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Pain of four Seasons   作者: yuki.
7/26

#7_台風の眼

#

「待ってヤダ聞いてないそんなの…!!」


 先にドリンクのオーダーを済ませ、食べたいものを選ぼうとしている私とアキの前でうなだれるこの人は、1杯目のグラスが届く前から酔ってるのかな。


「大丈夫ですって夏月さん、私にも何もないですから。」


 何が大丈夫なのかは分からないけど、それよりも私はお腹がペコペコで。メニューから目を逸らさずにそう言うと、メニュー越しでも分かるくらい、夏月さんの視線を感じた。


「なんでよ、ハルちゃんは彼氏いるじゃんか…。」


 ありゃ、何もフォローにもならなかったみたい。先月、みんなで飲んでいるときに出会った二人の男の子のどちらからもアプローチが無かったことが相当ダメージだったらしい夏月さん。大学のときから仲の良かったアキの友達らしい、楽しくて可愛い人だ。


「ねぇナツさん、私割と真面目に相談してるんだけど。」


 笑いながらそうナツさんにツッコむアキは、クールに見えて意外と乙女なのに、その見た目からか昔から男女問わず誤解されやすい。

 でも大人になってかなり上手く立ち回れるようになったと思う。そんなことは、いちいち本人に言わないけれど。


「なんで~?付き合えばいいじゃん。」


 この中で言えば、私が一番冷めてるんじゃないかな。いや、この中じゃなくても、私は人間関係も含めて物事に波風を立てるのが好きじゃないだけかもしれない。ややこしいことに巻き込まれるのは苦手だ。


 “普通が一番”


 何事も一般的に、普通に、ある程度みんなと同じでいられたらそれでいいんだけどなぁ。


「…なんで付き合うの?」

「え、なんで付き合わないの?」


 だからと言って、私が何も意見しないタイプだというわけでもない。特にアキは仲のいい友達だし、“普通”に幸せになってほしいと思う。友達として。


「付き合うメリットがないもん、別に。」

「付き合わないメリットもなくない?それに、付き合ってみないとどんな人か分からなくない?」

「そうだけど…。」

「いいじゃん、一回付き合ってみれば。年下男子がアキにとって新たな自分を発見することになるかもじゃん。」


「…いいなぁその悩み。」


 そろそろ、また面白がってる…!とアキに怒られそうだなぁと思ったところで、前でうなだれながら聞いていた夏月さんが半泣きでこちらを見上げてくる。


「…もうコレ全部食べていい?」


 きれいに6等分されてたはずのマルゲリータの1ピースと、取り分けたあと放置されドレッシングが染み込んだシーザーサラダ。夏月さんはその遠慮のカタマリたちを指差し、笑顔で「ついでになんか頼む?」とワインボトルのメニューを取り出した。


#

「そういえば、冬優ちゃんは今日なんの用事だったんだろうね。」


 夏月さんが追加で頼んだボロネーゼを器用にくるくるとフォークに巻きつけながらそんなことを呟く。

 私が菊池くんと会った日にグループラインで、急遽集まれる日いつ!?と騒いだ夏月さんの提案で最短で集まることになった今日の、今から4時間ほど前に冬優ちゃんから〈用事があったのを忘れてました!〉と謝罪の連絡があった。

 私たちが顔を見合わせた様子を見て、ハテナを思い浮かべている夏月さんに、お寿司屋さんで出た話題を説明する。


「うーん、個人的に冬優ちゃんと連絡取らないしなぁ。でも実際のところどんな恋愛するタイプか謎だよね。」


 でも仮に葉山さんが悪い男だったとして、騙されたりするかなぁ?と首と傾げる夏月さんは、冬優ちゃんと葉山さんの関係性にあまりピンときてはいないようだった。たしかに夏月さんはこの2人に一番遠い立ち位置ではある。


「そういえばアキ、菊池さんは何も言ってなかったの?」


 意外と心配性なアキのことだから、菊池さんと会ったときに何か話したんじゃないかとふと思った。あのアキの誕生日祝いで葉山さんのことを聞いたものの、私からは特にその件について冬優ちゃんに連絡はしていない。ほら、こういうところが私は冷めてるんだよなぁ、多分。


「あ~…。一応それとなく探ってみようと思ったんだけど。」


 アキが何かを話そうとして、一瞬考え込む。やっぱりその話題を探ろうとしたんだ。ほんとアキは、不器用だけど優しいと思う。


「葉山さんってどんな人?って聞いたら、『俺よりアイツのほうがタイプですか?』ってうるさくなっちゃって…。そうじゃなくて、って言っても質問攻めすごくて。でも理由を説明するわけにもいかなくてさ。」


 菊池くんのその感じ、すごく想像できる。いいと思うけどなぁ、菊池くん。アキが初対面から素を出せてるのも、初めて見たし。


「ねぇいい加減にして?なんでこのタイミングで自分の惚気ぶっこんで来るの?」


「絶対そう言うと思った!てか別に惚気じゃないじゃんん…!!」


 とアキが考え込んだ時間に比例して一瞬でいつもの2人のやり取りが始まったこの頃には、私たちのテーブルには空になったワインボトルが既に2本置かれていた。


 アキが元カレと今も会っていることは、夏月さんは知らないらしい。わざわざ言うほどではないからと言うけど、昔からアキは自分のことをどこまで話すのか、相手が自分をどこまで受け入れてくれるのかを考えて選んでしまう癖がある。

 だからこそ、初対面からアキのそういう弱さを見抜いた菊池くんと合うと思うんだけどなぁ。


「とにかく!大した情報は菊池くんから得られてないけど。菊池くんもそんなに知らないんだって。」


 菊池さんはあの日、たまたま葉山さんの営業先に同行したあと直帰することになり、どうしてもと頼み込んで飲みに付き合ってもらったと話していたらしい。

 そして葉山さんが普段仕事終わりに誰かと食事したり、飲みに行っているのもあまり見たことがない、と――。


#

 その頃――。


 27歳が通っているとは思えない雰囲気のバーのソファ席で、わざわざ横に並ぶ男と女。


「…冬優ちゃん、なんか遠くない?」


 女が、女に言えない恋愛がはじまるとき、そこに在る原因は羞恥心か、卑しさか、見栄か。

 はたまた、女友達だと呼べない程度の友情か――。

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