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Pain of four Seasons   作者: yuki.
2/26

#2_台風発生

#

「昨日の夜さ、お風呂入っててふと思ったんだけど。」


 小春さんと初めて二人で食事に出かけた夏の終わり、四季の名前を持つ4人の女たちが集まるようになって、今日のこの集まりが3回目。


「ボディスクラブしてる時間って虚しくなんない?急に。」


 べつに誰かに見せる予定もないのにさ、と口を尖らせてジョッキに入ったハイボールのレモンをグサグサと潰す。

 昨夜、ボディスクラブで肌を磨いたであろう夏月さんが話を拾って欲しそうにわざとらしく顔を覗き込んでくる。


「すみませーん、オススメの白ワインあります?」


 私が「分かります、」と夏月さんの話を聞こうとすると、それを知ってか知らずか、私以外の2人に声をかけるまでもなく、店員に白ワインの相談をするのは秋桜さん。


「あ・き・お・ちゃん?」


 名前を呼ぶ声に、聞けよと言わんばかりの圧をかけ、夏月さんが秋桜さんの持つワインメニューを裏からピンッ!とデコピンする。


「スクラブをサボり続けた数週間後に、カサカサになった肌を触るほうが虚しくなる。」


 ワインメニューをパタンと上品に閉じ、秋桜さんがぐうの音も出ない一言を発すると、夏月さんは「冬優ちゃ~ん!」と左腕にしがみついて泣き真似をする。

 その様子を見ながら小春さんはクスクスと笑いながら、去りかけた店員に「あ、グラスは3つで大丈夫です。お願いしまーす。」と付け加えた。


「でも分かる、化粧も毎日なんのためにしてんだろって思うよね~。」


 夏月さんをフォローするように小春さんが話を振ると、夏月さんは話が広がったことに目を輝かせた。


「ね!?思うよね!?なんか潤いが欲しい!日常にツヤが欲しい!!」


 そう言うと、秋桜さんがふと何かを思い出したような顔をする。


「ナツさんには藤木さんが居るじゃん。」


 会社の同期だった二人だけど、大学のときにアメリカ留学をしていた夏月さんは秋桜さんと小春さんより一つ年上なのだという。

 タメ口なのにお互いを「ナツさん」「アキちゃん」と呼び合う関係性に、3回目の今日でやっと慣れてきた。


「ねぇ、やめて?藤木さんをそんな軽い感じで扱わないで。」


 藤木さんという人は、夏月さんの会社の上司で「イケてるおじさま(既婚者)」らしい。

 カッコ既婚者、とカギカッコを強調しておちゃらけてみせる秋桜さん。


「藤木さんは癒しなの。何かを求めていい人じゃないの!」


 その人は転職する前の秋桜さんの上司でもあったそうだ。秋桜さんがそんなに言うほどかなぁとつぶやきながら、3人のワイングラスをカチッと合わせた乾杯の音が小さく響く。


「潤いって考えると、もう年下の男の子のほうが良くない?」


 また唐突に話を進めようとする夏月さんが、今度は斜め前の小春さんに圧をかけ始めた。

 え?と照れて笑う小春さんに、「年下彼氏くんの周りにお姉さん好きな人いないか聞いてよ~!」とまくし立てている。

 小春さんの彼氏はたしか6個下だって言っていたから、26歳か…。20代半ばと聞くと、この中で一応一番年下である私も若いなぁと感じる年齢だ。


「分かりました!聞いておきますから!!」


 困り果てた小春さんが、年下男子を紹介しろとうるさい夏月さんに根負けした瞬間だった。


#

「楽しそうなところすみません、」


 全員が一瞬にして、やばい!騒ぎすぎた!と子どもがイタズラをして叱られる直前を感じ取ったのと同じような反応をして固まる。恐る恐る声の方へ全員が顔を向けると、そこにはちょうど夏月さんが求めている年齢に近そうな男性が2人。


「えっ。すみません、そんなビックリさせてしまいましたか?」


 明るい茶髪の男性が急にお喋りをやめた私たちに申し訳なさそうにそう言うと、


「年下の男の子~!!って言ってる綺麗なお姉さんたちがいらっしゃったので、つい。」


 声掛けちゃいました、と屈託のない笑顔で言った。


「…ナンパじゃん。」


 夏月さんが声を上げて笑う。


「え、そこ笑うとこっすか!?」


 ナンパは笑ったら負けだよ~と持論を話す秋桜さんに諭された夏月さんが、何故か追加でワインを頼まされている。

 今からの分は僕らが払いますよ!と笑う男の子二人に、夏月さんが偶然テレビに出ていたアイドルに夢中になってしまった人のように目をハートにさせている。


 話しかけてきたときからずっと明るく全員に話をして盛り上げる菊池さん。対照的に、菊池さんのボケに適度にツッコミながら笑っているもう一人の男性と目が合った。

 向かい合う夏月さんと秋桜さんの席に付けて作った席に座っていたその人は、用意してもらった椅子をワイングラスの持っていない手で軽々と持ち上げ、私の隣に移動して来た。


「初めまして、葉山と言います。」


 何故か律儀に再度挨拶をされたあと、葉山さんがわざわざ私の隣に移動したことをみんなが囃し立てて顔が赤くなっていくのが分かる。


「…え、かわい。」


 他の人にはほとんど聞こえない小さな声で、私にだけ聞こえるように葉山さんがつぶやいた。


「わ!わたしも!少しだけそのワインいただいてもいいですか!?」


 葉山さんの男を感じるセリフに驚いたと同時に、聞かなかったフリがしたくて、思わず飲めるはずのない赤ワインを指差して、そう言った。自分でも動揺が隠せていないことにまた赤面してしまいそうだ。


「あ、じゃあ冬優ちゃん一緒にジンジャーエールで割らない?私も明日仕事だから浮腫むとやだし。」


 助け舟を出してくれたのは、小春さんだった。


「赤ワインをジンジャーエールで割ると美味しいし飲みやすいよ。」


 大学生のとき、よく一緒に飲んだよね~と、小春さんが秋桜さんに話を振ると、菊池さんが「お二人って大学からの付き合いなんすか!?」と話が移ってくれ、内心ホッとする。


「…すみません。」


 私を動揺させた自覚があったのか。また周りに聞こえないくらいの小さな声で、葉山さんはイタズラっぽく私に謝った。


「からかってます?」


「…ねえ、先に連絡先教えてくださいよ。」


「聞いてます?からかわないでください。」


「どうせ、別れ際にみんなでグループライン作ることになりますって。」


 女の扱いに慣れているこの男に、連絡先を教えてしまうのは危険だと、むやみに近づきすぎるなと、頭の中で警告音が鳴っていた――。

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