醜いのは。
「なあ、真美ちゃんって可愛いよな」
「そうだよね」
クラスの中で一番顔が良いと言われている直哉君がクラスの委員長である真美を見ながらうっとりしている。
「お前には無理だろうけど俺ならチャンスはありそうだな」
「無理って?」
「いや、顔だよ。わかんだろ?俺はイケメンだけど、お前はぶさいくじゃん」
「ははは、確かに直樹君ってほんとかっこいいよね。モデルやってるって言われても驚かないよ」
「褒めるな褒めるな、嫉妬するのは分かるけどな」
直樹君は手鏡を見ながら髪を弄っている。
授業が終わるたびに休憩時間中はずっとだ。
そういう努力が外見に滲み出てるんだろうなと思う。
「やっぱ、真美ちゃんもイケメンが好きだよな。俺レベルになると女なんて選び放題なんだよ。ぶさいくはつらいよな」
「少し羨ましいよ。でも、僕は一途なタイプだから、モテなくてもいいかな」
「ぶさいくはつらいよな。意地を張るしかなくて。お前女子と付き合ったことあんの?」
「うん、実は今付き合ってる子がいるんだ」
そう言うと、直樹君は椅子から派手に転んだ。
「嘘だろ?まじ?物好きもいるんだな。まあ、相手もぶさいくなんだろうけど、良かったじゃん。そいつ大事にしろよ、もう二度と彼女なんてできないだろうからよ」
「当たり前だよ。出来るならこの先ずっと一緒にいたいと思ってるんだ」
「そうかそうか。俺は本気で心配してたんだぞ。お前には一生彼女ができないんじゃないかって」
倒した椅子を戻して僕の肩をたたきながら座った。
「それでよ、話は戻るけど、俺さ真美ちゃん狙ってんだよね。今日告白しようと思うんだけど、どう思うよ」
「そうなんだ。うん、頑張ってね」
「なんか上から目線だな。無理もないか、お前みたいなぶさいくじゃ告白しようとすら思わんか」
ガシャン。
音がするほうを見ると。真美が筆箱を落としたみたいで、前のめりになって拾おうとしていた。
「ひゅ~。もう少し屈んでくれれば見えそうだぜ」
直樹君も体を倒して露骨に覗き込もうとしていたところを、振り返った真美が気づきスカートを片手で押さえた。
「くっそー。気づいたか。まあ、俺はこの後好きなだけ見れるんだけどな。ぶさいくはつれえよな。こういう突発的なトラブルでもないと一生目にする機会がないもんな。ああ、一応彼女いるんだっけ?俺はぶさいくの奴のなんて願い下げだけどな」
放課後、学校が終わると「行ってくるわ」と言って直樹君は真美のほうへ歩き出していった。
「おい真美、俺の彼女にならね?この後暇だからよ、俺の家寄ってけよ」
「それ告白のつもりなの?悪いけれど私既に彼氏いるから」
「えっ?あっ、そうなんだ……。いや、当然か、お前めっちゃ可愛いもんな。彼氏が羨ましいぜ」
そういって真美は僕のほうへと鞄を持って歩いてきたので、僕も急いで帰る準備をして席を立った。
「行きましょ、明日は休みだから私の家に泊まっていくでしょ?」
「は?おい、お前ら何の話してんだよ?ぶさいくと真美が一緒に泊まる?」
僕は真美と横に並んで教室を出る間際に直樹君を振り返った。
「実は僕の付き合ってる人って真美なんだ」
棒立ちになり固まった直樹君を置いて、僕は教室のドアを閉めた。