っている

包帯は血に汚れ

其れは春の呼び声か

いつまでも太陽は沈まず

夕陽は地平線を漂い

夜は丑三つ時で居間のボンボン時計は止まる

此処は常世の世界なのよ

お多福のお面をつけた

姉様が母上が家族そろって

仏間で踊っている






軒下に夢一つ

古びた万華鏡が堕ちている

此処は昔子供が棲んでいた処

虫眼鏡を覗いてみると

巨大な眼玉が此方を見ている

あれ?昨日廊下には

牛の目玉が落ちていた

理科の実験で使うんだと

家の父親はちょっとイカレタ先生

なぜか背中に磯巾着をくっつけている

台所の蛇口からは

牛鬼の悲鳴が聞こえる








山奥の古里には

毎年狐面をしている少年が神社に現れる

もういいかい

まあだだよ

隠れんぼをすると

必ず一人神隠しに逢う

誰が呼んだか

櫻が呼んだのさ

狐の子は面を外すとにっこりと笑い

燃えさかる鬼の肩にのって

櫻の木の裏へ消えてしまう

神隠しに逢った子は

祭りの日

神社で見つかるという








シャボン玉を飛ばす少女が蔵屋敷の二階から

よく見たら少女のマネキン

そこの床屋さんはやっているようですよ

干された洗濯物が風に靡いて

刻の止まった時間を過ごす

遠雷の夢を見る春先に

何故か懐かしい恩師の面影

恋は罪なのですよ

盲目に囚われるなかれ

台所のシンクタンクの

水たまりに青いインク






古き町には

がちゃがちゃの壊れた台が置いてあって

中にはまだ綺羅と光る宝物が這入っている

此処は不思議な場所

老人が青年に若返って行く

宿屋の二階から美しい娘が

血に染まった包帯を垂らし

風になびいている

何処までも過去を遡りましょう

あの部屋では

酒の瓶が転がっていて

ずっと夢を見ている






古町通りに透き通った幽霊が通る

家の中の廊下には

役目を終えた祖母の舌べろが落ちている

仏壇の前には

なぜかお坊様が立っていて

六文銭を寄越せと

死人みたいなことを言う

蔵の中の燃えさかる大鬼は

近所の娘を捕まえると

山へ去っていった

此処はどうやら忌まわしい

宿場町のいびきが通りに木霊す






夢の終わりは宿場町の通り雨

古町は静かに刻を重ねる

想い出通りにはひょっこり鬼の子が

満開の桜の枝を胸に

びょうびょう風が吹きます

それをすっぽり旅人がコートに隠します

旅人のコートの中には過去があって

誰かの魂が抜け出て電柱に絡まってる

魂を触ってすっかり青ざめた右手は

春を待っている





蔵の中に赤く燃えさかる大鬼が眠っている

武者姿の髑髏が仏壇の傍に立っていて

平家の末裔の僕の家に

線香をあげに来る耳なし芳一の幽霊

庭の隅草葉の影で応援してる

小野小町の哀れな老いた姿

隣近所でお歯黒べったりが

鬼火と世間話をしている

哀しい風が吹いて

幽霊列車が隣の席の娘を連れてゆく






古き町には古き妖怪が棲む

眠っていると長い舌で

べろべろと僕の頬を舐める赤なめ

枕返しが枕の下に

エロ本を挟み込んでゆく

朝になれば

アメフラシが池ですいすい泳いで

宿場町は賑やかです

過去に囚われた僕は

古本ばかり集め

着物姿で闊歩する

空は何処までも澄んでいて

入道雲はお坊様を呼ぶ夏の頃







古き町に何処からかシャボン玉

木陰には猩猩の赤い眼がらんらんと輝いて

嗚呼此処も呪われている

何故逃げない

懐かしさに取り憑かれた人間

逆さまに廻る懐中時計を胸にしまい込み

僕はきっと長生きできない

過去に恋をしているからね

家族が段々と鬼籍に入り

僕も生きるのが疲れてしまった

哀しい物語






その家では

よく仏壇のある部屋から

御経のようなものが聞こえて

居間で眠っていると大勢の人の話し声と

目覚めて見れば玄関の外に

喪服の人々

幼い頃に家族を亡くしてから

妙な物を見るようになった

腕にはうっすら掌の痣

壁には見知らぬ電話番号のメモ

じりりと物置小屋の黒電話が

鬼やらいの出番だ


古き町には古き妖怪が棲む

眠っていると長い舌で

べろべろと僕の頬を舐める赤なめ

枕返しが枕の下に

エロ本を挟み込んでゆく

朝になれば

アメフラシが池ですいすい泳いで

宿場町は賑やかです

過去に囚われた僕は

古本ばかり集め

着物姿で闊歩する

空は何処までも澄んでいて

入道雲はお坊様を呼ぶ夏の頃

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