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6.バイト


「あの、私のこと覚えていますか?」



「え」



俺と彼女は前にあったことがあるようだ。それもそうか。自分の容姿は悪くはないが、イケメンでもない。こんな子が俺の見た目に一目惚れするはずはないのだ。きっと何かしらあったのだろう。


しかし、困った。何も思い出せない。だが言われてみれば彼女はどこか懐かしい気分にさせる。多分。いや、今言われてから感じてるけど。



「覚えてないですよね」



彼女の整った眉毛がハの字になる。



「ごめん覚えてない……。どこかで会ったことあるの?」



「覚えてないならいいです」



すこしだけふてくされてるように見えた。



「ご、ごめんごめん! で、でも池田さんと話してると懐かしい気分になるな〜。って思っていたんだ! 前にあったことあったからなんだね!」



懐かしい気分になったのはついさっきだが、あたかも前から思っていた風に慌てて弁解する。



「ふふ。慌ててる藤井さんを見ていたら少し緊張がなくなりました。前回はきらわれてると勘違いさせるような態度をとってすみませんでした」


そう言う彼女からは確かに緊張を感じなくなっている。覚えていなかったのは申し訳なかったが緊張が解けたのなら結果オーライかもな……。


「大丈夫だよ!それより、慌てる俺を見て緊張をなくすなよ」


笑いながら彼女にツッコむ。





話してるうちにバイト10分前。



「そろそろ行こっか」



「はい。あ、前回は出勤登録店長にしてもらったんですよ。どうやるんですか?」



いや、店長登録するときに教えろよ。



「ここを押して、自分の名前をクリックして登録すればOKだよ。見てるからやってみて」



彼女がパソコンに近づくと必然的に俺との距離が近くなる。


彼女は中腰でパソコンに手をかける。


あ、俺の椅子に座らせてあげればよかったな。まぁすぐ済むからいいか。


ゔ。良い香りがする。彼女の匂いだ。香水の香りではない。柔軟剤かな?この匂いは初めてだ。


これはダメだ。頭がクラクラする。脳内麻薬ってやつだろうか。


嘘か本当か、自身と相性の良いDNAを持つ異性の匂いは特別良い匂いに感じると言う話を聞いたことがある。


彼女がそうとでも??いや、彼女程の人間が俺なんぞと釣り合うはずがない。というか、JKの匂いを嗅ぐ成人男性の俺きもちわるすぎるな。


彼女が出勤登録できたのを確認してロッカールームを出た。



「じゃあ、まずは挨拶の練習ね。俺が言うことをを復唱してね」



「はい」



「いらっしゃいませ! おはようございます!」



「いらっしゃいませ。おはようございます」



彼女は小さな声で発した。



「んー。ちょっと声小さいかな。あと、当たり前だけど朝はおはようございますだし、昼はこんにちは、夜はこんばんは、だからね!もう一度ね」



「はい」



「おはようございます! こんにちは!」



ん?俺何言った?彼女以外のバイト2人がレジで笑い出した。



「そ、それも復唱した方がい、いいですか……」



彼女は必死に笑いを堪えているが堪えきれていない。



「いや、それもう笑ってるからね!!」



自分の顔が赤くなるのがわかる。真剣に教えようとして間違えた時はかなり恥ずかしい。


いつもならこんな言い間違えはしない。池田さんのせいで調子が狂っているのか……。それとも風邪気味だからだろうか……。


彼女は笑っている。こいつ、こんな笑いやがって本当に俺に気があるのか……。


失敗して恥ずかしい思いとは裏腹に彼女が笑っているところを見ていると嬉しい気分になった。



気を取り直して一通りの仕事を教えていく。少しだけ頭が痛い。


仕事を教えていくうちにわかったのは彼女はあまり物覚えがよくない。だが、お客様一人一人への対応を見ると彼女がどれだけ誠実でまっすぐな人間か、わかった。あと、普通にコミュニケーションが苦手である。全員にではない。異性とのコミュニケーションが苦手なんだと分かった。


ん?彼女が俺に言った"緊張して話せなかった"は好意の裏返しだと思っていたがそうゆうわけではないのか?




仕事を終えた2人は前回同様ロッカールームで2人きりになる。



「前回は嫌われてると思ってたから二人になった時気まずかったんだよね……」



「そ、そんなわけないです!」



彼女は焦って否定する。



「男の人が苦手だから、最初俺と話す時もたどたどしかったの?」



俺と話すのが他の男性と一緒の理由だとしたらこの子が俺に気があるという考えはただの妄想だ。だとしたら悲しい。

って、なんで俺はいつの間にか池田さんに好いてほしいと思っているのだろう。付き合う気はない。どちらでも良いではないか。



「男性は確かに苦手です。でも藤井さんは緊張です。苦手なわけないです。むしろ…」



俺は心の中で小さくガッツポーズをした。



「そうなんだ! でも普通に話せるようになってよかった! 今日はもう帰ろっか」



彼女はまだ何か言いたげだったが俺はさっきの一言で満身創痍だ。



「そうですね。おはようございます。こんにちは」



彼女は話を聞こうとしない俺に不満があったのか今日のことを微笑みながらからかってきた。



「うるさいよ」



俺も笑いながらツッコむ。



「では、お疲れ様です。またよろしくお願いします」



「お疲れ様! またね!」



頭痛はあったが俺は軽い足取りでバイト先をあとにした。











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